33 てんざんとん
かえるのうた
カエル
「いらっしゃい。」
便利屋のガイコツ
「調子どう?」
カエル
「まあまあ。そっちは?」
便利屋のガイコツ
「まあまあ。」
便利屋のガイコツ
「まだどうぶつの森やってんの?」
カエル
「うん。」
便利屋のガイコツ
「飽きろよ、早く。」
カエル
「飽きるんだけどまたやりたくなるんだよ。」
便利屋のガイコツ
「気持ちはわかるけどね。」
カエル
「それより人が来たよ。傘持って。」
便利屋のガイコツ
「おお、おめでとう。ちゃんと見てあげたの?」
カエル
「まあね、でも顔見知りだったよ。」
便利屋のガイコツ
「そか。誰よ?」
カエル
「最初思い出せなかったけどさ、どっかで見た事あると思ったらいつだったかキミと仕事してたアウトロー風の兄ちゃんだったよ。」
便利屋のガイコツ
「げっ。」
カエル
「今の稼業に限界を感じて転職を考えてんだと。」
便利屋のガイコツ
「かつてのオレみてえだな。」
カエル
「そうだね、キミみたいだね。」
便利屋のガイコツ
「で、どんな卦が出たの?」
カエル
「それは教えられない。やっぱ秘匿義務あるし。」
便利屋のガイコツ
「カテえ事を。」
カエル
「いや、流石に失礼だからな。」
便利屋のガイコツ
「まあね。」
カエル
「それにこういうのは観測者が増えると結果が変わるような気がしてさ。」
便利屋のガイコツ
「そういうもんかね。」
カエル
「まあ、あの兄ちゃんが自分の引いた卦をどこまで信じるかわかんないけどさ、確かに潮時っぽい卦は出てたよ。」
便利屋のガイコツ
「ふーん。」
便利屋のガイコツ
「結局なんの仕事してたんだろうね。」
カエル
「さあね。」
便利屋のガイコツ
「聞いてみた?」
カエル
「聞いてないよ。」
カエル
「でもキミが今便利屋もやってるって教えたらさ、オレも仲間使って便利屋やろうかなって言ってたよ。」
便利屋のガイコツ
「マジで?」
カエル
「マジで。ライバル登場だな。頑張ってな。」
便利屋のガイコツ
「えー、ヤメようかな、便利屋。」
カエル
「なんでだよ、知らない顔じゃないんだし一緒に盛り上げて行けばいいじゃん。」
便利屋のガイコツ
「ヤだよ。なんでオレが老体にムチ打ってあんな威勢の良い連中としのぎを削らなきゃならないんだよ。」
カエル
「だよなー。ホネではちょっと分が悪いか。」
便利屋のガイコツ
「うーん。どうすっかな。」
カエル
「え、ホントにヤメようとしてんの?せっかく傘にタグもつけたのに?」
便利屋のガイコツ
「いや、ヤメないけどさ、いつでも身を引けるようにはしなきゃなって思ってさ。」
カエル
「どうせならキミが仕切ってアイツラに仕事回してやればいいじゃん。」
便利屋のガイコツ
「いやダメ。そういうの苦手。」
カエル
「だよなー。」
便利屋のガイコツ
「それにオレはもう死んでるし、若い連中がココでなんかやりたいって言うんならジャマするつもりないしさ。」
カエル
「すっげえベテランの便利屋が言ってたらカッコいいけどキミもそんなに便利屋長くないじゃん。運び屋のついでじゃん。手広くやってるわけでもないし。」
便利屋のガイコツ
「まあそうなんだけどさ。なんか一回誰かに譲って終わりたかったんだよ。」
カエル
「手遅れだ。諦めな。もう死んでんだから。」
便利屋のガイコツ
「そうだな。」
カエル
「好きにやりゃいいじゃん。ジャマになんかならないよ。どうせ死んでんだから。」
便利屋のガイコツ
「2回言うのやめて。」
カエル
「キミが最初に言ったんだろ。」
便利屋のガイコツ
「もしアイツらが幅利かせて来ても傘はオレに運ばせろよ。」
カエル
「もちろん。」
便利屋のガイコツ
「絶対に。」
カエル
「絶対に。」
便利屋のガイコツ
「またヒマになるな。」
カエル
「まだわかんないよ。便利屋なんかやらないかもしれないし。」
便利屋のガイコツ
「やるわけねえか。」
カエル
「軽いジョークのつもりで言ったんだと思うよ。」
便利屋のガイコツ
「そうだよな。まあいいや、どうなっても。」
便利屋のガイコツ
「今日は帰るわ。」
カエル
「またね。」
天山遯
てんざんとん
十二消長卦の一つ。逃れる。退く。の意味。
同じく十二消長卦の山地剝は全て手遅れ手詰まりの悲惨な卦だったけど、この卦はまだ逃れる余裕も余力もあるうちに撤退の判断が出来た。危ないトコロだった。
動物はその野性を戦いには使わず、全力で逃げる事に使う。
これはマズいと自分の野生が感じたら、そこが引き際。潮時。
「三十六計逃げるに如かず。」「逃げるは恥だが役に立つ。」「逃げて逃げて逃げきりゃ勝ち。」生き延びろ。人の都合で死ぬな。
卦辞
遯。亨る。小は貞に利ろし。
とん。しょうはていによろし。
危機が迫っている。逃れれば上手く行く。
派手な事はせず、細々と小さい事なら行っても良い。
肌に感じるか感じないかぐらいのそよ風のような逃げ。
爻辞
あばよーとっつぁーん
初爻
遯尾。厲うし。
往く攸有るに用うる勿れ。
とんび。あやうし。
ゆくところあるにもちうるなかれ。
逃げ遅れ。危ない。
進もうとしてはいけない。
あそこでやめときゃ勝ってたのに。後悔先に立たず。
二爻
之を執うるに黄牛の革を用う。
之を勝げて説くなし。
これをとらうるに こうぎゅうのかわをもちう。
これをあげてとくなし。
丈夫な革ヒモで固く縛っておく。
それを誰も解く事は出来ない。
逃げちゃダメな時はある。でもそれは自分以外の他人の物差しや他人の書いた本が決める事じゃない。
三爻
遯を繋ぐ。疾有りて厲うし。
臣妾を畜えば吉。
とんをつなぐ。やまいありてあやうし。
しんしょうをやしなえばきち。
逃げようとするが、こだわりがあって逃げられない。
家来や妾を扱うように軽く扱えば吉。
失礼だけどね。
なんであんな事にこだわってたんだろうって後で後悔するよりは。
四爻
好めども遯る。
君子は吉。小人は否らず。
このめどものがる。
くんしはきち。しょうじんはしからず。
たとえ好きなものからでも逃げる。
君子はそれが出来るので吉。小人には出来ない。
逃げに徹する。自分の中の天使と悪魔。君子と小人。
五爻
嘉く遯る。貞吉。
よくのがる。ていきつ。
なんのためらいもなく逃げる。
逃げる事に徹底したので吉。
ここで逃げたら一生後悔するって?
オマエはな。
関係ねえ。逃げろ。
上爻
肥かに遯る。利ろしからざる无し。
ゆたかにのがる。よろしからざるなし。
余裕で逃げる。良くないわけがない。
そもそも危険に近づいてもいない。
やっぱりこれが理想。
理想。