隣人を愛せ。

パーラー・オーバー・ザ・ムーン。

レア役も引けてる、初当たり確率も良い。
台は悪くない、狙い通りだった。

ただ、連チャンが続かねえ。
朝イチから四万使って単発二十回ってどういう事だよ?裏でゴチャゴチャやってんじゃないのか?

隣のオッサンは早めに引いた初当たりが上手いこと連チャンに繋がってるけど、多分このオッサンが引き強なだけだろう。

前日、前々日とあんだけ出てるから、下げか、据え置きだったとしてももうしばらくハマると思ったんだけどな。

つまんねえ。引き上げるか。

ゴン「けっ。」

隣の男
「あら、ヤメんのか?兄ちゃん?」

ゴン
「ああ。台は悪くないと思うんだけど、隣でそんなに積まれたら出る気しねえよ。」

隣の男
「まあ、そんな時もあるわな。」

ゴン
「身ぐるみ剥がされる前に引き上げるよ。」

隣の男
「賢明だ。」

ゴン
「オッサンもあんまり粘るなよ。その台、今は出てるけど多分設定入ってないぜ。」

隣の男
「肝に銘じとくよ。詳しいんだな。」

ゴン
「詳しいよ。台も、店も。」

隣の男
「若いもんな。」

ゴン
「二、三日派手な出方してたからな。他の連中だって分かってるからそんな台朝から誰も座らねえ。たまたま座ったおっさんが、たまたま出したのさ。」

隣の男
「そのたまたまってのが大事なのよ。その時、その場所に、偶然、居合わせる。」

ゴン
「狙って出来りゃ誰も苦労しねえよ。」

隣の男
「かもな。でも奇遇にもオレがちょうどもうヤメなきゃならない。」

ゴン
「え?ヤメちゃうの?」

隣の男
「ああ、ちょっと行かなきゃならない所があるんだ。」

ゴン
「どこに?」

隣の男
「職探し。」

ゴン
「仕事してねえのかよ、オッサンなのに…。でもまだ連チャン残ってるし、上乗せだってもしかしたら有り得るかもだぜ?もったいねえよ。」

隣の男
「いいさ、懐かしくて寄っただけだからさ。兄ちゃんに譲ってやるよ、ちょっとだけなら取り戻せるかもよ。」

ゴン
「い、いいのかよ?」

隣の男
「出なくても怒って文句言って来んなよ。」

ゴン
「しねえよ、ガキじゃあるめえし。」

隣の男
「ツイてたな、たまたまオレの隣で打ってて。」

ゴン
「違うだろ。オレの隣にオッサンが座って来たんだよ。」

隣の男
「どっちでも大して変わらないさ。」

ゴン
「あ、そうだ。」

隣の男
「?」

ゴン
「仕事探してんならさ、カンザキさんトコに口利いてやろうか?」

隣の男
「カンザキ?誰だそりゃ?」

ゴン
「オレも会った事は無いんだけど、ゴミ山の向こうに工場をいくつも持ってる金持ちでさ、オレらみたいなヤツにも仕事を回してくれる。」

隣の男
「へえ。羽振りはいいのか?」

ゴン
「ピン切り。でも、働いた分の金は間違いなく払ってくれるよ。」

隣の男
「ふーん。出来ればもっとちゃんとしたトコで働きたいんだがな。」

ゴン
「待ってな、今電話して話付けてくる。」

隣の男
「まだそこで働くって決めたワケじゃないぜ。」

ゴン
「いいからいいから。」

あ、そうだ、オレ電話止まってんだった。

まあ、いいや。オレの顔なんか使わなくても、何かしら仕事はあるだろ。

ゴン
「オッサン。」

隣の男
「?」

ゴン
「オレ今電話止まっててさ、」

隣の男
「なんだ、金払ってねえのか?兄ちゃんこそオレの心配してる場合じゃねえんじゃねえのか?」

ゴン
「いや、あんまり使わないからいいんだわ。」

隣の男
「兄ちゃんが使わなくても兄ちゃんに用事があるヤツが電話してきたらどうすんだよ?」

ゴン
「あんまりいないんだよね、そういうヤツ。」

隣の男
「オレ以上のヒマ人だな。若えのによ。」

ゴン
「とにかく、ここに電話してみてくれ。身分証はあるか?」

隣の男
「免許証も銀行口座も労働意欲もあるよ。」

ゴン
「そうか、電話口でそう伝えてくれ。」

隣の男
「後で掛けてみるよ、ありがとさん。」

ゴン
「礼を言いたいのはこっちのほうだよ。助かったぜ、親切なオッサン。」

隣の男
「まだ気がはええよ。」

ゴン
「へへへっ。」

隣の男
「デケぇピアスだな。」

ゴン
「イカすだろ?」

隣の男
「ああ、イカすよ。」

隣の男
「そろそろ行くわ。」

ゴン
「ありがたく打たせてもらうよ。」

隣の男
「またな。」

ゴン
「うん、またどっかで。」

隣人を愛せ。

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