ゴン「…。」
ゴン「仕事連休に入ったんなら一日ぐらい手伝ってくれてもいいじゃねえかよ。」
ゴン「あのクレーン、またちょっと傾いてきたな。」
最盛期、地下から上がって来た鉄クズだけで作ったって言われてるあのバケモンみたいなクレーンと、燃料タンクと電波塔。
その技術も失われ、今はもう過去の遺物。燃料タンクはとうの昔にスッカラカン。クレーンが動いてたのなんか、オレが産まれるずっと前。電波塔は言わずもがな。
ゴン「昨日も上がって来なかったみたいだな。」
最後に上がって来たのは三か月くらい前か。それだってほとんどがなんの使い道もない気味悪い色の石。それすらも年々減ってきてる。上がって来るゴミが減ってくれば、それに群がる労働者も居なくなる。
地下でなにかあったんだろうか?
あったところで確かめようないが。
オレはただゴミを漁って、お宝を見つけて売る。それだけ。パチ屋と大して変わらない。こっちの方はもう良い台は無さそうだけど。
最初に兄貴、次に出てったのはタクミ。みんなここで育った。出てった方が正解なんだろう。実際兄貴もタクミも各々がちゃんと仕事にありついてる。
オレもこの機械が動かなくなったら別の仕事を探さなきゃならない。誰かの意思とか悲願を受け継いでるわけじゃない。
出入りは自由だ、誰も止めない。
でもこんなトコでもオレらの故郷だ。愛着だって無いわけじゃない。その故郷の末路を一番近くで見届けたいだけなのかも。あるいは、
ゴン「ん?」
ゴン「トライク、というかオート三輪か。」
なんでこんなところに?
ゴン「ボロいけどゴミじゃ無さそうだ、かっぱらって売っちまうか。」
カギがついてないな、誰か近くにいるのか?ここで車を降りてどこか散策してるとか?ゴミみたいな人生に絶望して穴に飛び降りたとか?どっちも有り得る。
ゴン「とりあえず放置しとくか?いつまでもあるようなら貰っちまおう。」
ゴン「?」
なんだこのバッグ。
ゴン「!!」
金だ。それも大金だ。
相当あるぞ、ちょっと喜べないか?この見つけ方は?
ヤクザ絡みだろうか?ここで何かの取り引きを?それとも盗んだ金だろうか?どっちも有り得る。
なんだ?カギは抜いて、金と車を置いてった意味。
しかも隠すわけでもなく、なんの気なしに停めた感じ。
こんな穴の近くで。
ゴン「めんどくせえな。」
とりあえず埋めちまうか。持ち主に聞かれたら掘り起こしてやりゃいい。本当の持ち主じゃなくたって知ったこっちゃねえ。
善意で隠したと、他意は無いと。ここで面倒を起こすなと。強気で言ってやりゃあいい。オレの職場だ。オレの故郷だ。
でも、いつまでも経っても持ち主が現れなかったら、そん時は。
ゴン「そん時は、この金はオレのモンだ。」
しかし昨日からどうなってんだオレの金運は、近い内に死んじゃうんじゃないか?
待て待て、まだオレの金だと決まったわけじゃない。早まるな。誰にも言うな。ここに埋めたのを知ってるのはオレだけだ。誰にも、タクミにも、兄貴にもだ。知ってんのはオレと、持ち主と、犬と、穴とゴミ山だけだ。
これでよし。とりあえずは。
あとはこれが徒労に終わるか、宝に変わるか。
大したことねえよ、いつもやってる事だ。
ゴミを漁って、お宝を売る。いつもの事だ。
もう日が暮れる。
タクミがうるせえから帰ろう。
穴とゴミ山。