シン
「何見てんだよ?」
カエル
「別に。弟にメシ奢って貰った割にはしみったれた顔してると思ってさ。」
シン
「余計なお世話だよ。店主といい占い師といい、客に対しての口の聞き方がなってねえ店だな。」
カエル
「キミみたいな荒っぽいヤツも、手癖の悪いヤツも来る店だからな。しょうがねえよ。丁寧な接客して欲しかったら次からはそういう店を選びな。」
シン
「そうさせて貰うよ。こないだ来た時なんてデケエ声でシケた客呼ばわりされてんだぞ。接客以前の問題だろ。」
カエル
「アイツと一緒にすんなよ。オレから見てもアイツはちょっとアタマがおかしいんだ。」
シン
「大して変わんねえだろ。」
カエル
「オレはちゃんと相手は選ぶんだよ。」
シン
「占いなんて当たんのかよ?」
カエル
「さあね。当たらないヤツは一生当たらないんじゃないか?」
シン
「言うじゃねえか、アンタは百発百中だって?」
カエル
「ホントにオレが百発百中なら、わざわざこんな店にいねえよ。」
シン
「同情しとくよ。今どき誰も信じないだろ、こんな時代に、こんな胡散臭えモン。」
カエル
「どうだろうな。長いこと在り続けてりゃ、そんな時期もあるんじゃねえかな。」
シン
「オレにはそんな不確かなモンがいつまでも淘汰されずに残ってるほうが不自然に見えるぜ。」
カエル
「占いが不確かか不確かじゃないかは重要じゃない。人も世界も、絶えず変化して、行ったり来たりしてるって事が重要さ。」
シン
「そういうもんかね、オレには全く分からんジャンルの話だ。」
カエル
「信も不信も、正も否も、虚実でさえも、占いが存在し続ける事とは関係ないのかも。」
カエル
「気晴らしにどうだい?もしかしたら新しい自分に出会えるかもよ?」
シン
「いいよ、別に。占いなんてアテにするようになったらおしまいだぜ。」
カエル
「誰もアテにしろなんて言ってないけどな。ホントはなにかをアテにしたい事でもあったのか?話くらいは聞くけど。」
シン
「必要ねえよ、この街を出てからずっと一人でやって来たんだ。誰もアテにせず、何にも依存せずにな。これからだって自分の経験と目の前の状況しかオレは信じねえ。」
カエル
「カッコいいじゃん。じゃあテメエが目の前に引っ張って来た賽の目なら信じるのか?」
シン
「…。」
シン
「…ギリ信じるよ。」
カエル
「振りなよ、見てやるよ。」
シン
「そんなのシロートに振らせて分かるもんなのかよ?」
カエル
「いや、占いだと思ってくれなくていいし、金も取らねえ。オレの個人的な好奇心さ。こんな世界の終わりです、みてえな顔したヤツがどんな目を出すか興味があるだけだよ。」
シン
「茶番にもならねえよ、おらよ。」
シン
「おっ。」
シン
「はっ、6のゾロ目だ。これで何が分かるのか知らんが、結構いいんじゃないか?」
カエル
「それはケモノの数字つうんだよ。これだけじゃまだわからん。もう一回だ。優しくな。」
シン
「優しく、ね…。」
カエル
「…。」
シン
「なんだよ。」
カエル
「上が震(シン)で、下が兌(ダ)で…。」
シン
「死んだってか?」
カエル
「ウケんね。」
カエル
「まあ、キミが何を思ってサイコロを振ったのかはわからんけど、当たらずとも遠からずかもな。」
シン
「良くないのか?」
カエル
「良くはないな。」
カエル
「帰妹は凶。よろしきところなし。」
シン
「凶…。」
カエル
「アベコベ、デタラメ、不正、不順、オトナの世界に首を突っ込む世間知らずの少女の卦。心当たりはあるか?」
シン
「今ちょうど女の子に振り回されてるところだよ。」
カエル
「そうじゃない。この場合の何も知らねえ世間知らずの少女はキミの事さ。」
シン
「オレ?」
カエル
「もし何か問題を抱えてるなら、キミの手に負える事じゃない。あんまり出しゃばるなってよ。」
シン
「出しゃばりたくても出しゃばれねえんだよ。」
カエル
「とにかくキミは主役どころかまだ舞台にも上がってない。これは幸いな事だ。知らないほうが良い事だってある。でもキミが今まで見聞きして、頭ん中で納得させた事が見当違いの可能性がある事が問題で、そのままバカみてぇに進むんなら凶って事さ。」
シン
「…。」
カエル
「最後に、好きなサイコロをひとつ選んで振ってくれ。」
シン
「選ばなきゃダメなのか?」
カエル
「演出だよ。適当で構わない。ちょっとくらい選択の余地を与えられたほうがさ、アガるだろ?」
シン
「…。」
シン
「2…。」
カエル
「眇能く視る。幽人の貞によろし。」
シン
「なんだって?」
カエル
「見えない目で見ようとする。おとなしくしてろってよ。」
シン
「結局ダメじゃねえか。」
カエル
「悪い事は言わねえよ、見て見ぬフリをするんだ。そうすりゃ丸く収まる。」
シン
「出来るかよ。」
カエル
「さっきも言ったけど、キミはまだ外野さ。安全圏だ。コソコソしてりゃ問題ない。」
シン
「たかが占いだろ?」
カエル
「たかが占いさ。でも、この時この場所で、世界でただ一人キミだけが発現した凶だ。大事にしろよ、経験や才能の次くらいにはな。」
シン
「つまんねえ。付き合って損した。金は?5000で良いのか?」
カエル
「取らねえって言ったろ。それに凶引っ張って来たヤツから金なんか取れるかよ。こっちのツキまで落ちるぜ。」
シン
「慰めてるつもりかね?」
カエル
「弟の金でメシも食えたんだろ?今日は金だけは使わないでいい日にしとけよ。」
シン
「それだけが救いだって?泣けるぜ。」
カエル
「まだわからないさ。」
シン
「なあ、黒い星って見た事あるか?」
カエル
「ないな、あんまり外に出ないからな。」
シン
「そうか。」
カエル
「ああ、言い忘れた。あんまり一人で動くなよ。脇役としてならまだ進む道はある。」
シン
「余計なお世話だ。」
カエル
「またね。」
シン
「二度と来ねえよ、こんな店。」
店主
「毎度ありぃ。」
救い。