ハンバーガーじゃねえ。

店主
「いらっしゃい。」

ゴン
「あ、来た。」

タクミ
「義兄さんこっち。」

シン
「…。」

ゴン
「遅せぇから帰ろうかと思ったよ。」

シン
「外でタバコ吸ってたんだよ。」

ゴン
「今日はオレが奢るからさ、好きなの食っていいぜ。」

シン
「いいよ、オレが出すよ。」

ゴン
「兄貴ダメだぜ、今日はオレが出すぜ、それだけは譲れないぜ。」

シン
「なんかあったのか?コイツ?」

タクミ
「占いでなんかそれっぽいヤツが出たのよ。」

シン
「占い?コイツが?金は持ってんのかよ?」

タクミ
「スロットで大勝ちしたのよ。」

シン
「まぁ…そういう事ならご馳走になるかな。」

ゴン
「任せてくれ。」

ゴン
「お願いしまーすー。」

店主
「ご注文は?」

タクミ
「何食べよっかな。」

シン
「オレこれ、フライ・フライドポテトとブラックコーヒー、アイスで。」

ゴン
「なんだよ、もっと食えよ兄貴。オレはミートボールサンドと、コーラ。」

シン
「?ミートボールサンドって、ミートボールをパンに挟むのか?」

店主
「そうだよ。」

シン
「挟みづらくないか?」

店主
「平たく伸ばすから別に挟みづらくはないな。」

シン
「…ハンバーガーとは違うのか?」

店主
「ミートボールサンドはミートボールをパンに挟んで食うんだ。ハンバーガーじゃねえ。」

シン
「…。」

タクミ
「私はクリームソーダと、コーンスープ。」

ゴン
「飲みもんばっかじゃねえかよ。」

タクミ
「いいじゃん別に。いちいちナニ?」

店主
「以上で?」

ゴン
「とりあえずそれで。」

シン
「まだ打ってたのかよ?」

ゴン
「?」

シン
「スロット。」

ゴン
「まあ、他にやる事ないしな。兄貴はもうやめちまったのか?」

シン
「ヒマな時は思い出すけど、打たなくはなったな。」

ゴン
「忙しいもんな、兄貴は。」

シン
「オマエがヒマ過ぎるんだよ。ちゃんと仕事はしてんのか?」

ゴン
「まあ、ボチボチ。でも自活は出来てるよ。」

シン
「自活出来てりゃ良いってもんでもねえだろ。まだゴミ山に出入りしてんのか?儲かんねえならやめちまえよ。」

ゴン
「それだけじゃねえよ。カンザキさん来てから日雇いの仕事も増えたし。」

シン
「帰って来てから良く聞く名前だけど、ナニモンなんだ、カンザキって?」

ゴン
「オレも会ったことないからわかんないんだけど、とにかくすげえ金持ちだ。二年くらい前かな?もっと前かも。ゴミ山の工場いくつか買い占めてさ、その辺で遊んでる連中みんな雇い入れてさ。ま、ここらへんの今の顔役だよ。ニュースにもなってたろ?爆発した工場。アレもカンザキさんの工場だ。」

シン
「そうか、結構前からいたんだな。知らなかったよ。」

ゴン
「たまに帰って来てもすぐどっか行くからな、兄貴は。」

シン
「で、工場で働いてんの?オマエが?務まるのかよ?」

ゴン
「オレはたまに日当拾いに行くだけだよ。タクミはもうずっと働いてる。」

店主
「お待ち。」

ゴン
「あざっす。」

やっぱりハンバーガーじゃねえかよ、おちょくってんのかこの店。

シン
「そうなのか?」

タクミ
「うん。」

シン
「あの爆発した工場で?」

タクミ
「うん。」

シン
「毎日?」

タクミ
「うん。」

シン
「夜勤とか宿直とかもあるのか?」

ゴン
「すげえ聞くじゃん。」

タクミ
「たまにあるよ、でも、月に一、二回くらいかな。」

シン
「昨日は宿直じゃなくて良かったな。」

タクミ
「あ、昨日からみんな休みになってるんだよ。システムメンテナンスとかで五連休になったの。」

シン
「そうか。」

ゴン
「…。」

タクミ
「…。」

シン
「ウマそうに食うな。毎日ちゃんと食ってんのか?」

ゴン
「食ってるよ。ガキじゃねえんだから。」

タクミ
「ガキでしょ。」

シン
「昨日の夜もちゃんと食ったのか?」

ゴン
「昨日は家でラーメン食ったよ。」

シン
「二人で?」

ゴン
「うん。」

シン
「二人でっ?!」

ゴン
「なんなんだよ。」

シン
「…間違いないか?」

ゴン
「間違いも何も、夜はずっと家にいたよ。」

シン
「二人で?」

ゴン
「二人で。」

シン
「二人でかっ!?」

ゴン
「だからそれはなんなんだよ、ラリってんのか兄貴?クスリはダメだぜ。弟として力ずくで止めるぜ?」

タクミ
「義兄さんクスリやってんの?止めた方がいいよ?」

シン
「やってねえよ。」

ゴン
「兄貴ソレちょっと貰っていい?」

シン
「お、おお。食え食え。」

ゴン
「固ってえな、ナニコレ?お菓子じゃん。」

シン
「…。」

ゴン
「兄貴ってさ、結婚とかしねえの?」

シン
「…。」

ゴン
「兄貴?」

シン
「…。」

ゴン
「兄貴?」

シン
「…?ああ、悪い。そういやオマエら結婚するんだって?」

ゴン
「いや、兄貴の話。」

シン
「オレ?オレはオマエら見届けてからにするよ。忙しいし。」

ゴン
「そんな事言ってたら、気が付けばジジイだぜ。」

シン
「オレの心配よりてめえの心配をしな。タクミちゃんだっていつまでも待ってはくれないぜ。」

タクミ
「くれないぜ。」

ゴン
「どんなオンナがタイプなんだよ、兄貴は?」

シン
「そうだなー、タクミちゃんみたいなコもいいかもな。」

ゴン
「それは聞き捨てならねえな。」

タクミ
「カワイイからね、タクミちゃんはね。」

シン
「例えオレじゃなくてもな、どこぞの金持ちがタクミちゃんに言いよって来たらオマエなんかボロ雑巾だ、バカ。」

タクミ
「金でなびくような女じゃないわよ。」

シン
「ご立派。」

ゴン
「ご立派。」

タクミ
「年収にもよるけどね。」

シン
「客トンでる割にはウマかったな。」

ゴン
「ウマかった。」

タクミ
「ウマかった。」

ゴン
「ちょっと便所行ってくる。」

シン
「ん。」

タクミ
「…。」

シン
「タクミちゃんは工場で何作ってるんだ?」

タクミ
「私は製造とは違う部署なの。」

シン
「ふーん。事務員とかか?」

タクミ
「うーん、データ収集かな?」

シン
「なんの?」

タクミ
「企業秘密。」

シン
「パソコンとか使って?」

タクミ
「専用の設備があるのよ。」

シン
「ふーん。」

シン
「そういう設備ってさ、やっぱりCOM社が作ってたりするのか?」

タクミ
「当たり。なんで知ってるの?」

シン
「たまたま今の仕事でCOM社と関わってるんだ。」

タクミ
「そうなんだ、やっぱスゴいね、義兄さんは。」

シン
「COM社の人間と一緒に仕事したりもするのか?」

タクミ
「職員さん達はしてると思うけど、私は下っ端だから。会ったことないよ。」

シン
「そうか。」

シン
「…。」

タクミ
「義兄さん。」

シン
「ん?」

タクミ
「何かあったの?」

シン
「…いや、なんもねえよ。」

タクミ
「ならいいけど、ずっと深刻そうな顔してるから。」

シン
「してないよ。」

タクミ
「してるよ。」

タクミ
「ゴンの事は私がしっかり見てるから、仕事大変なら無理しないでいいからね。」

シン
「お姉さんだもんな。」

タクミ
「そうだよ、二つも年上なんだから。」

タクミ
「なんかメール来た。」

シン
「?」

タクミ
「義兄さんゴメン。私、今日ちょっと帰る。」

シン
「なんかあったのか?」

タクミ
「呼び出し。爆発事故の件で個別面談だって。」

シン
「!」

シン
「ふーん、ゴンもか?」

タクミ
「わかんない。ゴンはお手伝いみたいなもんだから。」

シン
「一緒について行こうか?」

タクミ
「大丈夫。無理しないでって言ったでしょ。」

ゴン
「…?」

タクミ
「アンタのトコにもメール来た?」

ゴン
「なんの事?」

タクミ
「爆発事故の件で呼ばれちゃった。」

ゴン
「誰に?」

タクミ
「上司。」

ゴン
「どこに?」

タクミ
「工場。」

ゴン
「ふーん。オレんとこには来てないけど、一緒に行くか?」

タクミ
「いいよ、一人で行ってくる。アンタは義兄さんの相手してて。」

シン
「…。」

ゴン
「行っちまった。」

シン
「随分急いでたな。」

ゴン
「なんか心配事があるみたいだった。タネとかリリとか。」

シン
「リリ?」

ゴン
「アイツが仕事で観察してるタネの名前だって。」

シン
「タネって?」

ゴン
「わかんね。教えられないんだと。」

シン
「…。」

ゴン
「兄貴、これからどうする?」

シン
「…。」

ゴン
「兄貴?」

シン
「…?ああ、悪い。とりあえず解散するか?オレも、ちょっと用事出来たし。」

ゴン
「なんだよ、久しぶりに弟に会ったのによ、結局忙しいのかよ。」

シン
「オマエがヒマ過ぎるんだよ。」

ゴン
「さっきも聞いたよ、それ。なんか変だったぜ、今日。たまにはゆっくり休めよな。」

シン
「ああ、わかってる。」

ゴン
「ヒマ人のオレはスロットでも打ってくるよ。金は払っとくからさ。」

シン
「ああ、ごっそさん。」

ゴン
「あ、小遣い、ありがとな。」

シン
「いいって。」

店主
「毎度ー。」

シン
「…。」

どういう事だ…?

タクミちゃんはあの工場で働いていて、それはゴンも知ってる。

工場は情報通り休暇に入っていて、昨日の夜はゴンと過ごしてる。

ウソを言ってるようにも思えない。

だとしたら、オレが工場で見たタクミちゃんはなんだ?

思い返してみれば確かに様子はおかしかった。オレに目もくれず走り去ってった。

オレだと気付いていなかった?

だとしても夜中の工場で人と出くわして動揺しないはずがない。

夜中の工場で人と出くわす?

そもそもあの清掃員もおかしかった。

内通者によってタネの強奪が筒抜けなら、なぜ清掃員一人だけ置いといたんだ?大勢いたら近づけなかったのに。タネが既に安全な所に移されていたなら無人でも問題なかったはずだ。

何も知らない感じだった。

本当に何も知らなかったのか?

本当に一人だけだったのか?

本当にカンザキに雇われた清掃員だったのか?

COM社に雇われたオレらとはまた別の侵入者?

COM社よりも先にタネを奪いに来た第三者?

COM社はなんでタネを欲しがる?

なんでカンザキの工場にそのタネがある?

タネ…。

店主
「コーヒー、まだ飲むかい?」

シン
「ああ、貰うよ。悪い、灰皿も良いか?」

タネ。リリとも。恐らくは地下の技術の産物だろう。

それもCOM社が強奪したがるような価値の。

タクミちゃんはそれを観察する仕事をしてた。

恐らくは何も知らされずに。

あの清掃員はどうなった?

ずっとロッカーで寝てたんだろうか?

それとももう捕まって、始末されただろうか?

出ねえ。

…確証は無い。

二人が無関係であって欲しい願望が産んだ妄想かもしれない。

だが、地元に戻ってからのオレを取り巻く状況が、タネを中心に回ってる気がする。

タクミちゃんは工場に行くと言っていた。

やっぱり追うか?工場に行けば、タネやカンザキの事も何か知れるかもしれない。

それともCOM社にオレの方から出向いてみようか、

ちょっと危険だが向こうもアイツ抜きでオレと接触したいはずだ。出会い頭に殺されたりはしない。

内通者の事も何かわかるかもしれない。

どっちにしても、アイツのメンツをツブすだけじゃ済まなそうだが。

シン
「なに見てんだよ?」

ハンバーガーじゃねえ。

コメントを残す