48 水風井

48 すいふうせい


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ミートボール屋のガイコツ
「おつかれ。」

カエル
「上手くいった?」

ミートボール屋のガイコツ
「いったよ。」

茶番をトばす。

ミートボール屋のガイコツ
「開店二時間でソールドアウトよ。」

カエル
「マジかよすげえな。」

ミートボール屋のガイコツ
「キミの作ってくれたカサのおかげさ。」

カエル
「確かに。」

ミートボール屋のガイコツ
「周りの同業者も喜んでたよ。」

カエル
「それは良かった、帰ってゆっくりおやすみ。」

ミートボール屋のガイコツわ
「いや、また作って行かないと。」

カエル
「は?いいじゃん。全部売ったんなら。欲かいてもいい事ないぜ。」

ミートボール屋のガイコツ
「いや、もうオレだけの問題じゃない。」

カエル
「なんだよ、じゃあ。」

ミートボール屋のガイコツ
「その場の雰囲気だよ。店も客もあの場所の空気を求めてんのさ。」

カエル
「一体感ってヤツか。楽しそうでなによりだ。」

ミートボール屋のガイコツ
「だからこれからもう百人前作って売ってこなきゃならない。」

カエル
「大変だな。頑張れよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「というか仕込みを手伝って欲しい。大急ぎで。」

カエル
「イヤなんだけど。勝手に取り掛からないで欲しいんだけど。」

ミートボール屋のガイコツ
「いや、もうキミの言い分などその辺に落ちてる消しカスくらいどうでも良くなってしまっているからね。」

カエル
「いやいや。」

ミートボール屋のガイコツ
「いやいやじゃない。いいかい?これはキミが始めた物語なんだ。キミのあの一言から全て動き出した事なんだ。この大きな流れを作り出したのは紛れもなくキミなんだ。そして今キミはその大きな流れの中にいるんだ。だからこれをこれくらいの大きさに丸めて欲しい。」

カエル
「勝手に記憶を改竄するなよ。オレは一言も言ってないよ。ミートボール売りたいつって車いじって道具揃えてオレに色々作らせて、全部キミが勝手に始めた事だろ。そもそもそういう一体感とか同調圧力とか連帯責任とか連帯保証人とか面倒な事とはなるべく関わらないで生きて行きたいんだよね、オレ。例えば村はずれにポツンとある井戸みたいにさ、オレはただそこでコンコンと水を湧き出し続けてるだけで、人がその水を勝手に汲んで勝手に有効活用してくれるようなさ。」

ミートボール屋のガイコツ
「話が長えよ。口動かさないで手動かせよ。早く肉団子を作るんだよ。」

カエル
「やってるよ。キミはソースでも作ってろよ。二人で同じ事やっててもしょうがねえだろ。」

ミートボール屋のガイコツ
「ソースは余ってるからもう作らなくてもいいんだよ。ねーそんなに丁寧に丸めなくていいよ。作った先からナベにブチ込んでくれよ。」

カエル
「まだお湯が沸いてねえんだわ。先に沸かしとくんだよ、こういうのは。」

ミートボール屋のガイコツ
「もう入れちゃっていいんじゃないか?」

カエル
「まだ早いだろ。」

ミートボール屋のガイコツ
「でももう行かなきゃ。お客さんいなくなっちゃうよ。」

カエル
「いいよ、待っててくれない客なんか。」

ミートボール屋のガイコツ
「よくねえだろ。」

ミートボール屋のガイコツ
「とりあえず茹でるのは現地でいいか。」

カエル
「まあこれだけやってあれば充分じゃない?」

ミートボール屋のガイコツ
「行ってくるわ、ありがとう。無償で手伝ってくれたキミには今度バッタをごちそうするよ。」

カエル
「当然だろ。でも次からはバイトでも雇ってやんなよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「考えとくわ。」

カエル
「またね。」



水風井
すいふうせい


水の中に木(巽)の桶を入れて水を汲み上げるから井。人々の生活に不可欠な物事。現代で言うところの生活インフラや交通インフラのように多くの人に当たり前のように必要とされてはじめて存在してると言えるって事か。それとも人としての生活様式や人間関係の話じゃなくて自分が自分として存在する為の話か。

六十四卦全てに言える事だけど、自然の中の生物としての人間、群として社会で生活している人間、個人としての人間それぞれの視点で補完出来るフィールドの広さはホントすげえ。それに状況や心象とかが加わると占いになるんだろうな。逆か。当然のように在るべきものだから全部削ぎ落とさなきゃダメか。無理だぜ、にんげんだもの。

三陰三陽の卦。在るべきものがなくて困る一つ前の沢水困と真逆で、この卦は存在する事の意味がテーマ。


卦辞

井。
邑を改め井を改めず。
喪う无く得る无し。
往来井井たり。

汔んど至らんとするも、
また未だ井を繘せず。
其の瓶を羸る。凶。

せい。
ゆうをあらためせいをあらためず。
うしなうなくうるなし。
おうらいせいせいたり。
ほとんどいたらんとするも、
またいまだせいをきっせず。
そのつるべをやぶる。きょう。

村は井戸が涸れてしまっても他の場所に移る事が出来るが、井戸は村の為に移すことは出来ない大切な物。
人々は往来し、その井戸水を生活の糧にする。
溢れず涸れず井戸はずっとそこにあり続ける物。
ただ釣瓶を壊して水を汲めなくしてしまうのは凶。

一人一人持ち合わせてる心の井戸。
存在し続けるもの。変えてはいけない事。涸らしてはいけない事。自分を形作るナニカ。要は一番大事な事。
それがみんなの役に立つなら本当は幸せなんだろう。
でもそれを他人が有益な井戸と認識するかどうかは別の話。
でもそれでいいと思う。
井戸をぶっ壊してまで認められてもしょうがないから。


爻辞

井戸とは。アイデンティティーとは。


初爻

井泥して食われず。
旧井に禽无し。

せいでいしてくわれず。
きゅうせいにきんなし。

泥で濁って飲めない井戸水。
井戸が古過ぎて鳥すらも近寄らない。

まだ涸れた訳じゃないのに誰にも使われなくなった古井戸。
他人はおろか、井戸自身もそれを井戸と認識していない。


二爻

井谷鮒に射ぐ。
甕敝れて漏れる。

せいこくふにそそぐ。
つるべやぶれてもれる。

井戸の内壁から水が漏れ出し、水底のフナに注がれる。
釣瓶も壊れて水を汲み上げられない。

壊れてしまった井戸。
底で暮らすフナだけが恩恵を受ける。当然そのままでは井戸として機能しないただの生簀。


三爻

井渫えども食われず。
我が心惻みを為す。
用い汲むべし。
王明らかなれば
並びに其の福を受く。

せいさらえどもくわれず。
わがこころいたみをなす。
もちいくむべし。
おうあきらかなれば
ならびにそのふくをうく。

泥をさらって綺麗になった井戸水。
しかし誰も飲んでくれず悲しむ。
王が価値を認めて利用してくれれば、民もそれに倣い福を得る。

インフルエンサー。発言力、影響力の大きい人物にこれは井戸だと発信してもらえればいい。


四爻

井甃す。
咎无し。

せいいしだたみす。
とがなし。

井戸の内壁を修理する。咎められない。

いつ井戸として使われても良いように、整えておく。


五爻

井洌くして、寒泉食わる。

せいきよくして、かんせんくらわる。

清らかで冷たい井戸水。
みんなに飲まれる。

どんな時でも冷たい水を湧き出し続ける。


上爻

井収みて幕う勿れ。
孚有りて元吉。

せいくみておおうなかれ。
まことありてげんきつ。

井戸水を汲んだ後に蓋をしてはいけない。
多くの人に平等に行き渡るように。
元吉。

これこそが井戸の正しい姿。いつまでも井戸は井戸のままで。


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