36 地火明夷

36 ちかめいい


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ガイコツ
「は?」

カエル
「言ってみただけ。」

茶番をトばす。

ガイコツ
「バッタ持って来たよ。」

カエル
「ありがと。」

カエル
「雨はまだ降ってるの?」

ガイコツ
「止みそうにないね。まだまだ。でも、」

カエル
「ん?」

ガイコツ
「西の空に晴れ間が見えたような。夜だったから良く見えなかったけど。」

カエル
「そうか。」

ガイコツ
「体は動くの?」

カエル
「全然動かないし寒い。」

ガイコツ
「そうか。まあ、しばらくじっとしてなって。」

カエル
「そうさせてもらうよ。」

ガイコツ
「なんかさ。」

カエル
「うん。」

ガイコツ
「なんとなく感じたことなんだけどさ。」

カエル
「うん。」

ガイコツ
「この雨。ひょっとしてキミが降らせてる?」

カエル
「は?なんで?」

ガイコツ
「だってキミ、アマガエルだろ?アマガエルって雨降らすからアマガエルなんじゃないの?」

カエル
「そんなわけねえだろ。こっちはこの雨のせいで死にかけたんだぜ。」

ガイコツ
「だよな。でもさ、ここら辺は元々ほとんど雨なんか降らない地域でさ、人はおろかカエル一匹いない不毛の地だったからさ。」

カエル
「迷信だろ。そんなん。雨につられてカエルが出てくるんだよ。雨が先だよ。いつの時代の誰から聞いた話だよ。」

ガイコツ
「迷信。」

カエル
「そ、迷信だよ。神様も占いも幽霊もアマガエルも。全部迷信だ。」

カエル
「そのうち光の速度に近づけば時間の流れだって迷信になる。どいつもこいつもウソばっかりだ。」

ガイコツ
「なんかイヤな事でもあったのか?」

カエル
「別に。ただこのまま、ちっぽけなオレのまんま、何も知らないまんま、誰かの広げた風呂敷の中で死ぬのかなって思ってさ。」

ガイコツ
「キミは死なねえよ。あのな、迷信か真実かなんてどうだっていい。生きる為に、命を繋げる為に本気で信じてた時代があったって事が大事なんだ。キミの言う迷信やウソをさ。」

ガイコツ
「何が本当で何がウソかじゃない。何が現実で何が夢かじゃない。そんなモンいくらでもひっくり返って来たし、塗り替えられて来た事だ。」

ガイコツ
「キミが現実だと思って見てるものだって誰かの叶えた夢の延長線だ。キミの現実じゃない。」

ガイコツ
「たとえそれが夢や迷信だとしても信じれるものがそこにあるんならそれが自分にとっての現実だし真実だろ。それに・・・」

ガイコツ
「聞いてんのか?」

ガイコツ
「おい。」

ガイコツ
「おーい。」

ガイコツ
「死んじまったのか?」

カエル
「生きてるよ。」

ガイコツ
「気晴らしに占ってやろうか?」

カエル
「は?なに急に。」

ガイコツ
「占い出来るんだ。」

カエル
「いいよ。占いアテにするようになったら終わりだぜ。」

ガイコツ
「そうかい。」

カエル
「死にたくねえ。」

ガイコツ
「分かった。生かしてやる。だから今は休め。」

カエル
「またね。」

ガイコツ
「は?」



地火明夷
ちかめいい


明るさを夷る(やぶる)と書いて明夷。
太陽が地に沈み、全てのものを暗闇が包む。夜。

暗い夜道をとぼとぼ歩く。
星が見える夜ならいいのに。


卦辞

明夷。艱貞に利ろし。

めいい。かんていによろし。

正しい事が通らない時。
じっとして身を固く守っていた方が良い。

心滅。卑屈で後ろ向きな感情は、ある種の防衛本能。
外部からの影響を遮断し、傷を癒す為の生存本能。

でも夜が明け、朝が来るまでその明かりだけは絶やさずに。


爻辞

悪政に支配される不遇の時代において、大志を内に隠しただひたすら耐え忍ぶ。


初爻

明夷。于き飛び其の翼を垂る。
君子于き行きて、三日食わず。
往く攸有れば、主人言有り。

めいい。ゆきとびそのつばさをたる。
くんしゆきいきて、みっかくわず。
ゆくところあれば、しゅじんことあり。

暗い時代。低く低く飛ぶ鳥。
君子も三日間飲まず食わずで逃げるが、たどり着いた宿の主人に疑われ、文句を言われる。

のっぴきならない事態。セオリーも通じない。
逃げた方が良い。文句言われるくらいなら安いもん。


二爻

明夷。左股を夷る。用て拯う。
馬壮なれば吉。

めいい。さこをやぶる。もってすくう。
うまそうなればきち。

暗い時代。左ももを傷つけられる。
強く足の速い馬に乗れば逃げおおせる。吉。

傷は浅い。助けもある。まだ大丈夫。


三爻

明夷。南に于て狩りし、其の大首を得。
疾く貞にすべからず。

めいい。みなみにおいてかりし、そのたいしゅをう。
とくていにすべからず。

暗い時代。正義の心を持って悪の首領を討ち取る。
但し今は悪の栄えてる時代。悪を裁くのも性急であってはならない。

やっぱり誰と誰がつながってるか分からないからね。


四爻

左腹に入りて、明夷の心を獲。
于きて門庭を出づ。

さふくにいりて、めいいのこころをう。
ゆきてもんていをいづ。

王の腹心だがその王の悪意に気付き逃げ出す。

今は分が悪い。逃げるが勝ち。


五爻

箕子の明夷。貞に利ろし。

きしのめいい。ていによろし。

箕子のように暗い時代においても信念を失わない。

箕子(殷の時代の紂王の叔父)が狂人を装い難を逃れた逸話から。

狂った時代に飲み込まれて本当に狂っちまわないように。


上爻

明らかならずして晦し。
初め天に登り、後に地に入る。

あきらかならずしてくらし。
はじめてんにのぼり、のちにちにはいる。

心の無い王は、始めは勢いよく天に昇り、後に勢いを失い地に落ちる。

ピカレスクロマン。手段を選ばず全てを手に入れた王は、最後には全てを失う。

好きだけどね、スカーフェイス。


2 Comments

コメントを残す