黒い天体を見る。

シン
「到着。」

当然のように明かりが点いてるな。そりゃ、誰かしら人はいるか。

警備員だろうか。最低でも二人くらいか?

非常口はアレか。鉄製の普通のドアだ。郵便受けが無いだけでオレの部屋のドアと変わらない。

写真だけじゃ判断しづらいが、最近の工場はこんなに綺麗なのか?
掃除用のロボットまである。

この機械とかも自動なんだろうか。
オレもマジメに勉強してこういう所でマシンオペレーターとかやりたかったな。そうすりゃこんな仕事しなくても済んだのによ。

安定した収入、自分の都合で取れる休日。平穏な暮らし、平凡な夢。

というかこの現場写真、パンフレットかなんかのヤツじゃねえかコレ?
地図もなんかイラストみたいなヤツしかねえ。
テキトーなモン送ってきやがって、あってもしょうがねえだろこんなモン。

シン
「あと20分、そろそろ向かうか。」

もうすぐ時間だ、目は暗闇に慣れてる。
停電と同時に突入。
非常用発電機が作動する前に地下まで行けるか?

シン
「まあ、なるようになれだ。」

向こうで音がするな、停電で慌ててる。
こっちが先に見つけちまったんなら、ノシといた方が後々ラクか?

シン
「動くな。」

????
「!?」

シン
「大人しくしてくれりゃ何もしない。」

????
「誰だっ!電気消したのはお前か?」

シン
「さあな。アンタは何してる?」

????
「見りゃ分かるだろ、掃除してたんだよ。」

シン
「アンタ一人でか?」

清掃員の男
「一人でだ。」

シン
「銃突きつけられてんのにウソはマズイぜ、おっさん。一人でこんな広いトコ掃除出来るわけねえだろ。」

清掃員の男
「待て待てっ!分かったっ、待てって!殺すな、掃除はロボットがやってる。オレは細かいトコロの修繕と、警備担当だ。」

シン
「それにしたってワンオペでやらせるかよ。」

清掃員の男
「本当だ!オレだって怪しいと思ったさ、でも社会復帰して何とかありついた仕事なんだ、頼むから見逃してくれ。」

どこにでもツイてないヤツはいる。
同情するぜ。

シン
「さっきも言ったが大人しくしてくれりゃ殺しはしない。ただ少しの間寝ててもらう事にはなるが。」

清掃員の男
「クビになっちまうよ。」

シン
「また職探し頑張ればいい。大丈夫。この仕事の代わりなんていくらでもあるさ、オレやアンタと一緒でさ。」

そうさ、オレやアンタの代わりなんていくらでも。

清掃員の男
「分かったよ、好きにしな。こんな安い仕事でくたばるよりはマシだぜ…。」

シン
「地下へは?」

清掃員の男
「…向こうだ。真っ直ぐ進んだ突き当たりに階段とエレベーターがある。」

シン
「どうも、そこのロッカーの前まで歩きな。」

清掃員の男
「はいはい。」

シン
「…ちなみに地下も掃除するのか?」

清掃員の男
「オレが指示されたのは一階だけだ。」

シン
「そうかい。ツイてたな。」

清掃員の男
「ぐっ。」

シン
「しばらくその中で寝てな。」

シン
「現場が被ればこんな事もある。オレも仕事なんでね、悪く思うなよ。」

発電機が作動したか。セキュリティは依然作動せず。

案外早く片付きそうだ。とっとと済まして今度こそリッチな休暇を。

シン
「?!」

シン
「タ、タクミちゃん…!」

タクミ
「…。」

なんでここにタクミちゃんが!?ここで働いてたのか?
でも従業員は休みのはずだ!まさか研究所にいたのか?

マズイぞ、こんなマスクひとつじゃすぐバレる。

この状況で誤魔化せるか?どうやって?

話すか?
何を?
オレの正体を?
この仕事を?

シン
「いや、あああのさ、違うんだ、タク…。」

タクミ「…。」

シン
「お、おいっ!シカトかよっ、」

急に走り出したぞ、様子がおかしい。
いつものタクミちゃんじゃない…。
外に向かってるのか?
仕事は?
今はそれどころじゃねえ。

追わなきゃ。

シン
「待ってくれ!タクミちゃんっ!」

ツイてねえ、まさか身内の職場とは。
違和感はあった、違和感というかオレだけ歯車が噛み合ってない感じだ、最初から。

休暇中に仕事が入ったのも、弟の顔を見れなかったのも、飲み屋でシケた客呼ばわりされたのも、全部。

クソっ、イヤんなるぜ。

シン
「なんだこりゃ…。真っ黒い、星…?」

それにでけえ、禍々し過ぎるだろ。
ブラックホールってヤツだろうか。
実物のブラックホールを見たことが無いからなんとも言えないが。

シン
「あ、おいっ!タクミちゃん!」

シン
「ハアっ…ハアっ。」

見失った。

シン
「クソっ、わけが分からねえ。」

あの黒い星もだが、タクミちゃんが心配だ。
ゴンはまだ起きてるだろうか?

アイツには一応話せる事は話した方がいいか?
いや、落ち着け。話したってしょうがない。オレの問題だ。

とにかくウソでもなんでもいい、オレが夜中の工場にいた事と、タクミちゃんと会った事を、なるべく自然に、当たり障りなく伝える方法を爆速で考えろ。

シン
「…いやー参ったぜ。タクミちゃんあの工場で働いてたんだな?掃除のバイト中に同僚とふざけてたら、偶然居合わせたタクミちゃんにあられもない姿を見られちゃってよ、ところでそのタクミちゃんは今は家に帰っているのかい?」

これだ!これでいこう。それだけ伝えとけば後はどうとでもなる。

最悪オレの仕事はゴンにはバレてもいい。オレとタクミちゃんが秘密を共有する事のほうがマズイ。兄貴としての沽券に関わる。

シン
「起きててくれよ、」

電話の声
「…お掛けになった電話は、お客様の都合によりお繋ぎできません。」

シン
「金払ってねえじゃねえかあのバカ!」

シン
「ハァっ…ハァっ…あのバカ…。」

なんか泣けてきた…。

仕事に戻ろう…。

お金持ちになろう…。

黒い天体を見る。

コメントを残す