易占いと、物語的日常と、カエルとガイコツ。あと飼い猫。

猫拳。

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近くまで来たから寄ってはみたが、相変わらず気の滅入る景色だ。

そのうち倒れるだろうと言われてから、いつまで経っても倒れない不死身の化け物クレーン。

空虚と渇きが内在してる、ツギハギだらけのパンクなタンク。

何も感じず、何も与えず、今となっては誰からも相手にされないインポテンツの電波塔。

数多の大人達を駆り立てて、その子供達を置き去りにさせた地球の真ん中にまで続く穴と、そこから排出されたゴミの山。

愛すべき我が掃き溜め。

クソッタレ。

シン
「…。」

アイツの生死は気になるところだが、COM社とカンザキ、どちらの手にも渡らずコレをオレが持ってるって事は考えようによってはラッキーかもしれない。

この電話は、COM社とオレの唯一の接点のはずだから。

通話記録も当然探るだろうが、残ってる情報だけじゃオレは辿れない。

例えアイツが拷問されるような事があっても、アイツが知ってるオレのパーソナルはこの街がオレの故郷である事くらい。

好みのタイプくらいは話した事はあったかもしれないが。

となると問題はゴンと、タクミちゃんか…。

スロット台との無言の対話に一生の大半を費やすゴンはともかく、タクミちゃん…あのコの口は無重力だ。きっとカンザキが尋問する迄もなくその場のノリで何でも喋っちまう。

昔からそうだ、悪巧みはおろか内緒話もロクに出来ねえ。

やはりカンザキ側がコンタクトを取って来る前にオレの方からカンザキに取り入ってみるか?このカードとオレが握ってる爆発事故のネタを土産に。

オレの稼業はもう隠せなくなるが、二人をこの件から遠ざける事は出来るかもしれない。

アイツには気の毒だが、この稼業をやってりゃ珍しい話じゃねえ。

運が無かったのさ。

付き合いが長いだけで別にダチってわけじゃねえんだ、逆の立場だったらアイツだってきっとそうするさ。

運が無かったんだ。

カエル
(ヒャハハッ。オメエみてえな小物はよ、脇役くらいがちょうどいいかもなぁ…。)

あの占い師、人の気も知らねえで。

タネ…
もう一人のタクミちゃん…
工場…
カンザキ…
COM社…

シン
「…そういやオレの銃はどこに置いてきちまったんだろう。」

カンザキはこの辺の支配者だ。イリーガルな情報も集まってくる。アイツの所在も何か分かるかもしれない。

生きているか、まだこの街にいればだが…。

一旦戻ろう、カンザキに会わなければ。

シン
「…?」

なんだ?詰所に人がいるが、ゴンだろうか。
珍しいな、アイツがタクミちゃん以外とつるむなんて。

ついでに顔でも見ていくか。

シン
「…。」

シン
「…。」

なんか、騒がしいな。

シン
「…?」

ケンカか?ゴンじゃない。
女だ、女が囲まれてんのか?

それにあの脚立捌き…猫拳か…。


「猫拳」
キャットアーツ。

遥か昔。とある企業の庶務課のOLが考案した、脚立(折りたたみ式昇降機)を武器に転用した戦闘術。

伸縮する間合いは攻めやすく、防ぎやすく。可変する軌道は読みづらく、避けづらく。振り回しが効く為乱戦にも向く。

等間隔に並ぶ踏み桟は敵の身体や武器を絡め取るのに都合が良く、扱いに練度を必要とする為、脚立を敵に奪われ利用される事をデメリットにしない。

独特な身体操作は劣悪な環境での戦闘を想定したものと言われているが、何よりもその真価は、遮蔽と障壁、高低差による地形的アドバンテージを一方的に相手に押し付ける『封殺』にある。

創始者 チナ・チャン

おお、マジで強ぇ…ナニモンだ!?
大の男が次から次へと吹き飛ばされていく。

猫拳同士の戦いは最終的に脚立を放ったらかしての取っ組み合いになるらしいが、なるほど凶暴だ…。

あっという間に六人シメちまった。猫と言うよりはまるで虎だな。

シン
「こりゃあ、渡りに舟かもな。」

シン
「よお。」

猫拳使いの女
「?」

シン
「強いね、お姉さん。」

猫拳使いの女
「何?アンタも泣かされたいの?」

シン
「いや、ただのナンパさ。」

猫拳使いの女
「あっそ。じゃあ遠慮なくぶん殴れるね。」

シン
「まあまあ、散々動き回って腹も減ったろ?キミさえ良ければどっかそこら辺で食事でも…」

猫拳使いの女
「遠慮しとくよ。今はちょっと、機嫌が悪いからね。」

シン
「…ところで誰かな?このおっかない人達は?お友達じゃなさそうだけど…。」

猫拳使いの女
「知らないね。追い剥ぎかなんかじゃないの?ここに居たら囲まれたんだ。」

シン
「こんな街外れじゃあな。キミみたいな美人じゃなくても狙われるぜ。」

猫拳使いの女
「襲う相手は間違えたみたいだけどね。」

シン
「なんでこんな辺鄙な所に?」

猫拳使いの女
「別に、アンタに関係あんの?」

シン
「ここはオレの昔の職場なんだ。今はご覧の通り半分廃墟だがね。」

猫拳使いの女
「その犬もアンタの犬?」

シン
「ああ、コイツは違う。エサくれてたら懐かれただけだ。別に飼ってるワケじゃない。野良同士、傷を舐め合ってるだけだよ。」

猫拳使いの女
「…。」

シン
「…ところでさっきの、猫拳だろ?」

猫拳使いの女
「知ってんの?」

シン
「昔格闘技の試合で観た事があるんだ。ガキの頃良くマネしてた。カンフーってヤツか?やっぱ強いんだな。」

猫拳使いの女
「こんなもん、ストリートだよ。カンフーじゃない。」

シン
「どこで習ったんだ?」

猫拳使いの女
「地元。」

シン
「この街の人間じゃないのか?」

猫拳使いの女
「そうだね。もう行っていい?」

シン
「歩いて街まで帰るのか?」

猫拳使いの女
「そりゃ、来る時も歩いて来たからね。」

シン
「遠いだろ。」

猫拳使いの女
「別に、コイツらの車を借りても良いし。」

シン
「やめとけよ。どうせこの車も盗品だ。警察とゴロツキ両方に追われるハメになるぜ。」

猫拳使いの女
「…。」

シン
「そんなに警戒すんなって。メシ食ったら、宿の入り口までちゃんと送り届けるさ。何もしねえよ、こんな風になりたくないからな。」

猫拳使いの女
「…お腹が空いたわ。」

シン
「決まりだな。車まで案内するよ。姫君は安全な後部座席に。お友達はちょっと寒いがキャリアーに。」

猫拳使いの女
「アタシのじゃない。ここで拾ったんだよ。アタシのは古巣に置いて来ちゃったからね。」

シン
「じゃあオレが昔使ってたヤツかも。気に入ったんならプレゼントするよ。」

猫拳使いの女
「いらね。」

猫拳。

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