56 火山旅

56 かざんりょ


かえるのうた

カエル
「…。」

ガイコツ
「起きてたか?ほら、バッタ食え、バッタ。」

カエル
「すまないね。」

ガイコツ
「いいって。」

ガイコツ
「具合どうだ?まだ良くないか?」

カエル
「ずっと、ずっと夢を見ていました。」

茶番をトばす。

ガイコツ
「なんか様子がおかしいな、手は尽くしたんだがダメだったか…?」

カエル
「…サイコロ。」

ガイコツ
「は?」

カエル
「サイコロを振っていました。」

ガイコツ
「夢の中で?」

カエル
「はい。」

ガイコツ
「スゴロクでもしてたのか?」

カエル
「違います。」

カエル
「サイコロを三つ振ってさ、偶数、偶数、奇数、奇数、偶数、奇数…。みたいにやってました。」

ガイコツ
「多分占いだわそれ。易占いだ。」

カエル
「知ってんのか?」

ガイコツ
「オレも出来るもん。」

カエル
「そういえば言ってたね。でもなんで占いの夢なんか見たのか。」

ガイコツ
「占い嫌いじゃなかったのか?」

カエル
「アテにするようになったら終わりって言ったんだ。好き嫌いじゃない。」

ガイコツ
「そもそも興味が無いか?」

カエル
「迷信だろ?」

ガイコツ
「かもな。でも、キミの言ったみたいに好き嫌いなんて関係無く全ての物に染み付いてるもんよ。」

カエル
「よくわかんねえ。」

ガイコツ
「まあわかんなくてもいいさ。全て分かったところでそこにオレらの居場所なんか無いからさ。」

ガイコツ
「大事なのはその片鱗を観測して、伝える事さ。」

カエル
「人に伝えて外れたらどうすんだ?」

ガイコツ
「当たり外れじゃない。変わるんだ。」

カエル
「何が?」

ガイコツ
「何でも。」

カエル
「もっとわかんねえ。未来を予測して、正しい選択をする為に占うんじゃないのかよ。」

ガイコツ
「そういう使い方もある。」

カエル
「ふわっとした言い方しやがって。」

ガイコツ
「しょうがないよ、キミが思ってるよりもこの世界がふわっとしてんだからさ。」

ガイコツ
「東から旅してきたんだって?」

カエル
「そうだよ、なんで?」

ガイコツ
「オレはこの通りずっとここにいるからさ、世辞に疎いんだよ。なんか面白い話があったら聞かせてくれよ。」

カエル
「もう眠たくなってきたんだけど。」

ガイコツ
「寝るまででいいよ。」

カエル
「そうだな…」

ガイコツ
「うん。」

カエル
「高い壁に囲まれた街があってさ、」

ガイコツ
「どれくらい?」

カエル
「とにかく物凄く高い。」

カエル
「門が一つだけあるんだ。門番が守ってて、入ったら出られない。死ぬまでそこで過ごすんだ。」

ガイコツ
「なんで?」

カエル
「入った時に自分の影を奪われるんだ。影は自分が引き摺ってきたもう一人の自分だからさ。その奪われた影が死んじまうともうその街の事以外は忘れちまう。」

ガイコツ
「それだけ?普段そいつらは何してんだ?」

カエル
「普通に生活してるだけ。街の人間それぞれに仕事が与えられてる、朝起きて、朝飯食って、仕事して、夕飯食って、寝る。次の日も同じ。仕事して、メシ食って、寝る。」

ガイコツ
「ふーん。自由時間は?」

カエル
「仕事以外の時間は基本的に何してても良い。」

ガイコツ
「まあ、退屈そうだけれど平和ではあるな。」

カエル
「でも、誰もそれ以外の事に興味が無いんだ。高い壁も、街の外も、黄金の一角獣も。」

ガイコツ
「黄金の一角獣?」

カエル
「街と、その街の外にいるんだ。そこでしか生きれないんだと。」

ガイコツ
「なんで?」

カエル
「知らん。」

ガイコツ
「ふーん。キミは影を取られなかったのか?」

カエル
「オレはカエルだから特別なんだよ。その街を出入り出来るのはカエルと、門番と、黄金の一角獣だけだよ。」

ガイコツ
「すげえな、カエルは。」

カエル
「まあな。」

ガイコツ
「他には?」

カエル
「空にぶら下がってる都市。地上に住んでる連中からは楽園って呼ばれてる。」

ガイコツ
「なんでぶら下がってるんだ?」

カエル
「知らねえ。なんでなんだろうな。」

ガイコツ
「見てきたんじゃないのかよ?」

カエル
「下から眺めてただけだよ。下から上には勝手に行けないんだ。」

ガイコツ
「入ったら出れない街からは出てこれたのに?」

カエル
「行こうと思えば行けたんだけどな、下に住んでる連中見てたら、行く気も失せるぜ。」

ガイコツ
「下の人間はどんな生活してんだ?」

カエル
「機械仕掛けの人間が、上から投げ捨てられたゴミで暮らしてる。」

ガイコツ
「下の連中はよく我慢出来るな。」

カエル
「生まれた時からだからな。それが普通だと思ってるんじゃないか?」

ガイコツ
「誰も戦おうとはしなかったのか?」

カエル
「いたみたいだけど、下は下で生きてくのに必死なのさ。」

ガイコツ
「楽園ね。きっと上に住んでる連中もロクな生活してないさ。」

カエル
「そうだな。たまにゴミと一緒に人間も降ってくるみたいだしな。」

ガイコツ
「他には?」

カエル
「だだっ広い荒野。前時代の遺物が埋まってて、野バスが走り回ってる。」

ガイコツ
「野バス?」

カエル
「誇り高き野生のバスだと。ぶっ壊れるまで走り続けるから誰も乗りこなせないんだ。」

ガイコツ
「バス?」

カエル
「人が沢山乗れる車だよ。」

ガイコツ
「ん? ウマ?」

カエル
「まあ、ウマみたいなモンだ。機械仕掛けの馬だ。」

ガイコツ
「機械人間の次は機械の馬か。でもこっちは誰にも縛られず荒野を走る機械の馬か。自由でいい。」

カエル
「でも本当は違う。」

ガイコツ
「なんだそりゃ?何か理由があって走ってるのか?」

カエル
「地面に埋まった停留所を探し回ってるんだ。ずっと。」

ガイコツ
「停留所?」

カエル
「人を乗せるところ。昔は決まった時刻に停留所で人を乗せて運ぶ仕事をしてたんだ。」

ガイコツ
「全然自由じゃなかったんだな。」

カエル
「そうだな。とっくに乗せる人もいないし、管理される事もないのにな。ずっと時間と仕事に縛られてる。」

ガイコツ
「でも、その野バスとやらが荒野を走り回る姿を見て、今の人間が勇敢さや自由に憧れるんならそれでいいんじゃないか?」

カエル
「でも迷信だ。真実じゃない。」

ガイコツ
「いいんだよ、その時は迷信でも。その時その場所に居合わせたヤツの感性より大事な真実なんかねえよ。」

ガイコツ
「真実が想像より先に来ることなんか無い。最初から答えを叩き込まれて、脳ミソまで機械になっちまったら文字通り世界の終わりだぜ。」

カエル
「だから滅んだのか。」

ガイコツ
「カエル王国が?」

カエル
「そんな王国ねえよ。人間がだよ。」

ガイコツ
「人間が?滅んだのか?いつの話?」

ガイコツ
「でもキミは旅先で見てきたんだろ?」

ガイコツ
「高い壁の街も、機械人間も。野バスの話は誰に聞いたんだ?本当に東から来たのか?」

ガイコツ
「おい。」

ガイコツ
「おーい。」

ガイコツ
「…」

ガイコツ
「寝やがった。」

ガイコツ
「…」

ガイコツ
「次に目が覚めてくれたら、それでお別れかな。」




火山旅
かざんりょ


留まっていた場所(艮)から光や熱といった生活を司る火が離れて行く。暗い山道を松明の明かりだけを頼りに進む孤独で寂しい旅人の卦。居場所を求め、さまよい続ける人間の生。

不思議と印象に残るのはその寂しげな意味や、大昔から人生を旅に例え続けてきた人間としての記憶とかではなく、子供の頃から知ってる「火山」という単語の存在感のせい。
「火山」って書いてあったらあの火山しかないと思うじゃん普通。

今もどこかでお客さんやお弟子さんに、火山旅の火山はヴォルケーノのほうじゃねえところから説明してる易者さんの姿が目に浮かぶ。

三陰三陽の卦。良くも悪くも熱に当てられた雷沢帰妹と雷火豊の次に配された、賢者タイムみたいな卦。

色事や財力や権力などの社会的な価値基準からひっそりと離れて行くような、ニヒルでハードボイルドな卦。


卦辞

旅。
小しく亨る。
旅は貞にして吉。

りょ。
すこしくとおる。
りょはていにしてきち。

少しだけ順調に進む。
旅先では慎重にして吉。

旅の道中は心細く、心配事だらけ。道に迷ったり、それなりに危険もある。郷に入りては郷に従え。旅に出たなら旅に従え。

今年の夏は家族で北海道にでも行くか!とか、学生生活の思い出にみんなでニュージーランドに行きたいな。
などと言ったご機嫌でハッピーな旅行ではなく、流浪。放浪。居場所を奪われやむを得ず。あるいは新天地を求めて逞しく。

旅の果てに自分の居場所なんか無いかもしれないのに。目的地が自分の望んだ所じゃないかもしれないのに。

「この世に客に来たと思えばなんの苦も無し。」これは伊達政宗の言葉。

基本のらりくらりでやってきたオレにしては、珍しく酷く落ち込んでいた時期に名言を垂れ流すYouTube動画を目を潤ませながら観てた時に覚えた大事な言葉。

もちろん客に来てると思われちゃうと不利な事の方が多い現代社会で、今よりずっと生き死にが身近だった時代の戦国武将と一緒の気にはなれないが、自分の見えてる世界に落とし込む事は出来る。言葉ってそういうもんだから。

その数年後に易と、この火山旅という卦に触れた時にこの伊達政宗の言葉を思い出して、視界に広がる平等と不平等、不都合や矛盾。それに対しての救いだと勝手に思った。ホントは違うかもしれない。

この世界は他人の庭だ。
誰かが叶え続けて来た夢の跡地だ。
ホモ・サピエンスがそれまでの人類を滅ぼして、時間という目盛りの上に雑に放り込まれて、気づいたら目の前に金をぶら下げられてる世界。
しかもそれら全てが誰かのついたウソかもしれない世界。

それはそれでちょっとは面白いかも知れない。今となっては。

どっちにしてもオレが作った世界じゃない。出来合いのジオラマ。
気楽に、穏やかな心で、時によそよそしく、時に馴れ馴れしく、合わせなきゃならないところは合わせていかなきゃならない。

移ろう景色に目を奪われて、千載一遇の絶景を見逃す事だってある。
持ち合わせが足りなくて、手に入らないもんだってある。
白いウサギに誘われて、自分だけのお宝に出会えるかも。

居心地なんか悪くて当たり前。この旅の目的地が何処かわかんねえんだから。
恵まれて喜ぶのが当たり前。この旅がいつ終わるかわかんねえんだから。

人生は旅か?変化こそが旅だろ。そしてその変化に飽きて疲れた時、きっとオレの旅も終わるんだろ。

北海道でも、ニュージーランドでも、どこにも行かなくても、手ぶらでも、色々背負い込んでも、近づいてくる目的地が思ってたのと違っても、例えば途中下車する事になったとしても、旅の道中はご機嫌でハッピーにしたいよな。


爻辞

借り物の世界と、借り物の時間と、借りてきた猫。


初爻

旅、瑣瑣たり。
斯れ其の災いを取る所。

りょ、ささたり。
これそのわざわいをとるところ。

旅先で落ち着きがない。災いを自ら招くよう。

佇まいだけでも堂々としてないとナメられるからね。
オレみたいに東京駅に降りる度に職務質問されるからね。


二爻

旅、次に即き、
其の資を懐き、
童僕の貞を得。

りょ、じにつき、
そのしをいだき、
どうぼくのていをう。

旅に出るに当たって、
泊まる宿があり、
資金も充分にあり、
土地勘の良い忠実なお供もいる。

至れり尽くせりの最高な旅。
これは旅先が素晴らしいのではなく、旅をしている自覚を持ち、宿の店主やお供を気遣った自身の誠意ある行いの賜物。


三爻

旅、其の次を焚く。
其の童僕の貞を喪う。
厲うし。

りょ、そのじをやく。
そのどうぼくのていをうしなう。
あやうし。

泊まっていた宿が燃える。
付き従っていたお供も離れていく。
危うし。

踏んだり蹴ったりの最悪な旅。
これは旅が最悪なのではなく、地元を離れ、よそ様の土地に上がらせてもらっている事を忘れた自身の不遜な行いへの報い。


四爻

旅、于に処る。
其の資斧を得。
我が心快からず。

りょ、ここにとどまる。
そのしふをう。
わがこころこころよからず。

旅先で長く留まる。
信用を得て厚遇される。
まだ旅の途中なので落ち着かない。

妥協点。しかし自分の魂がここを目的地に定めてない。
よくある話。職場に於いても、人生のパートナーに於いても。


五爻

雉を射て一矢失う。
終に以て誉命あり。

きじをいていっしうしなう。
ついにもってよめいあり。

雉を仕留めて矢を一本失う。
最後には名誉を得る。

失うものもあったが、迷い失って来た事が価値に。
長く辛い旅の果てに、偉大な王の信頼を得て仕える事が出来た。

旅の終わり。納得のいく目的地。それは多分次の旅の始まり。


上爻

鳥其の巣を焚く。
旅人先には笑い、
後には咷き号ぶ。
牛を易に喪う。
凶。

とりそのすをやく。
たびびとさきにはわらい、
のちにはなきさけぶ。
うしをさかいにうしなう。

きょう。

鳥がその巣を焼かれる。
旅を忘れた旅人は、最初は笑い、
最後は泣き叫ぶ。
旅を共にしてきた牛も失う。
凶。

旅で変わる人生観、旅でも変わらない品性か。
辛く厳しい旅を成し遂げたからといって、何をしても良いわけじゃない。


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