29 坎爲水

29 かんいすい


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

便利屋のガイコツ
「おつかれー。」

カエル
「おつかれ。」

便利屋のガイコツ
「何占ってんの?」

カエル
「ちょっとね。」

茶番をトばす。

便利屋のガイコツ
「まあいいや。ちょっと時間潰させて。」

カエル
「いいよ、何か飲む?」

便利屋のガイコツ
「コーヒー飲みたい。」

カエル
「あいよ。」

便利屋のガイコツ
「ありがとう。」

カエル
「仕事どう?」

便利屋のガイコツ
「最近やっとヒマになってきてさ。」

カエル
「忙しそうだったもんね。憐れに思うくらいに。」

便利屋のガイコツ
「頑張ってる人を見て憐れむんじゃない。」

カエル
「憐れまれたくないなら一人で誰にも見られないように頑張れよ。」

便利屋のガイコツ
「そうかい。」

便利屋のガイコツ
「しかしキミもさ、せっかく占い出来るんだから占い師をちゃんと生業にすればいいのに。」

カエル「いいよ、仕事にしたらつまんねえよ。」

便利屋のガイコツ
「そんな事ないさ。」

カエル
「気分がのらない時にも、イヤなヤツ相手でも占わなきゃならないんだぜ。」

便利屋のガイコツ
「そりゃ仕事だもの。」

カエル
「悪い卦が出ちゃったら言いたくない事も言わなきゃならないしさ。」

便利屋のガイコツ
「そこら辺はまあ、便宜を図ってさ、アドバイスしたり応援したりすればいいんじゃないの?」

カエル「それじゃ人生相談とかカウンセラーじゃん。」

便利屋のガイコツ「人生相談みたいなもんだろ、結局。着地点は。」

カエル
「でもさ。」

便利屋のガイコツ
「うん?」

カエル
「例えばキミが占い師だとしてさ、ものすごく深刻そうな顔した人がなけなしのお金持って占ってくれっつって来てさ、」

便利屋のガイコツ
「うん。」

カエル
「もう占わなくても分かるくらい深刻なの。」

便利屋のガイコツ
「例えば?」

カエル
「例えばもう結構トシいった人でさ、かみさんと子どもに出ていかれて、仕事もクビになって、おまけに病気とかも患っちゃってさ。」

便利屋のガイコツ
「いる?そんなヤツ?」

カエル
「例えばさ。もう目もうつろで、服もきったなくてさ。」

カエル
「その人占ってさ、けっこう悪い卦とか出ちゃったらさ、目の前のそんな人に対してそれ言える?あー良くないですねつって。見りゃ分かるのにさ、わざわざ不安煽るような事をさ。」

カエル
「そんで散々不安煽ったあとに自分次第で未来は変わりますよって言える?」

便利屋のガイコツ
「言えない。金貸してやったほうがまだ気が利いてると思う。それかウソついちゃうかも。」

カエル
「でしょ?ウソついちゃうって事はそれは占ってないって事じゃんか。」

便利屋のガイコツ
「良いんじゃないの?ウソでも。」

カエル「なんで?」

便利屋のガイコツ
「なんなら占いのテイを成してなくても。親身にならなくてもさ。無責任で一方的な言動にも人を救う力はあるよ。」

カエル「それはそれなりに濃い人生歩んで来た人の言葉だからだよ。こんなどこにでもいるムダにトシだけ食った井の中の蛙が何言ったって誰にも届かないよ。」

便利屋のガイコツ
「井の中の蛙でも歌くらい歌ったっていいだろ。人生の濃い薄いじゃない。自分と違う生き方してきた人の言葉にこそ、自分の人生をより良くする手がかりが隠れてんだよ。」

便利屋のガイコツ
「キミの言葉なんか一方的でありのままでいい。相手がどう受け取るかだろ。」

カエル
「・・・・。」

便利屋のガイコツ
「例えば胡散臭いカエルの占いでも人生変える理由になる事だってあるさ。」

カエル
「それは占う前からキミが望んでた事だろ。」

便利屋のガイコツ
「だからいつだって受け取る側だって。あの時の占いはウソだったのかよ?」

カエル
「出た卦はホントだよ。ちょっと意外だったけどさ。」

便利屋のガイコツ
「だからキミ自身が誰にもコントロールされたくないから人もコントロールしたくないってんならそれはキミの孚(まこと)ってヤツなんだからそれをそのまま相手に伝えればいいんだよ。孚の使い方は合ってる?」

カエル
「多分合ってるよ。でもオレはやっぱり無責任な事言って相手の生活に影響与えたくないよ。」

便利屋のガイコツ
「わかったこうしよう。例えばキミが傘を作るだろ?」

カエル
「なに急に。」

便利屋のガイコツ
「急にじゃないんだ。だいぶ前から考えてた。」

カエル
「うん。」

便利屋のガイコツ
「例えばキミが傘を作るだろ?」

カエル
「うん。」

便利屋のガイコツ
「その傘に占い結果を書いた紙を仕込んどくんだ。開くと落ちてくるように。」

カエル
「メンドくせえよ。」

便利屋のガイコツ
「卦の名前とその意味だけで良いよ。」

カエル
「おみくじを作れって事?」

便利屋のガイコツ
「おみくじというよりは当たり付きの自動販売機みたいなノリでさ。」

便利屋のガイコツ
「だから悪い卦は書かない。カサ買っただけなのに気分悪くさせる必要もないからな。」

カエル
「確かにたまったもんじゃねえな。」

便利屋のガイコツ
「だから全部の傘には入れない。紙が入ってたら当たり。入ってなかったらハズレ。」

カエル
「その占い傘を値段高くして売れって事?」

便利屋のガイコツ
「いや、傘は名刺代わりさ。ここの住所と電話番号を書いてさ。あと代金も。」

便利屋のガイコツ
「だから結果キミのトコロに来る人はキミに占って欲しいってヤツだけになる。」

カエル
「なんかズルくない?」

便利屋のガイコツ
「全然ズルくない。なぜならキミがズルくならないように占うから。」

カエル
「そもそもそんなんで人が来るかも分からないし。」

便利屋のガイコツ
「試しにやってみなって。」

カエル
「わかったよ。スゲエメンドくさいけどそこまで言うならやるよ。」

便利屋のガイコツ
「どうせヒマだろ。」

カエル
「でも傘は売らない。」

便利屋のガイコツ
「おい。」

カエル
「拾って治した傘だけにする。」

便利屋のガイコツ
「タダでバラまくの?」

カエル
「タダで。」

便利屋のガイコツ
「普段作ってる傘とは別に占い用の傘も作るって事?」

カエル
「そうだよ。名刺で金は取れないだろ。」

便利屋のガイコツ
「まあね。」

カエル
「もちろん傘バラまくのはキミがやってくれるんだろ?」

便利屋のガイコツ
「ヒマ見てパチ屋の入口にでも置いて来てやるよ。」

カエル
「まかせた。」

便利屋のガイコツ
「まあ、オレの思い付きでしかないからさ。のんびり自分のペースでやんなよ。」

カエル
「そのつもりだよ。どうせ誰も来ないしな。」

便利屋のガイコツ
「来るさ。」

便利屋のガイコツ
「じゃあ帰るよ。」

カエル
「ありがとう。」

便利屋のガイコツ
「お互い様さ。」

カエル
「またね。」



坎爲水
かんいすい


八純卦の一つにして四難卦の一つ。

悩む、苦しむ、陥る、険しいという意味の小成卦「坎」を二つ重ねた卦。つまりはそういう卦。

一難去ってまた一難。あるいはすでに穴の中。

フォローというわけではないけど、「坎」の真ん中の陽爻は自分の信念とか誠の心とか真心という意味。
易経ではそれを爪の下に子と書いて「孚」(まこと)という言葉で表す。

本来誰でも持ち合わせてるはずの親鳥が我が子を爪で守るような、善悪や損得勘定抜きで押し通さなきゃならないもの。つまり漆黒の意思。ちなみに今のオレには無い。

深くて暗い穴の中でも自分の信念は曲げちゃいけないし、穴に陥ったのも信念を曲げずに貫いてきたから。

平場では説教クサいけど落ち込むと励ましてくれるのが易。その代表みたいな卦。


卦辞

習坎。孚有り。維れ心亨る。
行きて尚ばるる有り。

しゅうかん。まことあり。これこころとおる。
ゆきてたっとばるるあり。

坎が重なる。辛く苦しい時だが自分に信念があれば必ず通じる。

利益や損得勘定だけが人の生き方じゃない。
人を騙すよりは自分が痛い目を見る方を選ぶ人もいるだろ。


爻辞

ヤダヤダ言っても足は前に進む。


初爻

習坎。坎窞に入る。凶。

しゅうかん。かんたんにはいる。きょう。

穴の中のそのまた穴の中に陥る。凶。

どん底から抜け出せない。


二爻

坎に険有り。求めて小しく得。

かんにけんあり。もとめてすこしくう。

穴の中の苦難。自分から行動した方が少しだけマシ。

腐らず努力を。


三爻

来るも之くも坎坎。
険にして且つ枕す。
坎窞にはいる。用うる勿れ。

くるもゆくもかんかん。
けんにしてかつまくらす。
かんたんにはいる。もちうるなかれ。

進むことも引き返す事も出来ない。
下手に動くと穴に落ちてしまう。
動かない方がいい。

進退窮まる。
でもまだ生きてる。


四爻

樽酒簋貮。缶を用う。
約を納るるに牖よりす。

終に咎无し。

そんしゅきじ。ふをもちう。
やくをいるるにまどよりす。
ついにとがなし。

苦難の時なので少しのお酒と食べ物を質素な器に入れて、窓からこっそり差し入れる。
気持ちが伝わったので咎められない。

落ちぶれた君主と忠実な配下のハートフルストーリー。

財布が空になっただけじゃ終わりじゃない。誰からも金を借りれなくなった時が本当の終わり。
若いころ遊んでもらってた先輩の名(迷)言。
ロクでもねえ人だなと思ったけど、その時に貸してあげなかったヤツのいう事じゃない。


五爻

坎盈たず。既に平らかなるに祇る。
咎无し。

かんみたず。すでにたいらかなるにいたる。
とがなし。

穴の中に水が入り込んできてその穴を満たす。
咎められない。

入り込んできた水に浮かんでそのまま穴から出る事が出来た。

やっと抜け出す手がかりを見つける。

良く耐えた。


上爻

繋ぐに徽纆を用う。
叢棘に寘く。
三歳得ず。凶。

つなぐにきぼくをもちう。
そうきょくにおく。
さんさいえず。きょう。

太い縄で縛られ、茨の牢獄に三年間。凶。

苦難の時に人の道を外れた者の末路。
道を失う。

みんな困ってる時だからしょうがないと言えばしょうがないけど、マスク買い占めて転売は流石に無しだろ。


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