
この胡散臭いトサカ頭。ナンパが口実なのは間違いないと思うけど、まさか本当にディナーをご馳走して貰えるとはね。
見た感じカタギじゃ無さそうだけどプロじゃないね。そんなに金も持って無さそうだし、背中に武器も隠してる。
まあ、名前も名乗らないし、アタシも名乗るつもりないし、今は余計な詮索をしてもしょうがないね。ご飯は美味しかったし、お腹も膨れたし。
とりあえず与太話に付き合って、変な要求されたらぶん殴ってズラかろう。

胡散臭いトサカ
「高い所に登りたきゃ、高い所に登る為の道具があるだろ?何もノッポである必要は無い。脚立がありゃあ、届かない場所にだって手は届く。」
フゥ
「背は高いに越したことはないと思うけど。アンタも結構高いじゃん。どれぐらいあんの?」
胡散臭いトサカ
「知らん。測った事ねえ。」
フゥ
「でも羨ましいよ。アタシももっと伸びてたらな。出るとこはちゃんと出てるのに。もったいない。」
180有るか無いかくらいか。まあ、手足が長いから懐に潜り込んでアゴカチ上げれば一瞬で終わるね。
胡散臭いトサカ
「重い物を持ち上げるにしたって、マッチョである必要は無い。クレーンでもジャッキでも、持ち上げる道具は幾らでもあるからな。」
フゥ
「だからって、ヒョロくても良い理由にはならないよ。油圧ジャッキで女の子を持ち上げる男なんて。」
胡散臭いトサカ
「そりゃあちょっとレディーがふくよか過ぎねえか?」
フゥ
「どんなレディーでもお姫様抱っこしてあげるのがオトコってもんでしょ?」
体格には恵まれてるけど、あんまり鍛えてないね。食も細いし、姿勢も悪い。もったいない。
胡散臭いトサカ
「高所や重量物は文明の利器でも解決出来る。だが狭い所はそうもいかねえ。入れる人間も、持ち込める道具も限定される。」
フゥ
「似たような事を言ってたアタシのじいさんは、小型機械に仕事を奪われて借金残して蒸発したって話だけどね。」
シン
「そりゃ何十年も前の話だろ?文明最盛期の、人間が地下に潜る前の。」
シン
「今の地表にはナノ技術も分解構築技術も無いんだ。とにかく狭い場所に身体ごと突っ込んでぶっ壊さないように仕事出来る人間はそれだけで重宝される。」
フゥ
「まあ、デカいヤツでも入れない事はないけど、チビの方が仕事をするには有利ではあるね。」
物凄く遠回しにバカにされてる気もしないでもないけど、自分の高身長にコンプレックスでもあんのかコイツは。
胡散臭いトサカ
「身を隠すのにもな。童話で読んだドワーフやホビットも穴ぐらで暮らしてた。隕石に追い回されてる恐竜を横目に、オレらの遠い御先祖様は滅亡を免れた。穴ぐらに身を隠せたからだ。」
フゥ
「誰がドワーフなんだよ。」
胡散臭いトサカ
「小柄は才能って事だ。」
フゥ
「そうだね、チビはもっと尊重されるべきだね。」
胡散臭いトサカ
「そうとも。」
フゥ
「穴と言えばさ、」
胡散臭いトサカ
「ん?」
フゥ
「あの穴、地下世界に繋がってるって聞いたんだ。」
胡散臭いトサカ
「ああ。かつての文明人は、何でも壊す削岩機と、何でも作れるミキサー車を使って、あの穴を掘って地球の真ん中で暮らしてる。」
フゥ
「アンタは地下に行ったことはあるの?」
胡散臭いトサカ
「いや、ねえ。オレは物心ついた時から親がいなかったから、食ってく為にゴミ山でゴミ漁りしてたんだ。」
フゥ
「知り合いに行ったヤツは?」
胡散臭いトサカ
「いねえな。もしかしたら行ったヤツもいるかも知れねえが、ウワサじゃ相当金積まないと手続きにすら辿り着けないらしい。」
フゥ
「アンタの親は今何処に?」
胡散臭いトサカ
「知らねえ。とっくにくたばってるか、ひょっとしたら地下に住んでたりしてな。どうでもいいがな。」
フゥ
「ふーん。」
胡散臭いトサカ
「まあ、あの界隈は大人も子供も奇妙な連帯感があったから、親がいてもいなくても大して変わらない環境ではあったな。」
フゥ
「…。」
胡散臭いトサカ
「そんな話は今はいいや。実はアンタをメシに誘ったのはただのナンパってわけじゃないんだ。」
フゥ
「あら、残念。この後どこに連れてってもらえるかと期待してたんだけどね。」
胡散臭いトサカ
「ガッカリすんなよ。何もアンタに魅力を感じてないって言ってるわけじゃないんだ。」
フゥ
「してねえし。早く用件を言いな。」
マジでしてねえし。
胡散臭いトサカ
「出会って間もないのにこんな事頼むのもどうかと思うんだが…。
今夜、一晩だけ、オレと組んで仕事をしてくれないか?」
フゥ
「仕事?どんな?まさかその背中のオモチャでファミレス強盗でもするつもり?」
胡散臭いトサカ
「へっ。こんな夜に?客も数人しかいないファミレスを?割に合わねえよ。」
フゥ
「それもそうだね。やるんなら人の多いランチタイムだね。客の財布も奪えるからね。」
胡散臭いトサカ
「引退を考えてるマフィアはいなそうだがな。」
フゥ
「アハハ。説教される心配はしなくていいね。」

胡散臭いトサカ
「…ある男と接触する為にとある施設に潜入する。状況にもよるが荒っぽい事もするかもしれねえ。アンタの腕っぷしと身の軽さを見込んで護衛を依頼したい。」
フゥ
「色仕掛けは必要無いかしら?」
シン
「ソイツは切り札に取っとけよ。」
フゥ
「報酬は?」
胡散臭いトサカ
「今すぐ用意出来る金は50。上手くやってくれればもう100か、それ以上は。」
フゥ
「根拠は?」
胡散臭いトサカ
「その男はこの辺の顔役で、金持ちだ。上手く取り入れれば金はもちろんアンタ程の武闘派ならいくらでも仕事が回ってくる。キャリアアップもわけねえ。」
本職じゃないんだけどね…。
フゥ
「上手く取り入れなかったら?」
胡散臭いトサカ
「そん時は、盗んで逃げろ。だ。」
フゥ
「面白いね、アンタ。」

フゥ
「でも、それだけじゃあね。」
胡散臭いトサカ
「さっきも言ったがオレからの報酬は別に払うんだぜ?」
フゥ
「それももちろん貰うよ。」
胡散臭いトサカ
「あと幾ら欲しいんだ?」
フゥ
「この町で失くした物があるんだ。探して欲しい。」
胡散臭いトサカ
「何を失くした?」
フゥ
「金と車。」
胡散臭いトサカ
「何処で?」
フゥ
「穴で。」
胡散臭いトサカ
「だからゴミ山にいたのか。」
胡散臭いトサカ
「穴に落としちまったんなら無理だぜ?諦めな。」
フゥ
「アタシが落ちたの。」
胡散臭いトサカ
「は?」
フゥ
「戻って来たら失くなってたの。」
胡散臭いトサカ
「はあ?」
フゥ
「アンタは穴に落ちた事はある?」
胡散臭いトサカ
「…あるわけねえだろ、地球の真ん中まで繋がってんだぞ。」
フゥ
「穴に落ちたヤツは知り合いにいる?」
胡散臭いトサカ
「ガキの頃に何人も見たさ。」
フゥ
「落ちて帰って来たヤツは?」
胡散臭いトサカ
「いねえはずだ。」
フゥ
「アタシが落ちて帰って来たって言ったら、信じる?」
胡散臭いトサカ
「証拠があればな。」
フゥ
「残念ながら。」
胡散臭いトサカ
「じゃあ、信じねえ。」
フゥ
「あっそ。でもまあそれは信じなくていいや。でも金と車は本当だよ。なんとか取り戻したいんだ。」
胡散臭いトサカ
「大金なのか?」
フゥ
「それもあるけど、アタシの今までの全てなんだ。」
取り戻さなければ。
胡散臭いトサカ
「…身内にゴミ山に出入りしてるヤツがいる。聞けば何か分かるかも知れねえ。オレの用事が片付いたら協力しよう。」
フゥ
「オーケー。取り引き成立だね。」
胡散臭いトサカ
「前金は車で渡す。現場はゴミ山の向こうの工場地帯だ。ソイツを飲み終わったら早速向かおう。
頼りにしてるぜ、ハニーバニー。」
フゥ
「フゥでいいよ。今夜だけ、アンタの火遊びに付き合ったげる。
でも、途中で逃げたらただじゃ置かないからね、パンプキン?」
胡散臭いトサカ
「…シンだ。」

店員
「ありがとうございましたぁ。」
質の悪い紙に印刷されたつまんねえ犯罪小説。


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