
街からどんどん離れていく…。
もう小一時間は歩いてる。どこまで歩くつもりだよ。
それにこの気持ち悪い空はなんだ?
いつからだろう…。コイツとスロットで大勝ちした夜、三日前か?四日前か?覚えてないけどその日の夜はこんな空じゃなかった。
月を見ながら歩いて帰ったんだ。
こんな空じゃなかった。

昔、兄貴から聞いた話だと、何でも地中深くには天国みたいな場所があるらしい。
頭の良い人間達が、穴を掘って移り住んだんだと。その穴がゴミ山の穴なんだと。
ゴン
「…。」
下に天国があるなら、この上に見えてるのは地獄かもな。どっちでも良いが。オレが産まれる前から決まってた事なら、どっちでも。オレと兄貴を置いて消えた親みたいに、昔の人間も地上に嫌気が指したんだろう。
ゴン
「…。」

こんなところにベンチが一つ…。休憩所かな?オンボロだ。
違うな、駅だ。今は使われていない、駅だった所だ…。
こんな所に駅があったのか…。まあ、オレの狭い行動範囲じゃ知らないのも否めねぇ。
タクミさんはまだまだ進んで行くぞ。どうやらここが終点じゃないみたいだ。

ゴン
「おー。」
海だ…。憶えてないけどガキの頃に兄貴と一緒に来たとされる海。タクミと初めて出会ったとされる海…。

目の当たりにしても全然ピンと来ねえや。
きっとタクミのヤツ、さっきの話を聞いてて思い出したのかもな。
でもよく行こうと思ったな、こんな夜中によ。
ゴン
「おいおい、入って大丈夫なのかよ?」

タクミ
「…。」
ゴン
「なんだ?結構あったけえな、海って。今度来る時はお風呂セット持って来ないとな。」
タクミ
「…。」
ゴン
「おりゃ、さっきのお返しだ、タクミ。おりゃ、おりゃ。」
タクミ
「…。」

ゴン
「ハハハ。やっぱり水がいっぱいあると楽しいな、タクミ。ホレホレ。」
タクミ
「…。」
ゴン
「っ!?」

タクミ
「…。」
ゴン
「…?!…!しょっぺえ…!?塩水…!」

タクミ
「…。」
ゴン
「ちょ…っ!待っ…。」

タクミ
「…。」

ゴン
「お、おい!タクミ!?」
ゴン
「なんでオレじゃなくお前のほうが倒れるんだよ!?おいっ!こんなところで死ぬんじゃない!」

息はしてる、眠ってるみたいだ。メシも食ってないのにずっと歩いてたから?
とりあえずタクシーを呼んで医者に連れて行かないと…。
しかしこんな時間じゃ病院なんて閉まってるしな…。兄貴はオンナと一緒だし。
ゴン
「はっ!」

圏外か…マジか…。一体街からどれだけ離れたんだろう。
とにかく休ませないと。背負って街まで帰れるほどオレも心身ともに余裕がないからな。


ゴン
「夜が明けて来た…。」




ゴン
「…あー思い出した…。」
兄貴が誰かに追われてたんだ。オレを自転車に乗せて走ってたんだ。夜通し逃げ回って、ここで朝日を見たんだ。
大きな水たまり。キラキラ光って、見渡す限り青色で。イヤな匂いはしたけど、追っ手を振り切った兄貴は笑ってた。
オレはそんな事よりも早く街に戻って電気屋の店先で毎朝見てたロボットアニメの続きが気になって、落ち着きなくその辺をウロウロしてた。

そこにコイツは独りでいたんだ。
そこでコイツと二人で遊んだんだ。
初めて自分以外を哀れんだんだ。
オレには兄貴がいたからな。
初めて帰りたくないと願ったんだ。
もう二度と会えないと思ったからだ。
初めてそばに居れたら良いと感じたんだ。
それは、何でだろうな?
多分、初めて会った時から。

ゴン
「だから兄貴はコイツを…。」
こんなもん、犠牲にも代償にもならねえよ。
コイツが元に戻らなかったら、オレがコイツに合わせてやりゃいい。
コイツが誰かに迷惑をかけたら、オレが代わりに謝ってやりゃいい。
コイツが誰かに傷付けられそうになったら、オレが代わりに傷つきゃいい。
医者に行って、治らなかったら、薬を貰って、旅行に行こう。
ちょうどコイツは休みだし、ちょうど金も車もある。
人のモンだけど、構いやしないさ。
少しくらい借りたって、後で返しとけば分かんねえさ。
オレに言わせりゃこの世界でさえ借り住まい。居心地悪いぜ、コイツのとなり以外。
借り物の車で、借り物の金で、借り物の休日に。
コイツが望むなら、コイツの行きたいあらゆる場所へ。

ゴン
「どうせ、他に、やる事もないしな。」

ライフタイム・ジュブナイル。



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