

イノセントの店主
「よお、やっぱりシンじゃねえか。」

シン
「老けたな、オッちゃん。」
イノセントの店主
「なにがオッちゃんだ。今までどこほっつき歩いてやがった?」

シン
「出稼ぎだよ。ココにわざわざ顔見せないだけで、この街にもちょくちょく帰って来てはいるんだぜ?」
イノセントの店主
「そうかい、死ぬ前にまたバカ面拝めて嬉しいよ。他の悪ガキ共は?」
シン
「知らねえ。どっかで生きてるか、とっくにくたばってるか。」
イノセントの店主
「オマエさんは真っ先にくたばりそうだったのにな。」
シン
「どうにも逃げ足だけは早くてね。」
イノセントの店主
「顔出すんなら土産くらい持って来いよ。」
シン
「オッちゃんに会いに来たのはついでさ。ちょっとツレと待ち合わせだ。」
イノセントの店主
「へっ、ツレなんかいねえよ。」
シン
「?」
イノセントの店主
「これに見覚えはあるか?」

シン
「!?」
COM社のIDカードにアイツの顔写真…。トクマ、だって。相変わらず芸の無え偽名だ。
シン
「オッちゃんがオレにメールを寄越したのか?」
イノセントの店主
「ああ、なんとかこじ開けたアドレス帳に懐かしい名前があったから、もしかしたらと思ってな。」
シン
「どこでコレを?」
イノセントの店主
「客が持ってきたんだよ。」
シン
「どんな客だ?」
イノセントの店主
「さあてね。聞くなよ、んな事。ここで商売出来なくなっちまうだろ。」
シン
「頼む。」
イノセントの店主
「ダメー。」
シン
「頼むよ、オッちゃん。」
イノセントの店主
「あのな、まだヨチヨチ歩きのオマエらが地下ゴミに混ぜて持って来た出処不明のブツを足がつかねえように売り捌いてやったのは誰だと思ってる?
もうガキじゃねえんだ、知りたきゃ自分で探れ。」
シン
「この写真の男が持って来たのか?」
イノセントの店主
「…違う。」

COM社かカンザキに始末されたか?
いや…どちらにしてもアイツの所持品をこんな胡散臭いところで売り飛ばすはずがない。
おそらくはここに持って来たヤツに襲われて、奪われた…。
シン
「一人か?」
イノセントの店主
「店に入って来たのはな。」
シン
「電源が入らないぜ。」
イノセントの店主
「データを抜き取ろうとしてPCに繋げた途端、警告文が出てPC諸共ブラックアウトしちまった。色々試したが、もうウンともスンとも言わねえ。」
シン
「壊れたのか?」
イノセントの店主
「まあ、簡単に言うとそうなるわな。」
シン
「もう治せない?」
イノセントの店主
「AI言語がどーとか書いてあったからな。専門家でも、設備が無きゃ無理だな。」
シン
「でも、昔はそのスジの仕事をしてたんだろ?地下に行きたくねえからわざわざジャンク屋に…。」
イノセントの店主
「最初に開業したのは宿屋だよ。ガラクタいじりは元々カミさんの趣味だ。」
シン
「経験と勘で何とかならないもんか?」
イノセントの店主
「お手上げだ。オレが足洗ってからもコイツらは何十年も進化し続けてるからな。人工知能って名詞以外は、ナニからナニまで別モンだ。」
シン
「なんで地下に行かなかったんだ?」
イノセントの店主
「サルにはなりたくねえと歌った大昔のミュージシャンを思い出してね。」
シン
「わけわかんねえ。」
イノセントの店主
「冗談だよ。平たく言えば途中下車したのさ。地上で生まれて空を仰いで来た人間と、宇宙で作られて星を観測してた人工知能とじゃ、目的地がそもそも違う。」


シン
「…。」
イノセントの店主
「より正確に、より合理的に、より速く、より体系的に。
進化の果てが、原初ならば、ヒトの知性は、誰が継ぐのか。」

シン
「地下に潜ると、サルになっちまうのか?」
イノセントの店主
「行かなくたってとっくの昔にサルさ。立場的にはな。」
シン
「…。」
イノセントの店主
「何モンだコイツは?COM社の人間がなんでオマエと繋がってる?」
シン
「さあな。知りたきゃ自分で探ってくれ。」
イノセントの店主
「けっ。」
シン
「オッちゃん、タネって知ってるか?」
イノセントの店主
「タネ?知らんな。何か関係あんのか?」
シン
「いや、個人的な好奇心さ。オレには無関係だ。」
無関係のはずだ。
イノセントの店主
「COM社とも関係が?」
シン
「COM社が欲しがってんだ。」
イノセントの店主
「今どこにある?」
シン
「知らねえ。」
イノセントの店主
「なんか、しくじったのか?」
シン
「いや、ホント。オレは関係ねえんだ。」

イノセントの店主
「その写真の男もか?」
シン
「多分な。」
イノセントの店主
「ふーん…最近見ねえが、あのいつも眠たそうな弟は元気か?」
シン
「あのバカは相変わらずだ。」
イノセントの店主
「あの生意気な嬢ちゃんも?」
シン
「相変わらずだと、言いたいけどな。」
イノセントの店主
「そうか。いい加減ゴミ山なんざ見切り付けて、とっくに別の仕事を見つけたのかと思ってたよ。」
シン
「そろそろ行くわ。色々と悪かったな、オッちゃん。オレも世話になった年寄りに面倒かけるつもりは無え。」
イノセントの店主
「オトナになっちまったんだな。」
イノセントの店主
「で、コレどうする?引き取って貰えると有難いんだが…。」
シン
「そうさせて貰うよ。」
イノセントの店主
「五万。」
シン
「金は取んのかよ。」
イノセントの店主
「あたりめぇだろ、商売なんだから。」
シン
「もうちょっとマけろよ。」
イノセントの店主
「バカ言え。オレだって商売道具一台ぶっ壊されてんだ。サービスしたつもりだぜ。」
シン
「けっ。」
シン
「達者でな、オッちゃん。」
イノセントの店主
「待ちな。」
シン
「あん?」
イノセントの店主
「餞別だ。サービスついでに一丁やるよ。」
シン
「なんだコレ?」

イノセントの店主
「︎︎゛スナフキン゛文明衰退期に民間に出回った使い捨ての散弾銃だ。」
シン
「スナフキン?これが銃?引き金も何も無えぞ。」
イノセントの店主
「封を切ってピンを抜くと、三秒後に内蔵されたショットシェルを三連射する。」
シン
「撃ち終わったら?」
イノセントの店主
「燃えないゴミか、水の入ったバケツへ。」
シン
「何に使うんだよ、んなモン。」
イノセントの店主
「例えば、ウデの悪い使い手が、なるべく金を使わないで、目の前の的を確実に、一方的に。」
シン
「私刑用か?趣味の悪りい銃だ。」
スナッフ・キングね。
イノセントの店主
「だからちょっとイジった。イノセントの特別製だ。」
シン
「ちゃんと弾は出るんだろうな。」
イノセントの店主
「もちろん。出来れば祝砲にでも使って欲しいがね。」
シン
「じゃ、当分使い道は無さそうだ。」
イノセントの店主
「達者でやれ。」
シン
「ああ…。」

シン
「こんなガラクタ、脅しにもならねえ。ナグリに使った方がまだ気が利いてるぜ。」
イノセントにて。



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