店主
「行儀のワリぃガキどもだな。」
ゴン
「これ、オマエんトコの工場じゃねえか?」
タクミ
「うん。」
ゴン
「爆発したって言ってるぞ。」
タクミ
「地下一階からだって。」
ゴン
「オマエ休みで良かったな。」
タクミ
「うん。」
タクミ
「あっ、リリ大丈夫かな…。」
ゴン
「リリ?」
タクミ
「リリ。」
ゴン
「誰かの名前か?仕事仲間?」
タクミ
「秘密。」
ゴン
「教えろよ。」
タクミ
「ダメだって。」
ゴン
「そこまで話しといて…。」
タクミ
「なんにも話してねー。」
ゴン
「ヒマだとちょっとした事でも気になるんだよ。目の中を泳いでるゴミとか、スネのカサブタとかさ。」
タクミ
「リリはタネの事だよ。」
ゴン
「タネ?」
タクミ
「職員さん達はそう呼んでたけど。私はリリって呼んでるの。」
ゴン
「なんで?」
タクミ
「前にいた先輩がそう呼んでたから。」
ゴン
「なんで?」
タクミ
「わかんない。」
ゴン
「ふーん。なんなんだ?タネって言うぐらいだから花の種とか?」
タクミ
「わかんないよ、教えてくれないもん。私もあんまりヨソで喋っちゃダメなんだよ。」
ゴン
「で、そのタネがなんで心配なんだ?」
タクミ
「そのリリを毎日観察して、そのデータをセンターに納めるのが今の私の仕事なの。」
ゴン
「データ取って何するつもりなんだ?」
タクミ
「さあね。私はデータさえ取れればお金貰えるから。」
ゴン
「ふーん。つまんなそうな仕事。」
タクミ
「アンタにはちょっと退屈かもね。でもあのコ、数値にパターンがあってさ、分かってくると赤ちゃんみたいでカワイイんだよ。喜んだり、怒ったりさ。」
ゴン
「爆発したりもするのか?」
タクミ
「やめてよ。」
ゴン
「…。」
タクミ
「…。」
ゴン
「兄貴来ねえな。」
タクミ
「うん。」
ゴン
「スロット打ってきても良いかな?」
タクミ
「良いわけないでしょ。」
ゴン
「ちょっと、占って来ようかな?ヒマだし。」
タクミ
「何を?」
ゴン
「最近ツイてるからさ、きっと大吉とか出るぜ。」
タクミ
「それじゃ占いじゃなくてクジ引きだよ。ツイてるのが分かってるなら、占わなくてもいいんじゃないの?」
ゴン
「確認だよ。」
タクミ
「なんの?」
ゴン
「秘密。」
ゴン
「待ってな。」
ゴン
「ごめんください。」
カエル
「?いらっしゃい。」
ゴン
「占って欲しいんだけど。」
カエル
「景気の良さそうなのが来たな。」
ゴン
「わかる?最近ちょっとツイててさ、ちょっと自分の運を試してみたいんだ。」
カエル
「社交辞令だよ、座んなよ。」
カエル
「何を占うんだ?」
ゴン
「いや、何をって運勢というか、もっとラッキーな事が起こりそうな予感がしてさ…。」
カエル
「もっとちゃんと決めなきゃダメさ。」
ゴン
「えー。」
カエル
「なんか無いのか?そこの彼女といつ頃結婚できるか、とかさ。」
ゴン
「それは今どうでもいいんだ。」
タクミ
「聞こえてるぞ。」
ゴン
「へっ。」
カエル
「いらっしゃい。可愛らしいお嬢ちゃん。」
タクミ
「お上手ね、ハンサムなカエルさん。」
ゴン
「うるせえなあ。」
カエル
「無えならオレが勝手に占っちまうぞ?」
ゴン
「そんな占い師がいてたまるかよ。」
タクミ
「それで占うの?」
ゴン
「サイコロだ。」
カエル
「ただのサイコロじゃない。古い友人から貰った魔法のサイコロさ。」
ゴン
「ホントかよ。」
カエル
「どうだろうな。はい、山沢損。変爻は五爻。」
タクミ
「ハヤー。」
ゴン
「ちゃんと占ってくれよ。」
カエル
「ちゃんとやってるよ。ただとてつもなく早いだけで。」
ゴン
「その前に何を勝手に占ったんだよ?」
カエル
「運良く手に入れた金の使い道とかな。」
ゴン
「!?」
タクミ
「お金?スロットで勝ったお金?なんで知ってんのこのカエル?」
カエル
「呼び捨て…。」
ゴン
「タクミさんちょっと静かにしてて。」
タクミ
「?」
ゴン
「で、結果はどうなんだ?」
カエル
「大吉さ。疑う余地もなく。」
ゴン
「ほら!」
タクミ
「すげ。」
ゴン
「でも占ったのは金の使い道だろ?」
カエル
「そうだよ。」
タクミ
「どういうこと?」
カエル
「そうだな、ボランティアとか、心のこもったプレゼントってとこになるかな。誰かや何かの為に自分の財産を差し出すって意味だ。」
ゴン
「げっ。全然大吉じゃねえじゃん。」
タクミ
「ウソ。」
ゴン
「使わなきゃダメって事か?」
カエル
「その使い道さ。なんか決まってるのか?」
タクミ
「私、新しいサンダルが欲しいんだよ。」
ゴン
「いや、これといってないんだけどさ、」
カエル
「じゃあ、あっちから取りに来るかな?」
ゴン
「誰が来るんだよ?」
カエル
「知るか。」
ゴン
「待ってろって事か?もし、来なかったら?」
カエル
「きっと来るさ。本当の大吉もその後にな。」
ゴン
「見返りがあるって事?」
タクミ
「このサンダルなんだよ、欲しいんだ。カワイイと思わない?」
ゴン
「カワイイよ。」
カエル
「見返りって言うとアレだけど、良い経験にはなるかもな。生活が一変するようなさ。」
ゴン
「いいよ、めんどくせえよそんなの。」
カエル
「なんで?いいじゃん。」
ゴン
「オレは良いんだよ、別に変わらなくても。」
カエル
「なんで?」
ゴン
「オレが変わらなくても、周りが勝手に変わってっちまう。オレまで変わってしまったら、変わっていったヤツらが変わった事に気づかないだろ。」
カエル
「年寄りみたいな事言うんだな、キミは。」
タクミ
「受け売りでしょ、どうせ。」
カエル
「まあまあ、当たると決まったわけじゃないし、別に信じなくたっていいよ。でも、キミがどう感じようが占いは占いで、大吉は大吉だ。家の鍵と一緒にポケットにでも入れときな。」
ゴン
「…わかった。無駄遣いはしない。」
カエル
「見た目と違って素直なんだな。」
タクミ
「ガキなのよ。」
ゴン
「金は?5000で良いのか?」
カエル
「そんなにいらねえ、1000でいいよ。」
ゴン
「いや、5000って書いてあるからさ。」
カエル
「そう書いとけば安い方の値札がもっと安く感じるだろ。」
ゴン
「アタマが良いんだな。」
カエル
「カエルだからな。」
ゴン
「わけわかんねえ。まあいいや、大吉貰ったし。」
カエル
「毎度あり。彼女もひとつどう?」
タクミ
「また今度。」
ゴン
「これから兄貴にメシ奢ってやるんだ。」
カエル
「そうかい。いい使い道だな。」
タクミ
「またね、カエルさん。」
カエル
「またね。」
かえるのうた