53 風山漸

53 ふうざんぜん


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ミートボール屋のガイコツ
「おつかれさん。」

カエル
「はい。おつかれさん。」

ミートボール屋のガイコツ
「バッタ食え、バッタ。」

カエル
「ありがと。」

茶番をトばす。

ミートボール屋のガイコツ
「ヒマ?」

カエル
「今忙しい。」

ミートボール屋のガイコツ
「珍しいな。」

カエル
「うん、珍しい。」

ミートボール屋のガイコツ
「なんか手伝うか?」

カエル
「いや、いいよ。今日は店出さなくていいのか?」

ミートボール屋のガイコツ
「今日はバイトさん達に出て貰ってる。」

カエル
「雇ったのか。忙しかったもんな。」

ミートボール屋のガイコツ
「まあね。」

カエル
「キミもエラくなったね。」

ミートボール屋のガイコツ
「キミのおかげさ。」

カエル
「確かに。」

ミートボール屋のガイコツ
「? 思えば長い道のりだったな。」

カエル
「コンビニのアルバイトからだっけ?」

ミートボール屋のガイコツ
「よく憶えてるね、そんなこと。大事なことはすぐ忘れるのに。」

カエル
「最近よく昔の事を思い出すんだ。」

ミートボール屋のガイコツ
「えぇ…。」

カエル
「なんだか頭脳明晰な時間が増えて来てるみたいだ。」

ミートボール屋のガイコツ
「大丈夫かよ。」

カエル
「何が?」

ミートボール屋のガイコツ
「普段脳ミソ使わないヤツが急に使うと死ぬって言うぜ。」

カエル
「初耳なんですけど。」

カエル
「でも確かに思い出せば思い出すほど、何か肝心な事を忘れていってしまうような。」

ミートボール屋のガイコツ
「なんか悩みがあるなら相談乗るけど?」

カエル
「ねえよ、そんなもん。」

ミートボール屋のガイコツ
「まあまあ、話して見ろって。気晴らしくらいにはなるかもしれないぜ。」

カエル
「実は仕事してるのにすげえ話し掛けてくるヤツがいるんだ。」

ミートボール屋のガイコツ
「もうちょいしたら帰るってよ。」

カエル
「ヒマなの?」

ミートボール屋のガイコツ
「ヒマなんだよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「でもオレがここまで、ミートボール王の領域までのし上がったのもキミの助力があったからこそだぜ?なにか必要な事があるなら言ってくれよ。」

カエル
「誰がミートボール王なんだよ。調子乗んなよ。」

カエル
「それに、助けて貰ったのはオレの方だよ。」

ミートボール王のガイコツ
「記憶にねえな。」

カエル
「オレらの付き合いも無駄に積み重なっちゃったからな。」

ミートボール王のガイコツ
「忘れる事もあるよな。」

ミートボール王のガイコツ
「でもいつか、いつかオレが遠いところに行っちまってもキミの事は忘れないからな。」

カエル
「わかったよ。オレもキミの事はたまに思い出すようにするよ。」

ミートボール王のガイコツ
「いつになるか分かんないけど、いつかオレが遠いところに行っちまってもキミの事は忘れないからな。」

カエル
「わかったよ、しつけえな。なんで何回も言うんだよ。」

ミートボール王のガイコツ
「ヒマなんだよ。」

カエル
「ヒマなら仕事して来いよ。王さま。周りが忙しそうだからってちょっと不安になってんじゃねえよ。」

ミートボール王のガイコツ
「明日の仕込みしてこよっと。」

カエル
「おう行け行け。」

ミートボール王のガイコツ
「じゃあまたヒマ見て来るわ。」

カエル
「またね。」




風山漸
ふうざんぜん


山の上の一本の木(巽)。
漸はようやく。段階を踏み、時間をかけてゆっくりと進む事。
山の上に立つ大木も、最初は小さな木の芽から。
少しづつ、少しづつ長い年月を乗り越えて、いつしか誰もが望み、誰も手の届くことの無い山上の大木に漸く成ったのだ。
めでたしめでたし。

火地晋や地風升に続くのぼり進むシリーズ。
その中でもこの風山漸は特にゆっくりと、確実に進む。

日々の地道な精進と努力、目標に向かって一歩一歩進んで行った結果を山の上の一本の立派な大木に例えてる。
成し遂げた人間の結果論ではなく、それぞれがのぼり進んで来た人生の結論。
一つとして同じ形の無い数多の山上の大木。数多の幸福論。


卦辞

漸。
女帰に吉。貞に利ろし。

ぜん。
じょとつぐにきち。ていによろし。

女性が嫁いでいく。
間違いの無いように順を追って進むので吉。
正しい道を守っているので良い。

大人の階段を一段一段上がっていくように、本を1ページ1ページ読み進めるように、建築足場を下から順に組んで行くように順序を守って一つ一つ。
とはいえ自分だけ積み重ねてもしょうがないのが辛いところ。

結婚も仕事も日常も、誰にもジャマさせないのが大前提。

三陰三陽の卦。


爻辞

鴻(こう。水鳥の一種)が水辺から大空に飛んで行く話。
乾為天の龍が天に昇る話に似てるけど、こっちは女性が理想の結婚生活を目指す姿勢に例えている卦なので結末は真逆。


初爻

鴻、干に漸む。
小子厲うし。
言有るも咎无し。

こう、みぎわにすすむ。
しょうしあやうし。
ことあるもとがなし。

鴻が水際に進む。
若く幼いので危うい。
多少文句を言われる事もあるが、咎められない。

若者が恐る恐る社会に出る。
オマエ若いんだからもっとこう、ガーと行ってバーンとやれよっ。などと挑発的な物言いをされても、自分の未熟さを自覚している賢い若者なので危険は無い。


二爻

鴻、磐に漸
飲食衎衎たり。吉。

こう、いわおにすすむ。
いんしょくかんかんたり。きち。

鴻が岩の上に進む。
飲食をして楽しむ。吉。

危険の無い安全地帯で一休み。
ハメを外さないように適度に楽しむ。


三爻

鴻、陸に漸む。
夫征きて復らず。
婦孕みて育わず。
凶なり。
寇を禦ぐに利ろし

こう、りくにすすむ。
ふゆきてかえらず。
ふはらみてやしなわず。
きょうなり。
あだをふせぐによろし。

鴻が平地に進む。
夫は行ったきり帰って来ず。
妻は子供を育てない。凶。
安全な場所で外敵から身を守ると良い。

見晴らしは良いが周りからも目を付けられやすい平地は水鳥にとっては危険な場所。
なんだかんだ既婚男性はモテるし、主婦もストレスが溜まるって事だろうか。逆もまた然りか。
家庭に居場所のない知人が数人頭に浮かぶ。

大変だな、結婚生活って。この世界に僕たち二人だけならいいのにって。


四爻

鴻、木に漸む。
或いは其の桷を得。
咎无し。

こう、きにすすむ。
あるいはそのたるきをう。
とがなし。

鴻が木の上に進む。不安定な木の上で平らな部分に止まる。咎められない。

水鳥にとって木の上も不利。水かきがジャマで枝を掴めないから。
何とか平坦な部分を見つけて互いに支え合い、依存し合い羽を休める。
安全とは言えないが外敵に狙われないだけマシ。


五爻

鴻、陵に漸む。
婦三歳孕まず。
終に之に勝つこと莫し。
吉。

こう、りょうにすすむ。
ふさんさいはらまず。
ついにこれにかつことなし。
きち。

鴻が高い丘の上に進む。
邪魔者が現れて夫婦は三年間子作りが出来ないが、最後まで邪魔者が勝つことは無い。
吉。

さすがに長年培ってきた信頼と思い出は強い。


上爻

鴻、逵に漸む。
其の羽用て儀と為すべし。
吉。

こう、きにすすむ。
そのはねもってぎとなすべし。
きち。

鴻が大空に進む。
隊列を崩さずに、一つも欠けることなく飛ぶ姿を手本にする事。
吉。

漸く大空へ飛び立つに至る。
誰でも望んで手に入れられるものじゃないので誇っても良い。
ハッピーエンドと言わざるを得ない。


コメントを残す