60 水沢節

60 すいたくせつ


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

無職のガイコツ
「久しぶり。」

カエル
「久しぶり。」

無職のガイコツ
「バッタ食え。」

カエル
「ありがとう。ちょうど腹減ってたんだ。」

無職のガイコツ
「コーラある?」

茶番をトばす。

カエル
「あるよ。」

無職のガイコツ
「貰うわ。」

カエル
「今日は仕事は?」

無職のガイコツ
「もうやめたんだわ。」

カエル
「そうか。一応聞くけどなんで?」

無職のガイコツ
「やめたと言うか、譲った。」

カエル
「ふーん。あのねえちゃんに?」

無職のガイコツ
「アイツはもう帰ったよ。山の向こうの母娘のほうだよ。」

カエル
「まあ、そうなるよな。」

無職のガイコツ
「元々ミートボールの作り方教えてくれたのはアイツらだし、安い時給だけ稼ぎに山から降りて来るのも大変だろうしな。」

カエル
「でも、もったいねえよな。」

無職のガイコツ
「飽きたんだよ。人の為だけに生きる退屈と、腰痛の日々に。」

カエル
「カッコつけてんじゃねえよ。そうじゃないんだろ?」

無職のガイコツ
「でも実際送り迎えも大変でさ。毎日毎日山と町を行ったり来たりだったからさ、だからいっそ引っ越して住み込みで働けよ、つってさ。」

カエル
「キミも一緒に暮らせばいいじゃん。元々キミが住んでたんだから。」

無職のガイコツ
「それは無理なんだわ。」

カエル
「わかってる。一応止めるフリしただけだから。」

無職のガイコツ
「…あ、そう。」

カエル
「で、もういいのか?」

無職のガイコツ
「何が?」

カエル
「アイツらが置いてきた家族だったんだろ?」

無職のガイコツ
「なんで知ってんの?」

カエル
「思い出したんだよ。」

無職のガイコツ
「何を?」

カエル
「全部。」

無職のガイコツ
「いつから?」

カエル
「ちょっと前。」

カエル
「ちゃんとごめんなさいしてきたのか?」

無職のガイコツ
「どうせ謝ってもオレだってわからないさ。」

カエル
「いじけんなよ。」

無職のガイコツ
「いじけてねえよ。キミの方こそ、身体はもう良いのか?」

カエル
「もうすっかり。キミのおかげさ。」

無職のガイコツ
「お互い様だよ。オレもキミのおかげでもう一度家族のツラ拝めた。家族って形ではなかったけどさ、感謝してるよ。」

カエル
「感謝されてもな。どうせ夢の中だぜ、ここ。」

無職のガイコツ
「夢じゃないさ、きっと。いつかのどこかのオレとキミの現実だよ、ここは。遠い未来か、あるいは古い古い昔の記憶か。」

カエル
「キミがいた時代のキミの見てる夢ってワケじゃないのか。」

無職のガイコツ
「知らんぞこんなとこ。キミの住んでたところじゃないの?」

カエル
「思い出そうとしても無理。いつからここにいたのかが思い出せない。」

無職のガイコツ
「オレも。」

カエル
「お互い身に覚えが無いなら夢って事にしたほうが都合よくないか?」

無職のガイコツ
「まあ、夢でいいか、別に。要は何でも都合よく揃ってるちょうどいい世界さ。」

カエル
「で、この夢から覚めたらキミとはもう会えないって事になるのか?」

無職のガイコツ
「どこで何してても会うんだろうけど、会ってもお互い憶えてないんじゃないかな。」

カエル
「ふーん。なんかさみしいな。」

無職のガイコツ
「まあ、雨降りの縁ってヤツさ。乾きと溺れ。死と再生。占いと指輪。玉座と雨傘。オレが雨を望まなければキミは現れないし、キミが雨に打たれなきゃオレには出会えない。」

カエル
「打たれるどころか死にかけてたんだけど。」

無職のガイコツ
「そう言うなよ、オレなんかもう死んでたんだから。」

カエル
「どこまで行ってもオレらはカエルとガイコツって訳ね。」

無職のガイコツ
「そういえばさ、話全然変わるんだけどさ、」

カエル
「ん?」

無職のガイコツ
「だいぶ遠い東から来たって言ってたけど、本当はその、なんだ、ひょっとして未来から来たのか?」

カエル
「なんで?」

無職のガイコツ
「人間がもう滅んでるって言ってた。」

カエル
「言ったっけ?」

無職のガイコツ
「言ったろ。」

カエル
「ああ、滅んでた。オレが生まれるずっと前に。」

無職のガイコツ
「話してくれた野バスの話は?空にぶら下がってる都や、壁に囲まれた街は?」

カエル
「あれは受け売りだよ。オレが体験したわけじゃない。人間の残した記録だ。オレは誰も居なくなった地上をただ歩いてただけさ。」

無職のガイコツ
「その記録を残したヤツも死んだのかな?」

カエル
「もちろん、とっくの昔にな。でもキミが生きてた時代よりはずーっと後の事だよ。」

無職のガイコツ
「ふーん。」

カエル
「つまりオレが未来から来たワケではなくて、オレがいる時代までキミの骨と、王冠が残ってたって事になるな。あと指輪もか。」

無職のガイコツ
「なんで?」

カエル
「キミが知らないんじゃオレだって知らない。」

無職のガイコツ
「そうか。」

カエル
「でも多分、大事にされてたからじゃないか?」

無職のガイコツ
「誰に?」

カエル
「その時代その時代の人間にさ。」

無職のガイコツ
「ただの骨だぜ。」

カエル
「そう見て貰えなかったんだろ。キミだって言ってたじゃん、その時その場所に居合わせたヤツの感性より大事な真実なんか無いんだって。」

無職のガイコツ
「言ったっけ?」

カエル
「言ったろ。」

無職のガイコツ
「…こんなヤツ大事に取っといてもしょうがねえだろうによ。」

カエル
「うれしそうじゃん。」

無職のガイコツ
「やめてよ。」

無職のガイコツ
「でも、ホントはね、ちょっとだけ、忘れて欲しくなかったのかもしれない。」

カエル
「…。」

無職のガイコツ
「…。」

無職のガイコツ「…そうだよな、大分時間が経ってんだものな…。」

カエル
「案外、キミの周りに人が集まってさ、街が出来て、国が出来て、そこで御神体とか言われてちやほやされてた時代もあったかもね。」

無職のガイコツ
「…そうだな。」

カエル
「また別の時代じゃさ、古代人の骨のサンプルですね、なんて言われてガラスケースの中にキレイに並べられてたりしてさ、」

無職のガイコツ
「…そうだな。」

カエル
「ずーっと雨乞いの道具に使われてたりしたら、笑えるよな。」

無職のガイコツ
「…そうだな。」

カエル
「それとも、誰かが見つけてくれるの待ってたのかな?キレイなお姉ちゃんとかにさ。」

無職のガイコツ
「…そうかもな。」

カエル
「もっと分かりやすいところに転がってれば良かったな。」

無職のガイコツ
「…そうだな。」

カエル
「…。」

無職のガイコツ
「…。」

カエル
「…雨、もうすぐ上がるな。」

無職のガイコツ
「…そうだな。」

カエル
「…。」

無職のガイコツ
「…。」

カエル
「…もう閉めるぜ。」

無職のガイコツ
「ああ、悪い。長居しちまったな。」

カエル
「お互い様だよ。」

無職のガイコツ
「帰るわ。」

カエル
「またね。」


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水沢節
すいたくせつ


水を湛えた沢。溢れず涸れず、誰がどう見てもちょうど沢。物事に定められた基準。それ以上ならそれではなくて、それ以下ならそれではない。

節は節目。一定の間隔で刻まれた竹の節目。物事をそれ以前とそれ以降に分ける明確な線。目盛り、区切り。

節度。節制。節約。節操。窮屈でかたっ苦しい言葉。でも何でもアリなら多分きっともっとつまらないだろう。

「どうぶつの森」。
現実世界と同じ時間の流れる村や島で、そこで暮らす人間みたいな動物達との交流や、季節ごとのイベント、魚釣りや虫取りや植物の栽培を疑似体験できるまったりスローライフゲーム。
スーパーマリオやポケットモンスターを生み出した任天堂の代表作の一つ。

そのちょっと不思議な世界観や、のんびりした雰囲気や、たまにドキッとさせられるオトナなテキストが大好きで、シリーズ通してずっと遊んできた大好きなゲーム。

でもこのゲーム、自分のペースでのんびり楽しむ為には、自分自身が割りと真剣にどうぶつの森で過ごそうと思わないとまったりスローライフが手に入らないようになってる。
まあそれは実社会でも大体一緒か。

このゲーム、ゲーム内の時間を操作出来るのだ。
花の種を植えたら花が咲くまで日付を進めればいいし、
店に欲しい品物が売ってなかったら店に並ぶまで日付を進め続ければいい。住民を入れ替えたかったら住民が引っ越したくなるまで日付を進めればいいし、
お金が稼ぎたかったら時間を操作出来るならどうとでもなる。

自然やどうぶつ達とのまったりスローライフを望んでいたはずが、なぜか効率化された作業をひたすらタイムアタックするバタバタエクストリームライフに変わり果てる。

残るのは結果だけ。なんの愛着も湧かないただいるだけのルックスの良い住人と、さして苦労もせずに作った写真映えするだけの部屋と島。当然飽きるのも早い。ゲームっぽい何かをやらされてるだけだからな。

そう、大切なのは満たされた沢そのものではなく、その沢が何で満たされているかなのだ。
等間隔に刻まれた目盛りそのものではなく、目盛りと目盛りのスキマに価値を見つける事なのだ。

これは最新作「あつまれどうぶつの森」(といっても三、四年前のゲームだけど)を一年間くらい現実時間でプレイした後、二年目以降を時間を操作してプレイして感じた事だ。
決して実社会からでもなく、水沢節からでもない、一人のどうぶつの森のファンとしての後悔の話だ。

もし今後最新作をプレイする機会が与えられたなら、その時は現実時間でとことん付き合おうと思う。

三陰三陽の卦。基準と制約の卦。その本質は、あらゆる価値は自分の物差しで決めろってことなのかも。


卦辞

節。
亨る。
苦節は貞にすべからず。

せつ。
とおる。
くせつはていにすべからず。

節度を守っているので順調に進む。
自身が苦しむほどの厳しすぎる節度には固執してはいけない。

何事も厳しすぎず緩すぎず、辛すぎず甘すぎず、与えすぎずもらいすぎず。それが出来れば苦労は無いか。
周りの節度に合わせたりはないか?
それならちょっと疲れないか?
オレが案じる事でもないが。

簡単に言うとちょうど良くやれ。
厳し目に言うと自分で決めろ。
自分で図った自分で在るなら、痛い目見たって良いじゃないか。
誰かに測られた自分で在るより、自分を謀った自分で在るより、生きてるように思えないか。
苦節を貞にすべからず、うつつも貞にすべからず。
それを勝手に測るなよ、オレが掘った墓穴をよ。(?)


爻辞

どっちかと言うと、良くも悪くもない。


初爻

戸庭を出でず。
咎无し。

こていをいでず。
とがなし。

自分の敷地から出ない。咎められない。

自分の力の弱さを自覚して、安全なところに。


二爻

門庭を出でず。
凶。

もんていをいでず。
きょう。

外に出なければいけない時に外に出ない。凶。

連れ出してくれる人もいない。


三爻

節若たらざれば則ち嗟若たり。
咎无し。

せつじゃくたらざればすなわちさじゃくたり。
とがなし。

快楽に溺れ嘆き悲しむ。その事を改めて反省する。咎められない。

それの繰り返し。それがちょうどいい。


四爻

節に安んず。
亨る。

せつにやすんず。
とおる。

目上の規則に従順になる事で安穏を得る。順調に進む。

波風を立てないスタンス。


五爻

節に甘んず。吉。
往きて尚ばるる有り。

せつにあまんず。きち。
ゆきてたっとばるるあり。

節約、節制を楽しむ。吉。その事で高い評価を得る。

節約上手。敬意を表する。


上爻

苦節は、貞なれば凶。
悔い亡ぶ。

くせつは、ていなればきょう。
くいほろぶ。

厳し過ぎる規律。度が過ぎる節制。それに固執すれば凶。後悔は無い。

それで良いなら止めないが、とりあえず笑ってあげる。


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