15 地山謙

15 ちざんけん


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

便利屋のガイコツ
「おつかれー。」

カエル
「なにその恰好?」

便利屋のガイコツ
「今日はちょっとお客さんの物置の片付けをしてきた。」

茶番をトばす。

カエル
「便利屋ねえ。」

便利屋のガイコツ
「メインは運び屋だけどね、アルバイトさ。」

便利屋のガイコツ
「まあ運び屋っつってもオレの車で運べるモンなんてたかが知れてるしさ。」

カエル
「広く浅くか。」

便利屋のガイコツ
「そうそう。」

カエル
「キミらしくて良いんじゃない。」

便利屋のガイコツ
「その傘もついでに売ってきてやろうか?」

カエル
「これは頼まれて作ったヤツだからダメ。」

カエル
「そっちのなら拾ったの治したヤツだから。金にしてくれるんなら助かる。」

便利屋のガイコツ
「任せとけよ。」

カエル
「頼もしいな。」

便利屋のガイコツ
「その代わりと言っちゃなんだけどさ、」

カエル
「うん。」

便利屋のガイコツ
「手先の器用なキミにちょっと作って欲しい物があるんだ。」

カエル
「ん?」

便利屋のガイコツ
「道具袋。」

カエル
「なるほど。」

便利屋のガイコツ
「とりあえず手持ちの武器は全部車に積んどこうと思ってさ。」

便利屋のガイコツ
「袋あったら便利かと思って。」

便利屋のガイコツ
「丈夫で、ぬれても平気で、ポケットいっぱい付いてるヤツがさ。」

カエル
「今ある材料で作ってやるよ。」

便利屋のガイコツ
「いつになく頼もしいな。」

カエル
「ちょっと待っててね。」

便利屋のガイコツ
「ヒマつぶしになんか占ってみよっと。」

カエル
「うん。」

便利屋のガイコツ
「明日の現場で何させられるか。」

カエル
「明日はどこの仕事なの?」

運び屋のガイコツ
「いつも食材とネコのエサ運んでる寺。」

カエル
「ああ。」

運び屋のガイコツ
「ネコが逃げたかな?」

カエル
「まさか。」

運び屋のガイコツ
「出た、なんだこれは?」

カエル
「ああ。地山謙の、初爻だ。」

運び屋のガイコツ
「良さそう?」

カエル
「覚えてねえ。」

カエル
「ちょっと待ってね。」

カエル
「謙。亨る。君子終わり有り。」

カエル
「初爻だから、謙謙。君子用いて大川を渉る。吉。」

運び屋のガイコツ
「吉!でも終わり有りって。」

運び屋のガイコツ
「終わるの?オレ?」

カエル
「腰は低くした方がいいね。」

運び屋のガイコツ
「いつも低いけど。」

カエル
「うそつけ。」

運び屋のガイコツ
「ちゃんと敬語しゃべるし。」

カエル
「ならいいけどさ。」

カエル
「でもいつも以上に謙虚さを前面に出した方がいいね。」

便利屋のガイコツ
「わかりました。」

カエル
「あと之卦が地火明夷だから。」

カエル
「夜遅くまでかかるか、自分でも何してるか分からん様な仕事を後で押し付けられるか。」

便利屋のガイコツ
「ヤダなあ。」

カエル
「でもまあ、吉だし終わり有りだからな。」

便利屋のガイコツ
「お金もらえる?」

カエル
「キミが本当に謙虚なら。」

運び屋のガイコツ
「ふーん。」

運び屋のガイコツ
「もう出来たじゃん。」

カエル
「うーん、ちょっと失敗したかも。」

便利屋のガイコツ
「いいよ、そんな細かいトコ。」

カエル
「ごめんね。」

運び屋のガイコツ
「全然。いいじゃん。」

カエル
「まあ、ちょっとやそっとじゃ壊れないと思うよ。」

便利屋のガイコツ
「ありがとう。」

カエル
「お安い御用さ。」

便利屋のガイコツ
「またバッタ持ってくるよ。」

カエル
「傘もよろしくね。」

運び屋のガイコツ
「じゃ、また来るわ。」

カエル
「またね。」



地山謙
ちざんけん


謙虚とか謙遜とかの謙。へりくだり。
高くそびえ立つはずの山が(何よりも)低い地の下にある形。
本当は地位も実力もある君子が、それを隠して人に付き従う。

ちなみにこの卦や一つ前の大有の卦みたいに極端に陰や陽に偏った卦は、異性にモテるとのこと。だから何だと言われればそれまでだけど。
この地山謙は「一陽五陰」で異性にモテる。

謙虚な人ってステキよね。


卦辞

謙。亨る。君子終わり有り。

けん。とおる。くんしおわりあり。

謙虚、謙遜の時期。
実力は十分あるが、それを表に出さずに人の下につく。
それを最後まで成し遂げられるのは、君子のような高い志を持つ者だけ。

能ある鷹は爪を隠すって言うとアレだけど、実際敵は少ない方がやりやすい。

ただずっと謙遜していると、いつしか本当に自分の価値なんてこんなもん的な考え方が染みついてくるので、いつまでか、何の為かは見失わないように。

終わり有り。だ。


爻辞

自分だけが謙虚でもしょうがない説濃厚。


初爻

謙謙。君子用いて大川を渉る。吉。

けんけん。くんしもちいてたいせんをわたる。きち。

謙遜中の謙遜。君子は大川を渡るような大事を行っても良い。
吉。

低くと決めたら誰よりも低く。仕切りは人に任せて。


二爻

鳴謙。貞吉。

めいけん。ていきつ。

謙遜している人を見てそれに習う。貞しくて吉。

謙虚な態度の人には自分も見習って謙虚な態度で。


三爻

労謙。君子終わり有り。吉。

ろうけん。くんしおわりあり。きち。

地位もあり、責任も伴う立場だが最後まで謙虚。吉。

苦労が報われる時。有終の美。


四爻

利ろしからざる无し。謙を撝く。

よろしからざるなし。けんをまねく。

全ての人に謙虚な態度で接する。良くないわけがない。

自分の謙虚な姿勢を見て、周りも謙虚に。謙虚の螺旋。


五爻

富まず。其の隣を以ゆ。
侵伐するに利ろし。
利ろしからざる无し。

とまず。そのとなりをもちゆ。
しんばつするによろし。
よろしからざるなし。

自分は謙虚な態度で人と接しているのに、
それを侮辱される。戦え。
良くないわけがない。

五爻なので君主の立場。

こっちは相手にイヤな思いさせちゃ悪いと思って大人しくしてるのに。

勘違いすんな。


上爻

鳴謙。
用いて師を行り邑国を征するに利ろし。

めいけん。
もちいてしをやり ゆうこくをせいするによろし。

謙遜している人を見てそれに習う。
それに異を唱える輩とは戦うべき。

謙遜の輪の中において、一人だけ空気を読まないヤツが。

勘違いすんな。


コメントを残す