63 水火既済

63 すいかきせい


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ガイコツ
「なにがいらっしゃい。だよ、まだいたのかよ。」

カエル
「アタマがボーッとしてる。」

茶番をトばす。

ガイコツ
「大丈夫かよ。雨なんかもうとっくに上がってるぜ?」

カエル
「知ってるよ。まだ支度が終わってないんだよ。」

ガイコツ
「最後までのんびりしやがってよ。」

カエル
「まあ、お別れも言いたかったからな。」

ガイコツ
「勘弁してくれ、気持ちわりぃ。」

カエル
「このカバン…。」

ガイコツ
「ああ、拾って来てやった。」

カエル
「そうだったのか。やっぱオレのかコレ。なんでこんなとこから出て来たのかと思ったよ。ありがとう。」

ガイコツ
「中身は保証出来ないけどな。」

カエル
「どうやって探したんだ?バッタもキミが捕まえて来てくれたんだろ?」

ガイコツ
「ヒミツ。まあ、簡単に言うと空飛んで拾って来たのさ。」

カエル
「なんだそりゃ。鳥にでもなってたのか?」

ガイコツ
「そんなもんだ。」

カエル
「何から何まで悪かったね、本当に。」

ガイコツ
「お礼を言いたいのはこっちのほうさ。指輪も見つかったし、何よりも楽しかったしな。」

カエル
「そうか、じゃあ、おあいこって事で。」
ガイコツ
「お、おう。」

カエル
「冗談だよ、恩に着るよ。」

ガイコツ
「お?どういたしまして。」

カエル
「ああ、これはキミのだろ?返しとくよ。」

ガイコツ
「オレのじゃないよ。キミが持ってたもんじゃないのか?」

カエル
「覚えてねえ。てっきりキミのかと。」

ガイコツ
「まだ記憶が戻ってないのか。」

カエル
「まあ、覚えてねえって事はそんな大事なもんでも無いんだろ。」

ガイコツ
「そんな寂しい事言うなよ、ずっと傍らにあったじゃねえかよ。」

カエル
「でもやっぱりコレはここに置いて行くべきだと思うんだ。なんか、キミの記憶の中の大事なモンのような…。」

ガイコツ
「いいからカバンに入れとけって。入れっぱなしで良いからさ、お守り代わりにさ。」

カエル
「しかし持って行こうとして持って行けるモンなんかね、夢の中のモンを。」

ガイコツ
「持って行けるはずだ。オレとキミの繋がりだったはずだ。それが何時か何処かでオレとキミとを再び引き合わせる。」

カエル
「気持ちわりぃ事言うなよ。」

ガイコツ
「それに、キミの目の前に誰かが勝手に広げた風呂敷よりも、キミが自分で引っ張ってきたサイコロの目のほうがアテになる時もあるかもしれない。」

カエル
「わかったよ、そこまで言うなら預かっとくよ。」

ガイコツ
「ありがとう。」

カエル
「?」

ガイコツ
「オレももう行かなきゃならない。」

カエル
「どこに?」

ガイコツ
「アイツらのトコ。」

カエル
「そうか、良かったな。今度はちゃんと家族みんなで仲良く暮らせよ。」

ガイコツ
「機会があったらそうさせてもらうよ。」

カエル
「……。」

ガイコツ
「…。」

カエル
「あー、ちゃんと弔ってやれなくてすまん。」

ガイコツ
「良いって。充分救われたさ。それよりもキミがまた溺れちまうんじゃないかとちょっと心配。」

カエル
「カエルがそんな頻繁に溺れるかよ。」

ガイコツ
「そうだな、普通は溺れねえわな。」

カエル
「…。」

ガイコツ
「…。」

カエル
「お別れだな。」

ガイコツ
「ん、先に行っていいぜ。最後くらいは見送ってやるよ。」

カエル
「そうか。名残惜しいけどな。」

ガイコツ
「旅の無事を祈ってるぜ。」

カエル
「世話になったな、命の恩人。不滅の頭骨。野ざらしの無冠の王よ。」

ガイコツ
「礼には及ばないさ。達者でな、くたばり損ない。1万年後の旅ガエル。」

カエル
「行くわ。」

ガイコツ
「元気でやれ。」

カエル
「じゃあ、」

ガイコツ
「またな。」

カエル
「またね。」



水火既済
すいかきせい


下へ流れ落ちる水と、上に燃え上がる火の瞬間的調和。めちゃくちゃカッコイイ。

あまりこのブログで触れて来なかったけど、爻には一段目から六段目までそれぞれ爻位という物が定められてて、下から数えて奇数の爻は陽、偶数の爻は陰が正しい位置とされてる。

他にも一段目から段々と地位が上がって行ったり、時間が進んで行ったり、隣同士の爻や離れている爻同士の相性など、爻を六段積み重ねて作られた大成卦から得られる情報はとても多いし、深い。

なぜ触れて来なかったかと言うと、既に偉大な先人の方々が書籍やウェブサイトで詳しく解説してくれているし、その上で周易(このブログでも扱ってる易占いの種類の一つ。)は、そういった易占いの原則や仕組みが卦辞と爻辞に内包されていると言うことなので、今更オレがなぞり書きしてもしょうがないと思ったから。(本当は何度か書いてみたけど上手く書けなかっただけ。)

話を戻すとこの卦はその爻位が全て正位置。つまり混じりっけなしの純正品。既にととのった状態。
ことごとく陰と陽が出揃った状態。

逆に言えばそれ以上にはならないという事。完成品もそのままにしておいてはいずれは崩れて、風化していくという事。

易経だって完成の連鎖だ。誰かが卦辞や爻辞や解説や日本語訳を書いてくれてるなんて思ってもないだろう。それぞれが完成させた時点では。

伏犠も文王も周公も孔子も自分の完成品が人から人へ継がれて行って、何百年何千年も先でオレみたいなヤツに読まれてるなんて思いもしなかっただろう。

随分劣化したって?違うね、時代と在り方が変わったんだよ。

完成さえも一過性。
それがこの卦を六十四卦中ラス前の六十三番目に置いた意味。


卦辞

既済。
亨るものは小なり。
貞に利ろし。
初めは吉にして終わりは乱る。

きせい。
とおるものはしょうなり。
ていによろし。
はじめはきちにしておわりはみだる。

既にととのっているので、順調に進む事も少しだけ。
この状態を守る事が良い。
初めのうちは吉だが、終わりにかけて乱れる。

最良の状態から段々と崩れていく。
古畑任三郎みたいに犯人目線で段々と追い詰められてくヤツみたい。

現状維持は後退だ。などといった挑発に乗る余裕などない、落ち目が見え透いてる未来と向き合った本当の意味での現状維持。現状を死守。
無理だけど。


爻辞

現状維持。それ以上は望まず。
無理だけど。


初爻

其の輪を曳く。
其の尾を濡おす。
咎无し。

そのりんをひく。
そのおをうるおす。
とがなし。

車の車輪を引っ張って止める。
狐は川を渡ろうとしてその尾を濡らす。
咎められない。

今現在が一番収まりが良いので、これ以上進んでしまわないように車を止めて置く。
川を渡ろうとした狐も、尾を濡らしただけで戻ってくる。

現状維持で。


二爻

婦其の茀を喪う。
逐うこと勿れ。
七日にして得ん。

ふそのふつをうしなう。
おうことなかれ。
しちじつにしてえん。

婦人が車の覆いを盗まれ出かけることが出来ない。
追わなくて良い。
七日経てば戻ってくる。

現状を、維持。


三爻

高宗鬼方を伐つ。
三年にして之に克つ。
小人は用うる勿れ。

こうそうきほうをうつ。
さんねんにしてこれにかつ。
しょうじんはもちうるなかれ。

高宗が遠方の異民族を三年も掛けて討伐する。
そんな小人は用いてはならない。

高宗は殷(商)時代の王様。国が既にととのっているのに戦争を起こして、兵や民に無駄な労力を使わせてる。

現状維持だっつってんだろ。


四爻

繻に衣袽あり。
終日戒めよ。

じゅにいじょあり。
しゅうじついましめよ。

船底の穴から水が漏れるのをボロ切れで塞いでおく。
一日中警戒を怠らない。

豪華な着物の内側からボロボロの服が見え隠れしてるって説も。
どちらにせよととのっていた状態が次第に崩れ、所々にボロが出てきた。


五爻

東隣の牛を殺すは、
西隣の禴祭して
実に其の福を受くるに如かず。

とうりんのうしをころすは、
せいりんのやくさいして
じつにそのふくをうくるにしかず。

東の国の祭りは牛を殺して供物として捧げる。
西の国の祭りは供物は質素だが、誠意が込めてあるので福を受ける。

既にととのってはいない状態なので、見栄や虚勢を張らずに細々と。


上爻

其の首を濡おす
厲うし。

そのくびをうるおす。
あやうし。

狐が川を渡ろうとして首まで濡らす。
危うし。

手遅れ。


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