57 巽為風

57 そんいふう


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ミートボール王のガイコツ
「おつかれ。」
カエル
「どうした?」

ミートボール王のガイコツ
「何が?」

カエル
「歩き方おかしいんだけど。」

茶番をトばす。

ミートボール王のガイコツ
「いや、こないだナベ持ち上げたら腰やっちゃってさ、」

カエル
「トシ考えろよ、あぶねえな。」

ミートボール王のガイコツ
「オレじゃなきゃ荷台まで持ち上げられないのよ。売って来るのはバイトさんに任せてるけど、仕込みは最後までオレがやらないと。」

カエル
「荷台の方を下げればいいんじゃないか?」

ミートボール王のガイコツ
「下げれるわけねえだろ。」

カエル
「じゃあどうすんだよ、改造して荷台にリフトでもつけるか?」

ミートボール王のガイコツ
「出来るのか?」

カエル
「出来るわけねえだろ。」

ミートボール王のガイコツ
「だよなー。」

カエル
「まあ、車屋に頼むしかないな。運べないんじゃ仕事にならないしな。」

カエル
「仮に腰が治ったとしてもまたやると思うぜ。」

ミートボール王のガイコツ
「うん。」

カエル
「それかさ、」

ミートボール王のガイコツ
「ん?」

カエル
「せっかく街に引っ越して、バイトも雇えてるんなら、わざわざ公園まで売りに行かなくても街中で売る事にすれば?」

ミートボール王のガイコツ
「それはダメだ。買いに来てくれるお客さんが待ってる。それにあのトラックとミートボールがあったからこそ、今のオレがあるってもんだからな。」

カエル
「じゃあ、何とか楽に積める方法考えなきゃな。」

ミートボール王のガイコツ
「昨日まではなんともなかったんだけどな、こんな事ならもっと鍛えとくべきだったよ。」

カエル
「ホネしかないのに何を鍛えるんだよ。」

ミートボール王のガイコツ
「根性。」

カエル
「根性もないだろ。」

ミートボール王のガイコツ
「キミよりはあるわ。」

カエル
「オレは自分が根性ないのは自覚してんだよ。」

ミートボール王のガイコツ
「でもどうしようかな、明日から。」

カエル
「意地張らないでバイトに運んで貰えよ。」

ミートボール王のガイコツ
「いやー無理。」

カエル
「閃いた。」

ミートボール王のガイコツ
「おお、キミに相談して良かったよ。」

カエル
「小さいナベ二つに分けて運べば良いんじゃない?」

ミートボール王のガイコツ
「天才かよコイツ。というかなんでそんな簡単な事に気づかなかったんだろう。」

カエル
「型にハマり過ぎてるからだよ、体だけじゃなくて頭の方も固くなってんのさ。」

ミートボール王のガイコツ
「今度から楽しようと思ったらキミに相談するよ。」

カエル
「ちょっと言い方が引っかかるんだよな。」

ミートボール王のガイコツ
「冗談だよ、ありがとう。ホームセンター行って来るわ。」

カエル
「ついでに台車も買って来なよ、おじいちゃん。」

ミートボール王のガイコツ
「必要ない。まだまだこれからさ。」

カエル
「そうかい。またね。」




巽為風
そんいふう


吹き渡る風、木々を揺らす。八純卦の一つで「巽」を二つ重ねた形。
風と言っても嵐や台風などの災害級の風とは区別されてるようで、人間や動植物の周りに日常的に吹く風。
強くても木を揺らす程度。
なので八卦の中でもなんだか頼りなくて弱っちい立ち位置。

「風」と言う言葉自体が元々それくらいの規模の風を表していたのかも。災害級の風は天雷无妄の範疇か。

風。空気の流れ。自由で柔軟だが、不安定で迷いやすい。どこにでも入り込み、どこにでも行ける。

あらゆるものを運び、あらゆるものを持ち去る。触れる事は出来るが、掴むことは出来ず、扱う事は出来るが、縛る事は出来ない。

風の本分は応変と流動。身軽さと選択の余地。立ち塞がる壁を押し返す事は出来ないが、どんな小さな隙間でも、いとも容易くすり抜ける。

そんな風に、私はなりたい。

それか、私以外がみんな風になって欲しい。


卦辞

巽。
小しく亨る。
往く攸有るに利ろし。
大人を見るに利ろし。

そん。
すこしくとおる。
ゆくところあるによろし。
たいじんをみるによろし。

ちょっとした事なら順調に進む。進めば目的も果たせる。従順な姿勢で目上に従うのが良い。

柔よく剛を制すとは言ったものの、そよ風では流石に弱過ぎて、隙間風では見向きもされなくて。おかげで大きな事は出来なくて、誰かの機嫌に合わせて寄せて、誰かの後ろに付いて連られて。

日和見で主体性の無い風見鶏野郎と言ったところか。しかしそれを可能にする汎用性と順応性を持ち合わせている事も確か。

坤為地の様に権力に忠義を示すのでもなく、沢雷随の様にその時々の空気を読んで動から静に切り替えるのでもない。
他人でも摂理でもなく、自分の心の風向きに従うのだ。

容易いのだ、従う事も、手放す事も。風見鶏はいつだって軸運動をしてるだけだからだ。

地元に風見鶏の看板を掲げたホームセンターがある。地域に根付き、人の営みに溶け込み、職人の道具からペットのエサまで豊富な品揃え。リニューアルに伴いセルフレジも導入したし、系列店の家具屋は消滅した。

風に振り回されているように見える風見鶏も実は、向かい風にしか向かわない。
卑屈にも見える腰の低さも、ダウンフォースを生み出す逆境の流線型。
迷っているように見える眼球の動きも、あらゆるニーズを見逃さないオールレンジの千里眼。

そう。巽為風とはホームセンターの事なのだ。
もし、生まれ変われるならホームセンターがいい。ホームセンターの店長になりたいとか、ホームセンターの隣に住みたいとかじゃなく、ホームセンターになりたい。


爻辞

従うべくして従う。
利用されるべくして利用させる。


初爻

進退す。
武人の貞に利ろし。

しんたいす。
ぶじんのていによろし。

進むか退くか迷う。
武人のように規律や命令に従うと良い。

一番大事でシンプルな事に従う。
つまりするなと言われた事はするな。


二爻

巽いて牀下に在り。
史巫を用う。
紛若たるも吉にして咎无し。

したがいてしょうかにあり。
しふをもちう。
ふんじゃくたるもきちにしてとがなし。

寝台の下に身を置くように低い姿勢で従う。
神に仕える者より教えを乞う。
面倒な事もあるが吉で咎められない。

目下の人間や、価値観の違う人間にアドバイスを乞う時の謙虚な姿勢を、寝台の下に例えてる。


三爻

頻りに巽う。吝。

しきりにしたがう。りん。

従ったほうが良いのは解っているが、素直になれない。恥をかく事に。

解ってはいるけれど、自分の経験が足を引っ張る。


四爻

悔い亡ぶ。田して三品を獲。

くいほろぶ。かりしてさんぴんをう。

後悔は無くなる。
従うべき人物に従えたので、狩りで獲物を三匹も仕留める。

優秀な上司の指示通りに動いた結果。チョロい。


五爻

貞なれば吉。悔い亡ぶ。
利ろしからざる无し。
初め无くして終わり有り。
庚に先だつ三日。
庚に後れること三日。
吉。

ていなればきち。くいほろぶ。
よろしからざるなし。
はじめなくしておわりあり。
こうにさきだつみっか。
こうにおくれることみっか。
きち。

与える指示は正しいので吉。
後悔も無い。
良くないわけも無い。
初めは上手く行かないかもしれないが、結果的には目的は果たせる。
指示を与える時は丁寧に、計画的に。吉。

上手く行かない事すらも想定内。
気がつけば風のペース。


上爻

巽いて牀下に在り。
其の資斧を喪う。
貞しけれども凶。

したがいてしょうかにあり。
そのしふをうしなう。
ただしけれどもきょう。

寝台の下に身を置くように低い姿勢で従う。
足元を見られて財産を失う。
従う事は正しいが、卑屈すぎる。凶。

最後に従うべきは自分の軸。


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