
店主
「いらっしゃい。」

ゴン
「どうも。」
店主
「お、なんだまた来たのか?」
ゴン
「近くまで来たんでね。」
店主
「二人か?」
ゴン
「うん。」
タクミ
「…。」

店主
「なんだ?ケンカしてんなら帰れよ。オレとこの店を巻き込むんじゃねえよ。」
ゴン
「そんなんじゃないよ。」
店主
「食ってくのか?」
ゴン
「ああ。」
店主
「適当に座ってな。」
ゴン
「ふう…。」

ずっとだんまりか…。
全く何考えてるか解らねえ。
ここに来るまではオレの前をずっと歩いてたのに、店に入る素振りを見せたらちゃんとついてきやがった。
こんなコイツ見た事ねえ。
でも怒ってるとかではなさそうだ。
いつもコイツが怒る時は口と手と足が同時に飛んで来るほどの癇癪を起こすはずなんだ。
花を枯らした時も、食費を使い込んだ時も、いつもわめき声を聴きながら殴られて、蹴られてた。全然痛くも痒くもなかったけど。
カエル
「な、なにいぃぃいっ?!」
ゴン
「!?」

ゴン
「ちょちょちょっと、何やってんだよタクミっ!」
タクミ
「…。」
ゴン
「こっち来てろよ、もう。」
ゴン
「ごめんなさい、カエルさん。」
カエル
「めめちゃくちゃ怖い夢を見てるのかと…。」
ゴン
「本当にごめんなさい、寝てたのに。」
カエル
「危うく伸びすぎて千切れるところだったぜ。」
ゴン
「カエルって伸びるんだな。」
カエル
「オレだけはな。」
ゴン
「なるほどー。」
カエル
「…何モンだ、あのコ?」
ゴン
「寝ぼけてんのか?昼間会ったじゃん、オレのカノジョ。二人で占ってもらったじゃん。」
カエル
「あんな感じだったっけ?」

ゴン
「まあ、服も変わってるし、今ちょっと機嫌が悪いんだ。」
タトゥーも入ってるし。
カエル
「なんだ?浮気でもバレたのか?相談乗ろうか?手遅れかもしれないけど。」
ゴン
「そんなんじゃないよ。」
浮気か…。そのパターンもあるか…。
コイツが浮気するような女じゃ無い事はわかってるが、コイツが案外モテるのと、オレが浮気されてもしょうがない甲斐性無しという事もまた事実。
とするとこのダセえタトゥー(シール?)は間男の趣味だろうか。
沈黙の意味は決別の意志の表れか。
どっちみち話は聞かなきゃならない。
これは兄貴にぶん殴られるかもしれないな。
めんどくせえな。
終わんねえかな、世界。

カエル
「…。」


カエル
(離為火。牝牛の貞に利ろし。外観盛んに見えて、内実伴わず。不機嫌な演技とかでもなさそうだが。マジで何モンだあのコ。)

カエル
(変爻は四爻。突如其れ來如。焚如。死如。棄如。)

カエル
(焼かれ、殺され、捨てられる。縁起でもねえ、寝たフリしてよ。)
ゴン
「なんか食べようぜ。」
タクミ
「…。」
ゴン
「座んなよ。言いたい事があるなら、黙って聞くし、事実は事実として、重く受け止めるからさ。」

ゴン
「タクミさん、すげえけどやめて。」
やはり奇行が目立つ…。普段から常識人とは言い難いが、今日は特に異常だ。やっぱり別れ話とかではないか?
昼間は普通だった。兄貴の前ではお姉さんぶって。私がゴンの面倒見てるのよ、なんて顔をして。いつも通りのタクミだった。
本当にいつも通りだったか?
カンザキさんの工場。勤めてる工場が爆発してたんだ。
心配してた。リリの事を。タクミが仕事で観察してる「タネ」だ。それが何なのかは分からないが、爆発の影響がコイツの仕事にもあったんだろう。職を失ったとか、責任を負わされたとか。あるいはそんな事じゃなくてもっと異常な状況…。
タネ…。
爆発…。
面談…。
タクミ
「…。」
店主
「注文は?」
「あ、オレこれ、ナントカソーセージ?何それ?ウマいの?」
店主
「魚肉だ。魚肉ソーセージ。」
ゴン
「ギョニク?」
店主
「魚の肉だ。」
ゴン
「サカナ?」

店主
「魚知らんのか?海に泳いでるだろ。」
ゴン
「ウミ…?」
店主
「何なら知ってるんだよ。海も知らんのか?そうか、そんな世代か。トシいくつだ?兄ちゃん?」
ゴン
「22。」
店主
「嬢ちゃんは?」
ゴン
「自称24。」
店主
「それくらいのトシならギリ知ってんだろ。ガキの頃とかに親から教わったりしなかったのか?危ねぇから海には近づくなって。」
ゴン
「親はいねえ。オレもこのコも兄貴が親代わりなんだ。」
店主
「そうか。そんな世代でもあったな。兄貴って、昼間一緒にいたトサカ頭か?」
ゴン
「うん。ガラは悪いし口も悪いけど、面倒見のいい自慢の兄貴さ。」
店主
「一応聞くけど、血の繋がった?」
ゴン
「多分オレはね。このコは違う。お節介な兄貴が連れてきたんだ。犬と猫を拾って来たと思ったら、いつの間にかに人間も拾ってきやがった。」
店主
「ふーん。」
ゴン
「なんなんだ?ウミって?」
店主
「でっかい、でっかい水たまりだ。」
ゴン
「あー…。」

ゴン
「アレが海か!兄貴に連れてってもらった事があったわ。確かにでっかい水たまりだった。ちょっとクスリ臭かったんだ。」
店主
「おう、それが海だ。その海に泳いでるのが魚だ。薬の匂いは多分浄化の過程で発生するガスの匂いだ。」
ゴン
「そんなトコに泳いでるヤツが食えんのかよ?」
店主
「今はもう問題無い。素潜り出来るぐらいキレイなもんさ。」
ゴン
「へー。アレが海だったか、魚が泳いでるのか。」
店主
「そうだ。その魚の肉が魚肉ソーセージだ。」
ゴン
「じゃ、それで。」
店主
「嬢ちゃんは?」
タクミ
「…。」
ゴン
「あ、メロンソーダで。」
店主
「あいよ。」
ゴン
「…。」
そういえば兄貴も様子が変だった。やたらタクミの事と、昨日の晩の事を気にかけてるみたいだった。

オレにも聞いてきた。タネの事、カンザキさんの事。
思えば正常とは言えない事ばかりだ。ゴミ山の大金もそうだ。いつも通りの日常のはずなのに、少しだけ違って…。
まるで高確中の前兆演出みたいに、少しずつ変わってる。

ゴン
「なにいぃぃいい?!」
タクミ
「…。」
ゴン
「な、何すんだよっ!」
店主
「お?なんだなんだ揉め事か?追い出すぞ、コラ?」
ゴン
「ごめんなさい、なんでもないんだ。ちょっと水こぼしちゃってさ。」
店主
「店汚すんじゃねえよ。」
ゴン
「ほんとごめんなさい。」
店主
「今、雑巾持って来てやるよ。」
タクミ
「…。」

ゴン
「…。」
はあ…。これじゃ赤ん坊の世話だぜ。
赤ん坊の世話なんてやった事ないけども。
どうすっかな、コイツ。とりあえず明日になってもこの調子なら、一回病院に連れて行ってみるか。
とりあえずとっととメシ食って、この店を出よう。このままじゃ何しでかすかわからん。
家には帰れるだろうか。オレが進みたい方にコイツはついてきてくれるだろうか。
兄貴にも一応伝えといた方がいいか?聞いてみたい事もあるし…。
店主
「お待ち。」

ゴン
「頂きまーす。おお、これが魚肉ソーセージかー。」
店主
「美味そうだろ?」
ゴン
「いや別に。」
店主
「なんだと?」
ゴン
「ほら、タクミも一緒に食べような。」
タクミ
「…。」
ゴン
「オレ一人で食っちまうぞ。」
タクミ
「…。」
ゴン
「うめえな、コレ。魚の肉だって。ホントに食べなくてもいいのか?」

タクミ
「…。」
ゴン
「…。」
ゴン
「…ごちそうさまでしたっと。」
タクミ
「…。」
ゴン
「ちょっと兄貴と電話するね。」
タクミ
「…。」
海か…。

電話の向こうのシン
「よう、キョウダイ。」
ゴン
「あ、兄貴?今ヒマ?」
電話の向こうのシン
「ちょっとヒマとは言い難いが、どうした?」
ゴン
「えっとさ、ガキの頃にさ、海に連れてってくれた事あったろ?」
電話の向こうのシン
「ウミ…?なんだそりゃ?」
ゴン
「デカい水たまりだよ。」
電話の向こうのシン
「あー、アレ、ウミっつーのか。行った行った。
行ったというか、辿り着いてしまったというか。本当は入っちゃダメな場所だったんだよな、あそこ。」
ゴン
「そうなのか?」
電話の向こうのシン
「憶えてないか?タクミちゃんとはそこで会ったんだ。」
ゴン
「そうだっけ?兄貴が連れてきたんじゃなかったか?」
電話の向こうのシン
「違う。はぐれたお前を探していたら、タクミちゃんと一緒にいるお前を見つけたんだ。」
ゴン
「全然憶えてねえ。」
電話の向こうのシン
「昔からボーッとしてるからな、オマエは。で、そのウミがどうしたんだ?」
ゴン
「そこに泳いでる魚が食えるんだ。ヒマな時にでもタクミと三人で行って捕まえて食おうぜ。」
電話の向こうのシン
「…タクミちゃんは今そこにいるのか?」
ゴン
「あ、ああ。夕方街で会って、今またトーチソングでメシ食ってるよ。」
電話の向こうのシン
「そうか…。ちゃんと帰ったのか…。」
ゴン
「?」
電話の向こうのシン
「いや、一緒にいるなら良いんだ。わかった。」
ゴン
「?でもちょっと変でさ、タクミのヤツ、」
電話の向こうのシン
「変?何が変なんだ?」
電話の向こうの女の声
「ちょっとアンタ、何こんな時に電話してんのよっ!?」
ゴン
「!」

電話の向こうのシン
「弟だよ。すぐ済むから待っててくれ。」
女の声…。
兄貴…女と一緒にいたのか…。
普段そんな話全くしねえから、てっきり童貞かと…。
電話の向こうのシン
「タクミちゃんの何が変なんだ?」
ゴン
「いや、何でもねえ。大した事じゃ無いんだ。今度会ったら話すよ。」
電話の向こうの女の声
「来るよっ。」
電話の向こうのシン
「何かあったら知らせろよ。」
ゴン
「ああ。取り込み中悪かったな。」
電話の向こうのシン
「バカ言え。そんなんじゃねえよ。」
ゴン
「また連絡するよ。」
電話の向こうのシン
「ああ。」
ゴン
「兄貴。」
電話の向こうのシン
「あ?」
ゴン
「水くせえじゃん。今度紹介しろよ。」
電話の向こうのシン
「違うっつってんだろ、早くウチに帰って寝てろ。」

そうか…。兄貴も良いトシだもんな。オンナの一人や二人いるかーそうかー。
どこの誰だか見当もつかねえけど、いつか四人でメシでも食えたら良い。
店主
「おい兄ちゃん、カノジョ出てっちまったけど良いのか?」
ゴン
「はっ!?」
まずいっ!電話してる場合じゃなかった!家に帰るどころじゃ無くなるぞ!
ゴン
「なんで止めてくれなかったんだよ!?」
店主
「だって声かけたのに無視されたんだもん。ケンカ別れかと思ったんだもん。」
ゴン
「クソぅっ!」

迂闊っ!目を離すべきじゃなかった。ここで見失ったら今日寝れないぞ。バカかオレは。
店主
「待て待て、金は払ってけよ!」
ゴン
「ごっそさん。美味かったよ、魚肉。」
店主
「そうだろう。」
ゴン
「じゃあ、」
店主
「また来いよ。」
カエル
「おい。」
ゴン
「?」

カエル
「違うんだろ?」

ゴン
「…。」
なにが…?




中身が。



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