58 兌爲沢

58 だいたく


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ミートボール王のガイコツ
「元気でやってるか?」

カエル
「まあまあ。」

茶番をトばす。

ミートボール王のガイコツ
「なんだよ、しみったれた顔してさ、このバッタでも食って元気出しなって。」

カエル
「ありがと。別に元気が無いわけじゃないよ。」

ミートボール王のガイコツ
「まあいいからホラ、気が済むまで食べな?」

カエル
「なんだか機嫌が良いな。ありがとう。頂くよ。」

ミートボール王のガイコツ
「美味いか?」

カエル
「まだ食ってねえ。」

ミートボール王のガイコツ
「そうか、美味いか。いやー今日スロットでさ、」

カエル
「いただきまーす。」

ミートボール王のガイコツ
「こんなに思い通りに打てたの初めてじゃないか?」

カエル
「ウマいウマい。」

ミートボール王のガイコツ
「なんつうの?指にストップボタンが吸い付く感覚?」

カエル
「なんかデケえバッタ入ってる!なんだコイツ?デケエ。」

ミートボール王のガイコツ
「もうレバーを叩くタイミングを台が教えてくれるのよ、もちろんそういう演出じゃなくて感覚の話ね?」

カエル
「デケえしウメえ!バッタじゃねえなコレ?なにコレぇ!?」

ミートボール王のガイコツ
「データもなんも見ないでただ好きな台座っただけなんだけどなあ、やっぱあの台もオレに打って欲しかったんだろうなあ。感謝を感じたよ。」

カエル
「あ、もうデカいヤツ無くなっちゃった…。」

ミートボール王のガイコツ
「聞いてる?」

カエル
「デカいヤツ無くなった…。」

ミートボール王のガイコツ
「聞いてる?」

カエル
「聞いてるよ。美味かったよ、ありがとう。」

ミートボール王のガイコツ
「とにかく今日は無敵だった。この世の全てが思い通りだったぜ。」

カエル
「ご馳走して貰ってなんだけど、スロットで勝ったくらいではしゃぎ過ぎだろ。」

ミートボール王のガイコツ
「いや、スロットじゃなくても何でも勝ってた、ツイてる、今日は。試しにサイコロ貸してみ。」

カエル
「ん。」

ミートボール王のガイコツ
「ホラっ!ピンゾロ!」

カエル
「すげっ。なんか変なクスリでもやってんじゃねえのか?」

ミートボール王のガイコツ
「くっくっく…。我ながら恐ろしいよ、自分の豪運が。やはり今日はアレか、オレの日か。オレだけの日か。」

カエル
「あっ、オレもピンゾロ出た。」

ミートボール王のガイコツ
「は?」

カエル
「200分の1くらいか?確か?結構簡単に引けちゃうもんだな。」

ミートボール王のガイコツ
「あー。オレの運がサイコロにくっついちゃったんだわソレ。」

カエル
「ご利益とかじゃねえんだからくっついたり離れたりしねえだろ、運は。」

ミートボール王のガイコツ
「いや、このサイコロなら何でも引けるぜ、もう一回ピンゾロ出そうか?ホラ。」

カエル
「…。」

ミートボール王のガイコツ
「おかしいな。」

カエル
「5じゃん。ピンゾロじゃねえじゃん。」

ミートボール王のガイコツ
「でも強い目じゃん。これくらいは許容範囲さ。」

カエル
「貸して。」

ミートボール王のガイコツ
「自分で取れよ。」

カエル
「なに勝手に機嫌悪くなってんだよ。ほれ。」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

カエル
「…。」

カエル
「6!勝った。」

ミートボール王のガイコツ
「は?なんで!?」

カエル
「敗因を教えよう。腹ペコのオレにバッタを奢った事と、何も張ってねえ状況で無駄にピンゾロを引いちまった事だぜ。キミからオレに運が傾いたんだ。」

ミートボール王のガイコツ
「ほお。じゃあ張ってやるよ、財布の中身全部。」

カエル
「オーライ。ならばこちらも魂を賭けよう。」

ミートボール王のガイコツ
「なにがオーライだ。魂なんぞいらん。同じだけ積めよ。」

カエル
「冗談だよ、熱くなんなよ。」

ミートボール王のガイコツ
「始めるぜ。」

カエル
「ん。」

ミートボール王のガイコツ
「オラっ。」

カエル
「お。」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

カエル
「目無しだよな?」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

カエル
「はい、ダメー。」

ミートボール王のガイコツ
「バッタ返せよ!」

カエル
「やっぱキミの運がオレに来てるわ。神経が研ぎ澄まされていくのを感じるもの。ほら、右手がぼんやりと光って見えて…。」

ミートボール王のガイコツ
「あの時…。」

カエル
「はぁ?」

ミートボール王のガイコツ
「あの時と一緒だ。あの時、雨が一滴でも降ってくれたら…。」

カエル
「どしたの急に?」

ミートボール王のガイコツ
「あの時も天に見放されてオレは。」

カエル
「天も迷惑だろうよ、勝手に下に住みつかれて恵みだの見放されたの言われてよ。」

ミートボール王のガイコツ
「やはり人は自然の前では無力という事なのかよ。」

カエル
「さっきから大丈夫かよ?振るぜ?」

ミートボール王のガイコツ
「なんで降らなかったんだろう、雨。」

カエル
「知るかオラあ。」

カエル
「…。」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

カエル
「あー、目無しー。」

ミートボール王のガイコツ
「っしゃアブねぇ!ここまで計算通りっ!計算通りだった。」

カエル
「おかしいな、もう一回くらい強い目来そうだったのにな。」

ミートボール王のガイコツ
「どうしてオレとキミが出会ってしまったのか今ので理解した。やはりキミはオレにとっての乗り越えるべき壁。倒すべき宿命。」

カエル
「知ったこっちゃねえな。オレはもっとのんびりやりたいんだよ。てめえの人生設計にオレを勝手に組み込むなよ。」

ミートボール王のガイコツ
「決着をつけようぜ、自然界の運と人間の運、どっちが強いかをよ。」

カエル
「そりゃ自然だろ。ん?オレはこれから自然界代表でキミとチンチロすんの?」

ミートボール王のガイコツ
「カエルなんだから自然界寄りだろ。先に振れよ、乗り越えてやるからよ。」

自然界代表のカエル
「先に振らせて流れを変えようってか。浅はかだな、ちっぽけな人間よ。ちょっと知恵を使ったくらいで自然の摂理が揺らぐものかよ。」

ミートボール王のガイコツ
「いいから早く振れよ。ツキが逃げちまう。」

自然界代表のカエル
「本当に良いのか?これで終わるぜ?」

ミートボール王のガイコツ
「そっちがな。」

自然界代表のカエル
「オラあっ。」

ミートボール王のガイコツ
「!?」

自然界代表のカエル
「っ!」

自然界代表のカエル
「ふはは、また6だぜ。何を乗り越えるって?ちっぽけな人間さんよお。」

ミートボール王のガイコツ
「ふざけんなっ!イカサマだ!」

自然界代表のカエル
「イカサマじゃないです。事象です。」

ミートボール王のガイコツ
「みなさん聞いてください!このカエルはイカサマをしました!」

自然界代表のカエル
「窓を閉めろよ、ちっぽけな人間よ。雨が入るからよ。」

ミートボール王のガイコツ
「信じられない…こんな事がっ、今まで何一つミス無くやって来たのに…。」

自然界代表のカエル
「うそつけよ。」

ミートボール王のガイコツ
「バッタだってキミの喜ぶ顔が見たくてオレはっ。」

自然界代表のカエル
「すげえウマいバッタだったよ。ごちそうさん。」

自然界代表のカエル
「人間なんだから天の運びや巡りのご機嫌を伺いながら生きてれば良いんだよ。さっきまでパチンコ屋さんでやって来たみたいによお。」

ミートボール王のガイコツ
「…確かにそうかもしれないな。オマエらに言わせれば地表に勝手に住み着いてるちっぽけな存在かもしれないな。」

自然界代表のカエル
「?」

ミートボール王のガイコツ
「でも忘れるなよ、オマエらの言うちっぽけな人間すらも、この世界を構成する要素の一つだって事を。そしてそのムダにデカい図体に刻んどけ、その人間が悠久の昔から生き繋いで来た悲願の蓄積を。」

自然界代表のカエル
「チンチロに勝つ事が悲願なのか?」

ミートボール王のガイコツ
「機は熟した。こっから先はショータイムだぜ。」

自然界代表のカエル
「なんだかバイブスが上がって来たな。」

ミートボール王のガイコツ
「見とけよオレの易、空けとけよオレの席、全てはこの天泣の為の布石。」

自然界代表のカエル
「なんだ?雨音が、強くなってく…?」

ミートボール王のガイコツ
「見えてるかこの切っ先、弱者故の武器、オレの真芯にこそ常に太極は在るべき。」

自然界代表のカエル
「う、歌…?」

ミートボール王のガイコツ
「種として産まれ、群として生き、個として死んでなお残る、不滅の骨の乾坤一擲。」 

自然界代表のカエル
「んーヘタクソ。」

ミートボール王のガイコツ
「くらえ!」

自然界代表のカエル
「うわあやめろぉ。」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

自然界代表のカエル
「…。」

自然界代表のカエル
「ろ、6?」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

自然界代表のカエル
「6、ゾロ…!」

自然界代表のカエル
「なんてヤツだ。オレの天運を、人の思いで乗り越えたって事かよ。」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

自然界代表のカエル
「負けたよ、まさかこのタイミングでゾロ目を持ってくるとはね。完敗だ。持ってけよ、ホラ。」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

カエル
「え?」

ミートボール王のガイコツ
「…。」

カエル
「し、死んでる…?」

カエル
「いや、死んでんのは元からか。なんか、透き通ってる感じがする…。」

カエル
「おい、しっかりしろっ。」

ミートボール王のガイコツ
「う、うーん。」

カエル
「よかった!気が付いたか。」

ミートボール王のガイコツ
「あれ?オレはなんでここに?」

カエル
「記憶が…。」

カエル
「何も覚えてないのか?今、天に召されそうになってたぞ。」

ミートボール王のガイコツ
「全然覚えてねえ。でも、なんかすげえ楽しい夢を見てた気がするんだ。」

カエル
「うんうん。スゲえ楽しそうな寝顔だったよ。」

ミートボール王のガイコツ
「でも体がすごく重い。なんかぐったりする。一日中泳いでた気分だ。そしてなぜか財布だけが軽い。」

カエル
「気のせいだよ。最近働き詰めで疲れてたんだよきっと。ったく、頑張り屋さんなんだからよ。」

カエル
「今日はもう帰りな。帰ってゆっくりしてな。そしてなんか思い出してもその事をオレに対して言及しようとするな。」

ミートボール王のガイコツ
「そうするよ。なんかアタマ痛くなってきちゃった。」

カエル
「バッタありがとうな。」

ミートボール王のガイコツ
「ああ、また持って来るよ。」

カエル
「期待してるよ。」

ミートボール王のガイコツ
「じゃあまた。」

カエル
「またね。」




兌爲沢
だいたく


八純卦の一つ。喜び楽しむという意味の大成卦「兌」を2つ重ねた形。
つまりめちゃくちゃ嬉しくて楽しい。女の子二人が仲良くおしゃべりしている形。つまりめちゃくちゃ嬉しくて楽しい。
そして沢(水たまり全般)が重なった形。溺れるとか沈むという形。
つまりめちゃくちゃ嬉しくて楽しくてもあんまり調子に乗るな。

そこそこいいトシになってしまえば誰かに説教されなくたって、自分にとっての喜びや楽しみくらい分かってるつもりだけど、逆にいいトシになってしまったからこそ喜びや楽しみについて再考するのもいいかもしれない。

と、思ったけれど、喜びや楽しみとはなにか?幸せとはなにか?などと考えてる時点でそれらがどんどん遠ざかってしまうのは火を見るよりも明らかなので考えるのはやっぱりやめるけど、普段から割りと一人でいる事が多いオレがそれでも不貞腐れないで生きて来れたのも(諸説あり)、こうしてブログを書いているのも、SNSやYouTubeとかで見かける面白動画で小一時間ニヤニヤ出来るのも、多分心の何処かに誰かの存在を感じているからで。

自分が(猫も)食っていく為の仕事もそうだ。自分の人生を豊かにする趣味だってそうだ。自分のやりたい事の為、自分のやりたくない事の為。自分自分とは言ってても辿ってみれば誰かを安心させたい感情と繋がって、次に会う時に喜び楽しむ為っていうのもやっぱり10%くらいはあるから。

結局喜びや楽しみってなんだろうね、幸せってなんだろねなんて世界で一番どうでもいい話を出来る存在こそが、子供の頃に飛び跳ねて遊んだ雨上がりの水たまり。
いつか辿り着く事を願った砂漠のオアシス。
ピチピチギャルが手招きするナイトプールなのかもしれないですね。

人間と人間の卦。
自分と、自分以外の誰かの卦。
そこに自然の摂理の入る余地無し。


卦辞

兌。
亨る。貞に利ろし。

だ。
とおる。ていによろし。

何事も喜び楽しんで取り組めば順調に進む。
ただ、喜び楽しむ事を求め過ぎてはいけない。

完全に同意。

趣味や友達付き合いなら楽しければ楽しいほど良いけれど、ちょっとくらいイライラしてた方が仕事自体は捗る。

これは仲良しの友人と一緒の職場で働くと、ふざけ過ぎて仕事にならなくて困った経験から。

好きな物事を追求すると、その真理にまで触れたくなって、色々な事を削ぎ落とし、楽しむ事すら後回し、上手く行っても素直に喜べず、気になる事は誰かの目と良く通る大声。

これはモンスターハンターフロンティアというゲームが大好きで、あまりにも好きすぎて効率や最適解を追い求めて、いつの間にかしかめっ面でゲームやらされてる自分に気付いた経験から。

我を忘れるくらい夢中になる事に出会えたなら、それ程幸せな事もないけれど、本当に我を忘れてしまったら、それはもう摂理という巨大な機械の歯車のひとつ。

これは二十代の大半をパチンコ産業のヒエラルキーのド底辺で養分として過ごした経験から。(すごく楽しいのでオススメ)

喜び楽しむ為に人は生きて、底無しの欲に溺れて身を滅ぼす。誰かの破滅を教訓にして、つま先すら濡らさずにその生を終える。

兌為沢というフィルター越しに見える、千のぬかるみ。千のはにかみ。


爻辞

よろこびの為に触れ合い、進み、信じ、愛する。
ヨロコビの為に迷い、溺れ、騙し、奪う。
それこそがニンゲン。
どこまで行ってもニンゲン生まれ、ニンゲン育ち。


初爻

和して兌ぶ。吉。

わしてよろこぶ。きち。

人と和合してよろこぶ。吉。

手を取り合って、仲良く笑って。


二爻

孚にして兌ぶ。吉。
悔い亡ぶ。

まことにしてよろこぶ。きち。
くいほろぶ。

誠の心でよろこぶ。吉。
後悔も無い。

真っ直ぐに向き合い、楽しむ。
本当に好きな事でもなきゃ出来ないよな。


三爻

来たりて兌ぶ。凶。

きたりてよろこぶ。きょう。

口先だけで人をよろこばせようとする。凶。

軽薄、下賎。そして兌為沢の根幹。


四爻

商りて兌ぶ。
未だ寧からず。
疾を介て喜び有り。

はかりてよろこぶ。
いまだやすからず。
やまいをへだててよろこびあり。

どちらが自分にとってのよろこびになるか選択に迷い悩む。
邪なよろこびを退けて、正しい選択をする。

みんなで平等に喜び合う初爻と、口先だけのいい加減野郎の三爻とで悩む。


五爻

剝に孚す。
厲うき有り。

はくにまことす。
あやうきあり。

自分を誘惑し、引き摺り込もうとする者にも誠意を持って接する。
危うい。

引き摺り込もうとするのは上爻の事。それでも、騙される側でいたいのよ。


上爻

引きて兌ぶ。

ひきてよろこぶ。

言葉巧みに人を惹き付けてよろこぶ。

上に昇って行ってるつもりが、知らず知らずに下に落ちて行ってしまうのはよくある話。
大体は、選択を他人に委ねた末路。


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