54 雷沢帰妹

54 らいたくきまい


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ミートボール王のガイコツ
「これが今月の納品分?」

カエル
「頼むわ。」

ミートボール王のガイコツ
「こっちが治したヤツ?」

カエル
「うん。また適当なところに置いて来て。」

茶番をトばす。

ミートボール王のガイコツ
「またいっぱいあるね。」

カエル
「流石にイヤんなった。」

ミートボール王のガイコツ
「愚痴るなよ。」

カエル
「ありがたいけどね。」

カエル
「そういやあのおねえちゃん、キミのトコでバイトしてんだって?」

ミートボール王のガイコツ
「そうそう。言い忘れてたよ。」

カエル
「楽しそうじゃん。」

ミートボール王のガイコツ
「いやいや。」

カエル
「里帰りに行ったんじゃなかったのか?」

ミートボール王のガイコツ
「いや、山の向こうの未亡人の娘さんだったんだ。」

カエル
「へー。妙な偶然。」

ミートボール王のガイコツ
「ホントよく出来た話だよね。」

カエル
「ね。」

カエル
「で、しばらくいるの?」

ミートボール王のガイコツ
「いや、そんなに長く居れないみたいな事は言ってた。ダンナが心配するからってよ。」

カエル
「結婚してるのか。」

ミートボール王のガイコツ
「うん。」

カエル
「残念だったな。」

ミートボール王のガイコツ
「何がだよ。オレに言わせりゃ孫みてえなモンだよ?そんな気起きねえよ。」

カエル
「へー。ならもう新しいバイト探し始めた方がいいんじゃないか?」

ミートボール王のガイコツ
「いや、そのお母さんもバイトしてる。」

カエル
「は?金たんまり持ってんじゃないの?」

ミートボール王のガイコツ
「いや、一回街で働きたかったんだってよ。」

カエル
「めちゃくちゃ心配されてんじゃねえかよ。変な気起こさないようにつって。」

ミートボール王のガイコツ
「されてねえよ、失礼な。和気あいあいと仕事してるわ。」

カエル
「あれちょっと待って?」

ミートボール王のガイコツ
「?」

カエル
「と言うことはキミは今、子連れの未亡人と人妻と一緒に働いてんの?」

ミートボール王のガイコツ
「まあ、言い方がちょっと気になるけど、そうなるな。」

カエル
「エロいー。」

ミートボール王のガイコツ
「オマエだ、エロいのは。なんで仕事が忙しいとエロくなるんだよ。」

カエル
「ハーレム気取りかよ。トシ考えな。」

ミートボール王のガイコツ
「ひがんでんのか?ホントにそんなんじゃないんだって。」

カエル
「最近どうも頑張ってると思ったらそっちのミートボールの話だったとはね。」

ミートボール王のガイコツ
「口の聞き方に気を付けな、エロガエル。オレはやってもねえ事をやってるように言われるのが一番嫌いだしツキが落ちるんだよ。」

カエル
「これですよ、とぼけて。」

ミートボール王のガイコツ
「表に出ろよ。全身鈍器だぞこっちは。カエル一匹ミンチにするくらいワケねえぞ。」

カエル
「なんで?」

ミートボール王のガイコツ
「は?」

カエル
「表には出ねえ。」

ミートボール王のガイコツ
「は?」

カエル
「絶対に表には出ません。ケンカも、しません。」

ミートボール王のガイコツ
「なんなのコイツ。」

カエル
「自慢じゃないけどオレ、ケンカクソほど弱いからな?もしオレに手ぇ出したら弱いものいじめになるけど大丈夫か?キミの尊厳は?」

ミートボール王のガイコツ
「命乞いも出来ねえとはね。呆れるぜ。」

カエル
「ところで全然話は変わるけど、その中途半端な環境は誰に何を思われてもしょうがないと思うぜ。人の想像は、自分が想像してて欲しい事の斜め上だ。踏み込めないなら離れてな。」

ミートボール王のガイコツ
「話変わってねえじゃねえかよ。わかってんだよ。気にしてんだよ。だからこうしてここやパチンコ屋で時間潰してんだろ。」

カエル
「一つ名案がある。」

ミートボール王のガイコツ
「?」

カエル
「その未亡人とキミがくっつけば良いんだよ。」

ミートボール王のガイコツ
「さっき離れてろって言われた気がしたんだけど。」

カエル
「骨だから踏み込めない?」

ミートボール王のガイコツ
「それもあるけど、」

カエル
「あるけど?」

ミートボール王のガイコツ
「とにかく、今が一番良い付き合い方なんだよ。」

カエル
「男らしくないね。」

ミートボール王のガイコツ
「ほっとけよ。パチンコ行って来るわ。」

カエル
「またね。」




雷沢帰妹
らいたくきまい


沢雷随は自然の摂理に従って勢いを弱めてそのナリを潜める秋の稲妻の卦だったが、この卦は静かなはずの秋空(兌)に雷が鳴り響く。
あるいは激しく鳴り響く雷の震動で波を打つ沢の水面。
不穏。違和感。出鱈目。台無し。

帰妹。帰は嫁ぐ事。妹は若い女性の事。
世間知らずの若い女の子が、年上の男性の元へ嫁いで行く。風山漸のような貞節や清らかさはそこには無く、あるのは盲目的な愛と劣情。幼く拙い損得勘定。誰がその子の親でも止めたくなるくらいの破滅への衝動。
その親の物差しすらも帰妹の断片。その線上。

三陰三陽の卦。


卦辞

帰妹。
征けば凶。
利ろしき攸无し。

きまい。
いけばきょう。
よろしきところなし。

進めば凶。一つも良い事無し。

卦辞を書いた本人すらも多くを語れないデリケートな卦といった印象。
確かに正式な手続きを踏まない結婚が、眉をひそめられる程の年の差婚が、男尊女卑と非難されてもしょうがないハーレムや一夫多妻が正道ではない事は何となく解るけど、そんなに面と向かって「凶」と言われる程凶だろうか。

愛情の在り方なんて十人十色だし、それで利害も一致して、生活が出来てるんなら別に他人が口出しできる領分じゃない。法に触れるのは論外だけど。

まあ、その後の血筋や環境で生まれ育った子供の限定された将来や、すり減った可能性とその連鎖の事を考えての「凶」なんだろうか。それ言い出したらキリがないか。

なんて事をゴチャゴチャゴチャゴチャと考えるからオレは結婚出来ないんだろうなとも思うし、恋愛や結婚なんて誰にも指図されないで好きにやれよって思っちゃう自分がいるのも確か。そんな卦。出鱈目にして台無し。よろしきところなし。


爻辞

不遇の中での心構え。不自由で不器用なヤツら。不遇前提なのがまた涙を誘う。


初爻

帰妹娣を以てす。
跛能く履む。
征きて吉。

きまいていをもってす。
あしなえよくふむ。
ゆきてきち。

正妻の後ろを妾として嫁いで行く。
足の不自由な人が健気に付いて行く姿。
進めば吉。

妾とかじゃなくても立場をわきまえる事は大事。


二爻

眇能く視る。
幽人の貞に利ろし。

すがめよくみる。
ゆうじんのていによろし。

目の不自由な人がその不自由な目で見る。
気配を殺し、波風を立てないことで自分を守る。

よく視る(視ない)。だらしない旦那と揉めるでもなく、別れるでもなく、ただ遠目でぼんやり眺めてる様を目の不自由な人に例えてる。


三爻

帰妹須を以てす。
反り帰ぐに娣を以てす。

きまいまつをもってす。
かえりとつぐにていをもってす。

考え無しがノリで結婚する。
すぐに破綻し出戻るが、今度は妾として嫁ぐ。

一周回って清々しい。どうでもいいけど妾になる前に一晩だけ付き合ってくれないか。


四爻

帰妹期を愆ぐ。
帰ぐを遅ちて時有らん。

きまいきをすぐ。
とつぐをまちてときあらん。

婚期を逃す。焦らず待てばその時が来る。

賢い女性が慎重さゆえに結婚の機会を逃す。それくらいがちょうどいいのが雷沢帰妹。


五爻

帝乙妹を帰がしむ。
其の君の袂は、
其の娣の袂に良きに如かず。
月望に幾し。吉。

ていおつまいをとつがしむ。
そのきみのべいは、
そのていのべいによきにしかず。
つきぼうにちかし。きち。

帝が家臣に妹を正妻として嫁がせる。
正妻の衣装が副妻の衣装より質素。
満月に近い月。吉。

帝乙は殷の時代の王様。満月ほど満ちていない月は謙虚さの例え。


上爻

女筐を承けて実无し。
士羊を刲きて血无し。
利ろしき攸无し。

じょきょうをうけてみなし。
しひつじをさきてちなし。
よろしきところなし。

女が受けた箱は空箱。
男の用意した血の枯れ果てた古い羊。
全然良くない。

无し三連。順を追わずに結ばれた男女。まやかしの結婚。幸せってなんだろ。


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