59 風水渙

59 ふうすいかん


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ミートボール王のガイコツ
「よお。」

カエル
「元気無いな。」

ミートボール王のガイコツ
「まあな。」

茶番をトばす。

カエル
「なんだよ、その物憂げな表情は。」

ミートボール王のガイコツ
「似合う?」

カエル
「似合うよ。」

ミートボール王のガイコツ
「ありがと。」

カエル
「ヒマなの?」

ミートボール王のガイコツ
「今日はな。」

カエル
「何かあったの?」

ミートボール王のガイコツ
「指輪。」

カエル
「は?」

ミートボール王のガイコツ
「これ。」

カエル
「またか。今度はどこで拾ったの?」

ミートボール王のガイコツ
「トラック整備に出して戻ってきた時に整備士の人に渡された。」

カエル
「整備士の人がくれたの?」

ミートボール王のガイコツ
「いや、タイヤに挟まってたんだと。」

カエル
「ふーん。ボロボロだ。」

ミートボール王のガイコツ
「いつからだろ。」

カエル
「そのトラック買ってからだから、ココと公園の間かな?」

ミートボール王のガイコツ
「いや、中古で買ってんだから買う前からかも。」

カエル
「んじゃあもうわかんないね。」

ミートボール王のガイコツ
「ね。」

カエル
「交番に届けて来なよ。」

ミートボール王のガイコツ
「そうしなきゃいけないんだけどさ、ちょっとな。」

カエル
「今までの指輪も持ち主すぐ見つかったしな。この指輪もまたすぐに持ち主が現れそうだしな。ここで落とし物として預かっといたほうが良いか?」

ミートボール王のガイコツ
「いや、コレはオレが持っとくよ。」

カエル
「そうかい。」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

カエル
「その指輪の事を考えてたら元気が無くなったのか?」

ミートボール王のガイコツ
「別に、最近どう?」

カエル
「何が?」

ミートボール王のガイコツ
「忙しい?」

カエル
「ヒマだよ。そっちは?」

ミートボール王のガイコツ
「まあまあかな。」

カエル
「良かったじゃん。そこそこ儲かってんだろ?」

ミートボール王のガイコツ
「まあな。」

カエル
「不満そうだな?」

ミートボール王のガイコツ
「平和なのさ。」

カエル
「占ってやろうか?」

ミートボール王のガイコツ
「珍しいじゃん、キミの方から言い出すなんてさ。」

カエル
「気晴らしだよ。」

ミートボール王のガイコツ
「優しいのね。」

カエル
「キミにだけは特別さ。」

ミートボール王のガイコツ
(何言ってんだコイツ。)

カエル
(オマエだよ。何言ってんだコイツみたいな顔すんなよ。)

カエル
「ほら、風水渙。変爻は初爻。」

ミートボール王のガイコツ
「…散らすか。」

カエル
「散らすだな。」

ミートボール王のガイコツ
「何を?」

カエル
「なんだろ?流れが変わるって意味もあるし。」

ミートボール王のガイコツ
「良くも悪くも一つの終わりか。」

カエル
「心当たりあるか?」

ミートボール王のガイコツ
「別に。ただ、忙しすぎたかな、仕事以外でも。」

カエル
「それはキミの願望の表れだろ。良かったんじゃないのか?」

ミートボール王のガイコツ
「そうかもしれないけどさ、キミだって今の自分とは違う自分を夢見たりしてるだろ。」

カエル
「まあ、そういう時もあるけど、キミみたいにバタバタするのはイヤだぜ。」

ミートボール王のガイコツ
「キミはそうだろうな。でもオレは、」

カエル
「現状に不満があるってんなら、この卦はその不満を散らすって事なんだろうな、多分。」

ミートボール王のガイコツ
「不満ってことではないんだけどね。」

カエル
「キミは多分その指輪の持ち主を知ってんのさ、ずっと前から。指輪も多分探してたんだろう、ずっと前から。でも、その指輪が持ち主の所に戻ると色んな事が散ってしまうかもしれないから、それで躊躇してんのさ。」

ミートボール王のガイコツ
「少し違う。この指輪は今は誰の物でもないよ。これからソイツの物になるんだ。躊躇してる訳じゃない、渡す理由が無いんだ。オレはもうアイツの知ってるオレじゃないからな。」

カエル
「世間一般ではそれを躊躇って言うんだよ。まあ、渡しても渡さなくても結末は変わらないと思うよ。多分だけど、散らばってた指輪が一旦キミの所に集まって来たって事に意味があるような気もするからさ。」

ミートボール王のガイコツ
「ロマンチックじゃん。でも風水渙の初爻。之卦は中孚だ。キミ、自分の事占ったろ?」

カエル
「バカ言え。」

ミートボール王のガイコツ
「まあいいよ。気晴らしにはなったよ、ありがとさん。また来るわ。」

カエル
「散らす事自体は流れの内だよ。」

ミートボール王のガイコツ
「わかってるよ。」

カエル
「またね。」




風水渙
ふうすいかん


風が水面を吹き抜ける様。
波。浪。流れ。
風で散らされた水飛沫。
舞い散る無数の一粒一粒。
離散、分散、解散、消散。

吹き荒ぶ風と荒磯を削り取るほどの波。その度に一旦散らされた水滴一粒一粒も、消えて無くなることは無く、また一つの流れの元へ帰って行く。
散っては集まり、散っては集まり、それの繰り返し。

水飛沫と聞いてまず東映映画のオープニングが頭に浮かぶ。
誰も荒磯の話なんかしてないのに。
きっと地元が日本海に面しているので、大シケの冬の日本海のイメージもあるからだろう。
それか、普段から風が吹き渡って水面を散らす場面に出くわす機会が少ないからかも。
それを言ったら他の卦もそういうトコあるんだけどさ。

でもまあかつての人物が分散と再構築を風で散らされた水に例えたからと言って、現代人で尚且つ自然に疎いオレまでそれに例える必要も無い事も確か。

流動する風や水の様に、英語で「book of changes」(変化の書)と訳される易経の様に、変わって行くものは変わって行くし、不要なものは消え去って行くし、大切なものはどれだけ粉微塵にされてもずっと大切にされて残って行く。
秦の始皇帝にも燃やされず、オカルトだろどうせなんて言われながらも。

きっとオレが風水渙について思い巡らせた想像の断片も、完全に消え去る事はなく、また次の想像力の源泉になって必要な時が来るのを待っていてくれるのだろう。
だから今現在のオレにとっての風水渙は、東映映画のオープニングと、真冬の日本海で良いんだ。

するとそこへもう一人のオレが、お前にとっての風水渙はゲームのセーブデータが吹っ飛んだイメージだろ、と訳の分からない横槍を入れてくる。

何を幼稚なことを言ってやがる。
本当の風水渙はそれじゃない、本当の風水渙はな、誤って友達のセーブデータに上書きした時だろうが。

ゲームのやり過ぎで親にソフトごと没収されたフリしたわ。
真の分散と再構築(友情の)を味わったわ。


卦辞

渙。
亨る。王有廟に假る
大川を渉るに利ろし。
貞に利ろし。

かん。
とおる。おうゆうびょうにいたる。
たいせんをわたるによろし。
ていによろし。

順調に進む。王は先祖の霊を祀る。
大業を成し遂げる時。
道を外さないように。

散らばった人心を一つにまとめ上げるために先祖の霊を祀る。一つになった人心の前からは全ての困難は散り、消え去る。

占断としては計画が白紙に戻るとか、悩み事が無くなるとか、何かが消え散る。物事の流れの変化。一つの終わりと(か)始まりの暗示。

似たような卦の「雷水解」はどちらかと言うと解決策や瓦解の原因が外的要因というか、自分の発想の外側に存在するのに対して、こっちは問題や答えが自分の内側。
散らかしてきた過去の清算や無かったことにしてきた心のリサイクルと言ったところか。

今まで何を散らして、何をムダにしてきただろうか。探してかき集めたら使いもんになるものはあるだろうか。

散らしたものをかき集める。かき集めたもので障害を散らす。役目を終えた巨大なカタマリは、散り散りになって消え去り、後に残るのはいつか思い出す事になる思い出という名の澱と、いざって時に背中を押してくれる経験則という名の別人格。

自分が無駄にしてきたと思っていた過去も、誰かに無駄だと決めつけられて捨てたはずの安いプライドも、引き出しに散らばった買ってそのままの文房具も、その時にはムダで役に立たなかったモノだって、かき集めれば困難を蹴散らす必殺のローリングソバットになり得るのだ。

要は、金が無くて困ってんなら、散らばったままの不要品持ってリサイクルショップに行けって事。


爻辞

バラバラの様でいて、みんな繋がってる。(上爻以外)


初爻

用て拯う。
馬壮んなれば吉。

もってすくう。
うまさかんなればきち。

誰かに頼って救われる。
強い馬のような存在であれば吉。

頼りがいのある強く勢いのあるはずの存在は二爻の事。
自分ではどうしようもない事でも、その道のプロフェッショナルに相談してみる。


二爻

渙の時、其の机に奔る。
悔い亡ぶ。

かんのとき、そのきにはしる。
くいほろぶ。

散乱の時に、一休み出来る机に走る。
後悔は無くなる。

休みたい。初爻に当てにはされてるが、こっちはこっちで悩みがある。


三爻

其の躬を渙らす。
悔い无し。

そのみをちらす。
くいなし。

自分の身を散らす。
悔いは無い。

捨て身。悔いなしは泣ける。


四爻

其の羣を渙らす。
元いに吉。
渙らして丘る有り。
夷の思う所に匪ず。

そのぐんをちらす。
おおいにきち。
ちらしてあつまるあり。
いのおもうところにあらず。

自分の組織を解散する。
大吉。
解散する前よりも多くの人が集まってくる。
凡人の考えの及ばないところ。

これを凡人がやると散らばったまんま。


五爻

渙の時、其の大号を汗にす。
王居を渙らして咎无し。

かんのとき、そのだいごうをかんにす。
おうきょをちらしてとがなし。

散乱の時。一度流れ出た汗が体に戻る事が無いように、王が一度下した命令は決して覆してはいけない。王の財を民の為に使う。咎められない。

誇り。責務。血を垂れ流し続ける王の意地。王である意味。


上爻

其の血を渙らす。
去りて逖く出づ。
咎无し。

そのちをちらす。
さりてとおくいづ。
とがなし。

自身を傷つける物事を散らし、遠く離れた場所に身を置く。咎められない。

散らすとか集めるとか、知ったこっちゃないね、っていうスタンス。
じゃあ誰なんだよ。


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