38 火沢睽

38 かたくけい


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

便利屋のガイコツ
「ヒマ?」

カエル
「ヒマ。」

茶番をトばす。

便利屋のガイコツ
「トラックの水漏れ治せる?」

カエル
「ホロ?」

便利屋のガイコツ
「ホロ。」

カエル
「いいよ。」

便利屋のガイコツ
「あそこなんだけどさ。」

カエル
「どこ?」

便利屋のガイコツ
「あの支柱の角の。」

カエル
「あーこれ?」

便利屋のガイコツ
「それじゃないよ。その左、の角んところ。」

カエル
「これだね。」

便利屋のガイコツ
「それだ。治る?」

カエル
「オレに任せとけよ。」

便利屋のガイコツ
「ヒュー。」

カエル
「ちょっと手伝って。」

便利屋のガイコツ
「あいよ。」

カエル
「そういえばこないださ、あの兄ちゃん来たよ。」

便利屋のガイコツ
「ほう。あれからどうした?達者でやってんのか?」

カエル
「ホントに便利屋になってた。」

便利屋のガイコツ
「マジで?」

カエル
「マジで。」

便利屋のガイコツ
「そうか。」

カエル
「でも本人は色んなトコに顔が利くから仲介なんだと。仕事は誰かに頼むんだってさ。」

便利屋のガイコツ
「オレも便利屋の答えは結局ブローカーになっちゃうと思うよ。」

カエル
「便利屋に限った話じゃないけどね。」

便利屋のガイコツ
「まあね。」

カエル
「これちょっと持ってて。」

便利屋のガイコツ
「はい。」

カエル
「なんかね、キミにも手伝って欲しいって言ってたよ。」

便利屋のガイコツ
「ヤダよ。今の生活気に入ってんのに。」

便利屋のガイコツ
「なんで自分の息子ほどトシの離れたヤツにアゴで使われなきゃならないんだよ。」

カエル
「息子いるのか?」

便利屋のガイコツ
「いないけどさ。例えばだよ。」

カエル
「でもラクだと思うよ。自分でお客さん探さないでいいんだもの。」

便利屋のガイコツ
「じゃあキミもカサばら撒かないでアイツにお客さん探してもらうか?」

カエル
「ヤダよ。」

便利屋のガイコツ
「じゃあオレだってヤダよ。」

カエル
「そこ縫うから押さえてて。」

便利屋のガイコツ
「はい。」

便利屋のガイコツ
「とにかく、オレは自分の自由を優先したいの。」

カエル
「なんでこんな性格で便利屋やろうと思ったんだろう。」

便利屋のガイコツ
「なんでなんでしょうね?」

カエル
「人を助けたいの?」

便利屋のガイコツ
「どうだろうね。」

便利屋のガイコツ
「お、もう出来上がりじゃない?」

カエル
「まだ、水が入らないようにコーキングして終わり。」

便利屋のガイコツ
「ベッタベタに塗りたくっといてくれ。オレは帰る。」

カエル
「今日はもう終わり?」

便利屋のガイコツ
「終わり。」

カエル
「またね。」



火沢睽
かたくけい


火は激しく燃え上がり、沢は静かにその水をたたえる。

火を火のままでしか扱わないし、水を水のままでしか扱わない。

互いに背き合う性質。
目的意識の違い、温度差と高低差があり過ぎて交わるわけでもなくお互いが好き勝手にやってる状態。
妥協し合ってるとも言えるか。

疑心暗鬼。争いごとや喧嘩にはならないが、ネチネチとモヤモヤ不完全燃焼がつづく。


卦辞

睽。小事に吉。

けい。しょうじにきち。

小さな事なら吉。

ただ同じところにいるだけ。
協力し合えばもっと大きな事も出来るはずなのに。

今のままじゃ大きな事は無理だよってのをはっきり言えないって意味での小事に吉。


爻辞

自分に自信がなくなると、人と距離を置きたくなるよね。


初爻

悔い亡ぶ。馬を喪う。
逐うこと勿れ自ら復る。
悪人を見る。咎无し。

くいほろぶ。うまをうしなう。
おうことなかれ みずからかえる。
あくにんをみる。とがなし。

馬を失うが後悔はない。
追わなくても返って来るから。
悪人も同様。
どうせ捕まって裁かれるから。
咎められない。

冷めてる。
馬が逃げたら泣いて追いかけてさ、悪人を見たら震えるほど怒ったりしろよ。


二爻

主に巷に遇う。咎无し。

しゅにちまたにあう。とがなし。

君主に街でばったり会う。咎められない。

主と従者は通じ合っているが正式には出会えない。故に偶然会ったふりをする。

ツンデレ。


三爻

輿の曳かるるを見る。
其の牛は掣られ、
其の人天られ且つ劓きらる。
初め无くして終わり有り。

よのひかるるをみる
そのうしはとどめられ、
そのひと かみきられかつはなきらる。
はじめなくしておわりあり。

車を引き戻され、牛も止められ、髪を切られ、鼻を切りつけられる災難。
最後は疑いが晴れ、また進む事が出来る。

どんな大悪党に間違われたのだろうか。


四爻

睽きて孤なり。
元夫に遇いて交孚す。
厲うけれども咎无し。

そむきてこなり。
げんぷにあいてこもごもまことす。
あやうけれどもとがなし。

人に背いて孤立するが、立派な人と親しくなれる。
危ういが咎められない。

どこにでもいいヤツはいる。


五爻

悔い亡ぶ。厥の宗、膚を噬む。
往けば何の咎有らん。

くいほろぶ。そのそう、はだえをかむ。
ゆけばなんのとがあらん。

後悔が無くなる。
柔らかい肉を噛むように深く交わる。
自ら進んで行っても咎められない。

這い上がるくらいでちょうどいい。


上爻

睽きて孤なり。
豕の塗を負うを見る。
鬼を一車に載す。
先には弧を張り、後には之が弧を説く。
寇するに匪ず婚媾せんとす。

往きて雨に遇えば則ち吉。

そむきてこなり。
いのこのどろをおうをみる。
おにをいっしゃにのす。
さきにはゆみをはり、のちにはこれがゆみをとく。
あだするにあらずこんこうせんとす。
ゆきてあめにあえばすなわちきち。

人に背いて孤立する。
人が泥にまみれた豚に見え、鬼を乗せた車に見える。
弓を張って備えるが、後に誤解に気付きその弓をおろす。
敵ではなく結婚を申し込みに来たのだ。
雨が降り、誤解も疑念も流してくれる。吉。

自己嫌悪の果て。


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