易占いと、物語的日常と、カエルとガイコツ。

夕暮れ。

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パーラー・オーバー・ザ・ムーン。

ゴン
「…。」

ま、こんなとこだろうな。

設定はまずまずだが、連チャンも抜けたし流れも悪ぃ。ここら辺が引き際か…。

下皿使っても四、五万てトコか。ちょいと早いけどやる事もないし、ゴミ山の様子でも見てくるか。

あの金と車…。持ち主が穴に落っこちたとかじゃなければ今日辺り探しに来てるかも知れない。

あの占い師は相手の方から取りに来ると言っていた。その後に本当の大吉が来るとも。

まあ、あの占い師が勝手に占っちまった事だし、何について占ったのかはホントのところは分からずじまい。その解釈もオレの勝手な思い込みに過ぎないんだけどさ。

なんて言ってたっけ?サンタ?サンタクロースみたいなヤツだ。心を込めたプレゼントとかなんとか。自分の財産を差し出しす事。大事なのはその使い道。

でもあの金はオレのじゃない。落し物、拾い物だ。持ち主が現れたらちゃんと返すつもりの。もし現れたら、だ。
余程タチの悪いヤツだったらすっとボケるけどさ。

それに差し出さなきゃ得られないなんて、この店でほぼ毎日やってる。
超シンプルな損得勘定だ。財布から金を出して、メダルを借りて、台がパンクするくらいぶち込んで、運が良けりゃ増える。

でも、多分そういう事じゃないんだろうな。

真心…献身…無償の奉仕…犠牲…。

ゴン
「ん?」

タクミがいる。
用事が済んで街に来てたのか。電話はもう繋がってるんだから連絡くれりゃ良いのによ。

…そういうことなら話は変わってくるな。アイツ誘ってもうひと勝負してみるか。

ゴン
「へっ。」

でもなんか、変な虫も付いてるな。

タクミ
「…。」

浅黒いマッチョ
「いいじゃん、どっか遊びに行こうよー。」

パーカー
「そうそう、パチンコなんてトシ食ってからいくらでも出来るじゃん。もっと若いうちにしか出来ない事をさ、ウチらとしようよー。」

タクミ
「…。」

浅黒いマッチョ
「行こうぜ、向こうに車置いてあるんだ。セントラルのクラブ・ウラベに連れてってやるよ。」

パーカー
「え、女連れであそこ行くの?」

浅黒いマッチョ
「いいじゃねえか、別に。」

パーカー
「いいけどさ、なんかポルノ映画みたいだ。」

浅黒いマッチョ
「ワハハっ。言われてみればそうだな。」

パーカー
「あははは。」

タクミ
「…。」

浅黒いマッチョ
「冗談だよ、どっかで夕飯食って、ナイトプールにでも行こうぜ。」

パーカー
「そうそう、せっかく若い労働力で稼いだお金をさ、こんな汚い大人が得するだけのシステムに搾取される事ないよ。」

タクミ
「…。」

ゴン
「ちょっとお兄さん達。」

浅黒いマッチョ
「あ?誰だお前?」
ゴン
「申し訳無いんだけどこのコ、オレのツレなんだわ。」

浅黒いマッチョ
「そうか、関係ねえな。すっこんでろよピアス野郎。そして有り金を全部呑まれて、弾く玉が無くなって虚しく響くバネの音を聞きながら途方に暮れてろよ。」

ゴン
「悪いけどオレはスロット専門なんだ。」

浅黒いマッチョ
「じゃあ、持ちメダル残り二十枚くらいでレア役引いて、高確と通常時の狭間で泣き崩れてろよ。」

ゴン
「そんなヘボい打ち方するかよ。何年この店に通ってると思ってる。」

浅黒いマッチョ
「自慢にならねえよ、端金で一喜一憂してるだけのケチな博打打ちの能書きなんざ。」

ゴン
「アンタらのほうこそ、パチ屋の前で張ってれば素寒貧の女が釣れると思ったのか?随分安いナンパじゃないか。」

浅黒いマッチョ
「面白ぇじゃん。」

パーカー
「まあまあ、カリカリすんなって。違うんだカレシ、ごめんね。パチ屋の前で暇そうに突っ立ってるカノジョをたまたま見かけたもんだからさ。声掛けただけなんだ。
そうだっ!カレシも一緒に行こうよ、ナイトプール。オレらは現地で適当に引っ掛けるからさ。楽しくやろうぜ。」

ゴン
「遠慮しとくよ。オレもこのコも窮屈なトコは苦手なんだ。」

ゴン
「っ!!?」

なんでこのコタトゥー入れてるの!?

浅黒いマッチョ
「パチンコ屋は平気なのか?」

ゴン
「これくらい客付きが悪い店なら問題ねえよ。」

いや、流石にシールか…。昼間に別れて三、四時間、その前に爆発事故の件で工場に行ってたはずだ。タトゥー彫ってる時間なんてないもんな。

浅黒いマッチョ
「そんな客のいねえ店で勝てんのかよ。」

でも、なんで急に…。いや、コイツに関しては全く有り得ない話でもないか…。なぜかオレの二十歳の誕生日に突然金髪にするような女だ。オレの誕生日だっつってんのに…。

ゴン
「オレはな。」

しかもなんなんだこのダセえハートマークは…。コイツの趣味が良いと思った事は一度も無いが、コイツはなんと言うかもっと、ヘビとかバラとかだったろ。

浅黒いマッチョ
「何急にソワソワしてやがる。」

ゴン
「いや、とにかくこのコはダメだ。頼むから他をあたってくれないか?」

浅黒いマッチョ
「…。」

ゴン
「わかった!しょうがねえ。これはさっきこの店で抜いてきた金だ。これで見逃してくれ。夕飯代くらいにはなるだろ?」

パーカー
「おいおい、良いのかよ五万はあるぜ!?」

ゴン
「やっぱり一万は返せ。種銭が混ざってた。」

浅黒いマッチョ
「なんかうさんくせえなオマエ。このコ、彼氏が来たってのにずっと下向いて喋らねえ。本当にオマエの女か?勝って浮かれて横取りしようってんじゃねえだろうな?」

ゴン
「そこまで大勝ちしてねえよ。色男二人に囲まれてちょっと緊張してんのさ。な?タクミ?」

タクミ
「…。」

パーカー
「いいじゃん、もうさ。この金で別の引っ掛けりゃいいじゃん。行こうぜ。」

ナンパヤロウ
「…チッ。」

ゴン
「ふう…。」

タクミ
「…。」

ゴン
「イメチェンでもしたのか?そのシール?」

ゴン
「あ、おい!待てって、タクミっ!」

なんだ?なんか怒ってんのか?

ゴン
「待ってよ、タクミさん。」

タクミ
「…。」

なんかしたっけなオレ。なんにもしてねえからかな…。

ゴン
「家、帰らないのかー?」

タクミ
「…。」

ゴン
「へっ。」

ついて行くゴン。

夕暮れ。

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