52 艮爲山

52 ごんいさん


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ミートボール屋のガイコツ
「おつかれ。」

カエル
「おつかれ。」

ミートボール屋のガイコツ
「何ってんの?」

カエル
「別になんにも。」

カエル
「なんか飲む?」

茶番をトばす。

ミートボール屋のガイコツ
「コーラ貰うよ。」

カエル
「コーラ無い。」

ミートボール屋のガイコツ
「じゃ、お茶で。」

カエル
「ん。」

ミートボール屋のガイコツ
「ありがと。」

カエル
「今日は休み?」

ミートボール屋のガイコツ
「休み。」

カエル
「たまにはゆっくりしなって。」

ミートボール屋のガイコツ
「そうしたいけどこの後ちょっと予定があってね。」

カエル
「休みじゃねえじゃん。」

ミートボール屋のガイコツ
「ちょっとサイコロ貸して。」

カエル
「ん。」

ミートボール屋のガイコツ
「…。」

カエル
「いつになく真剣な眼差し。」

ミートボール屋のガイコツ
「…出ました。」

カエル
「はい。」

ミートボール屋のガイコツ
「これは。」

カエル
「艮為山か。」

ミートボール屋のガイコツ
「山か。山の様に、オレの様に気高く、堂々と進めよって事だな。占うまでもなかったな。」

カエル
「全然違う。風景画に書いてある山みたいに何もしないでただただそこにいろって事だよ。」

カエル
「何占ったの?」

ミートボール屋のガイコツ
「ヒミツ。」

カエル
「変爻は二爻と四爻。艮は鼎に之く。」

ミートボール屋のガイコツ
「という事は?」

カエル
「何占ったか分からないからなんとも。運勢はいいんじゃないか?ただ私情を挟むなってよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「私情ね…。」

カエル
「またお節介?」

ミートボール屋のガイコツ
「そんなもん。」

カエル
「まあ、私情を挟むなと言うか、あんまり我を出さないようにさ、裏方とかでちょうどいいんじゃないか?」

ミートボール屋のガイコツ
「そうか。」

カエル
「興味無さそうにしてさ、別にオレじゃなくてもいいけど。みたいな顔でさ。」

ミートボール屋のガイコツ
「なんか寂しい卦だな。ちょっとでもアピールしちゃダメなの?」

カエル
「ダメだね。オレのように自然体で、己を滅し。風景に溶け込むんだ。キミが誰かなんて周りの人が決めることだ。キミの自分で考えたセールスポイントなんてどうだっていいよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「エラそうに。キミのはただボーっとしてるだけだろ。もうちょっとカエルらしくピョコピョコ飛び跳ねてろよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「あれ?なんか、目がおかしい。キミの輪郭がボヤけて、薄れて、なんだこれ。」

ミートボール屋のガイコツ
「あれ?カエルがいねえ。さっきまでそこにいたのに?」

ミートボール屋のガイコツ
「どこ行った?」

カエル
「ここだ。」

ミートボール屋のガイコツ
「あっ、出てきた。」

カエル
「今まで黙ってたけど、これがカエル様の保護色よ。」

ミートボール屋のガイコツ
「すげえな。全然知らなかった。まさかキミにそんな特技があったとはね。」

カエル
「カエルにとって当たり前の事を特技と言っちゃうのも、キミが元人間だからなんだろうな。」

ミートボール屋のガイコツ
「今も人間だよ。死んでるだけさ。」

カエル
「そういうところもさ。嫌いじゃないけどね。」

ミートボール屋のガイコツ
「全然わからん。説教やめてほしい。」

カエル
「まあ、あんまり出しゃばるなって事。」

ミートボール屋のガイコツ
「わかったよ。帰るわ。」

カエル
「またね。」




艮爲山
ごんいさん


八純卦の一つ。艮を二つ重ねた形。
連なる山々。風景としての山々。
天雷无妄とは別路線の静かで無作為な自然の在り方。
無垢にして無我。無常にして無防備。それを無意識に切り取り、表題を付ける人間の知性と感性。

富士山は山だ。
富士山て名前をつけたのは富士山を認識した人だ。
壮大とか霊峰とか縁起が良いとかは人の感想であり信仰だ。
富士山は人からそう呼ばれたくてあの形になったわけじゃない。
人が意識するずっと前から静岡と山梨の間でただ山として存在してた。

易もそうだ。
儒教の経典になるずっと前から、姫昌(後の文王)が六十四卦に卦辞を記すずっと前から、人が占いに利用するずっと前から、人がそう呼ぶ前から太極も八卦もずっと存在してた。

本当はどう見られたかったんだろう。山も、易も。


卦辞

其の背に艮まり、其の身を獲ず。
其の庭に行きて其の人を見ず。

咎无し。

そのせにとどまり、そのみをえず。
そのにわにいきてそのひとをみず。
とがなし。

人体の中で一番動かない背中のように私欲を持たない。
人々の集まる庭に行っても人が目に入らない。
咎められない。

人の事も気にならないし、自分が人にどう見られても気にならない。
全くの自然体。山のように揺るがない意思と薄い人間味。非難はされないが、ちょっと寂しい。

それを本心で望んでないから吉でもないのか。そりゃそうだ。陰陽の羅列、バーコードに文章書いて残しちゃう人だものな。


爻辞

静と動。制御と狂騒。


初爻

其の趾に艮まる。咎无し。
永貞に利ろし。

そのあしにとどまる。とがなし。
えいていによろし。

足を止め、その場にとどまる。咎められない。その姿勢を末永く維持。

止まりたい時に止まり、動きたい時に動く。


二爻

其の腓に艮まる。
其の随うを拯わず。
其の心快からず。

そのこむらにとどまる。
そのしたがうをすくわず。
そのこころここちよからず。

ふくらはぎを止める。
なかなか言う事を聞いてくれず、不愉快な思いをする。

ふくらはぎは股や腰に連動して動く物なのでふくらはぎを軸に止める事は出来ない。
要は主導権を別のなにかに奪われてる。


三爻

其の限に艮まる。
其の夤を列く。
厲うくして心を薫す。

そのげんにとどまる。
そのいんをさく。
あやうくしてこころをいぶす。

腰が止まる。
その状態で動こうとすれば背骨を傷める。
危険を感じて心も落ち着かない。

結局は足腰。腰が機能していないと背骨だけじゃなく色々な部位に影響が出る。


四爻

其の身に艮まる。咎无し。

そのみにとどまる。とがなし。

止まるところに身を止める。
咎められない。

在るべきところに在るだけ。
居るべきじゃないところに居ないだけ。


五爻

其の輔に艮まる。
言うこと序有り。
悔い亡ぶ。

そのほにとどまる。
いうことじょあり。
くいほろぶ。

その口を止める。
必要以上に口は開かない。
後悔は無くなる。

モテたい時はすげえ喋ったほうが良い。


上爻

艮まるに敦し。吉。

とどまるにあつし。きち。

止まる時にしっかりと止まる。吉。

それが出来るのはタイミングを事前に知っているから。
自身をちゃんと制御出来るから。


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