とりとめもなく、脈絡もなく。

工場。
地下三階、研究棟。

タクミ
「このコ、今日は凄く静か。」

昨日はコーヒーを啜る音にも、いつもと違うネックレスにも反応してたのに。今日は朝からほとんど反応しない。その反応も、私が一方的に思い込んでるだけかも知れないけれど。

タネ。名前はリリ。なんでそんな名前なのかは私は知らない。私と入れ替わりで辞めてった先輩から引き継ぎの時にそう伝えられただけ。それ以外は知らない。

何処から来たのかも、なんのタネかも私は知らない。

私は観察する。これが仕事。
何も知らない何かを、何でも知ってるフリをして。観察したデータをセンターに送る。
集めたデータを、何に使うかも知らないクセに。

そんな私を、リリも観察してる。
モニターの向こうから感じる視線と息遣い。つまり生きてる。
だから私は、友達として接する事した。
だから先輩もきっと、このコをリリと名付けたのだろう。

タクミ
「寝てるの?それとも昨日、おしゃべりし過ぎて嫌われた?」

昨日はリリに、二つ年下の彼氏の話をしてみた。子どもの頃からの幼なじみという事。ゴミ山で働いてる事。電話がすぐに止まる事。全てにおいてだらしが無いけど、何故か憎めない事。スロットで連チャンしてる時だけ、めちゃくちゃカッコイイ事。

リリは楽しそうに聞いていた。楽しそうに聞いているみたいだった。

笑われてただけかも。周りの友達みたいに。
心配されてただけかも。周りの大人達みたいに。

スピーカーの声
「タクミー、先上がるよー。」

タクミ
「んー。」

スピーカーの声
「アンタも早く片付けちゃいなよ。明日から連休なんだから。」

タクミ
「うー。」

スピーカーの声
「おつかれー。」

タクミ
「おつかれー。」

この工場は明日からシステムのメンテナンスで全従業員が立ち入り禁止になる。

つまり私達はお休み。予定では五連休。

メンテナンスはCOM社が行なう。この街で一番大きい会社だ。
一度だけCOM社の人間に会った事があるけど、あまり良い印象は無かったな。機械的で、事務的で、融通が効かなくて、話が難しくて何言ってるか分からない。

私の頭が悪いからなのだが、アイツらもアイツらで人間味が無いのは確か。リリのほうがまだ、人間と接してる感じはする。

タクミ
「これ以上観察しても時間の無駄かな。」

タクミ
「リリ、私明日からお休みなんだよ。」

リリ
「…。」

タクミ
「休み明けにまた会おうね。」

リリ
「…。」

タクミ
「…反応無し、と。」

タクミ
「またね、リリ。」

移動中。
ゴンのトレーラーハウス。

タクミ
「まだ帰って来てない。」

せっかくの連休も、アイツがあんな感じじゃどこにも行けやしない。

呼びつけようにも、また電話止められてるしな、アイツ。

まあ、アイツの行動範囲なんてたかが知れてる。

どうせパチンコ屋か、ゴミ山だろう。
あとで捕まえに行こう。

タクミ
「あれ?あの車、義兄さんだ。」

とりとめもなく、脈絡もなく。

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