シン
「ちょいと早かったか。」
深い林、カラスと夕暮れ、廃れた工場。悪巧みにはちょっと明るいが。
シン
「おっ。」
ブローカー
「早かったな。」
シン
「どっかの誰かのおかげで休暇が無くなったんでな。」
ブローカー
「ぼやくなよ。」
シン
「で?」
ブローカー
「COM社からの依頼だ。」
シン
「胡散臭い名前が出てきたな。」
電気事業を主軸にIT、物流、地下から定期的に地表に上がってくるゴミの買取りとリサイクル、要は何でも屋。
ブローカー
「あの工場だ。表向きは何の変哲もない工場だが地下3階に研究施設があるんだ。」
シン
「何の研究?」
ブローカー
「そこまでは知らない。」
シン
「ふーん。」
まあ、知ってても言わないわな。
ブローカー
「その研究施設にあるブツの確保だ。」
シン
「なんだよ、ブツって?」
ブローカー
「連中はタネと呼んでたけど、詳細は不明だ。」
シン
「そこに行ってそのタネを持ってくりゃいいのか?」
ブローカー
「いや、施設内部には入れない。3重の壁がそれぞれ物理キーと、生体認証と、AIに作らせた言語のパスコードでロックされてる。」
シン
「聞いてるだけで入る気失せた。どうやって盗むんだよ?」
ブローカー
「盗みじゃない。確保だって言ったろ?COM社がタネを取りに来るまで何人たりとも近付けないように隔離するんだ。」
ブローカー
「あの工場、明日の夜からCOM社請負のシステムメンテナンスで全従業員が休みに入る。全く無人になるわけじゃないんだろうが、だいぶ手薄になる。」
シン
「でも研究施設には流石に誰かいるんじゃないか?」
ブローカー
「居たら居たでソイツらも確保だ。どうせ始末されるがね。」
シン
「オレは何をすればいい?」
ブローカー
「メンテナンスに乗じてCOM社が外部からの電力供給とネット回線を止める。勿論セキュリティも。アンタの仕事は地下1階にある非常用発電機の爆破だ。」
シン
「爆破?止めるだけじゃなくて爆破?」
ブローカー
「ああ、爆破だ。内々で処理されたらCOM社が介入出来ない。メンテナンス中にセキュリティを抜けた謎の侵入者に爆破してもらわないとな。」
警察沙汰も厭わないか。警察も抱き込んでるって事だろうが、オレは本隊が突入する為のすてごまってわけね。
ゴミにも駒にもなるつもりはないが。
シン
「でもそういう研究施設って、工場の非常用電源とは別に専用の電源とかありそうなもんだけどな。中から警報鳴らされたらアウトだぜ。」
ブローカー
「設備や職員の生命を維持するくらいのライフラインはあるさ。だが内側から警報鳴らされたり人が出てきたりの心配は無いんだ。」
シン
「なんで?」
ブローカー
「ここの施設、とある技術が使われててな、緊急時には外部から一切の干渉が出来なくなる。」
シン
「とある技術…。」
「その技術のおかげで外部の安全が確認出来るまでは内側からは出られない。言い換えると、外部のあらゆる物が必要なくなって、その施設がひとつの小さな世界になる。」
シン
「それってさ、」
ブローカー
「ああ、かつて人が地下に潜った技術だ。」
物質を素粒子まで分解して別の物に再構築するんだっけ。その技術で地球の真ん中まで穴掘って、そこに移り住んだ。年寄りの昔話でしか聞いた事ないが、どのみち現代の地表にはあっちゃダメな技術だ。
シン
「引きこもろうと思ったら何百年でも引こもれるって事ね。」
ブローカー
「まあ、アンタは気にしなくていい。近寄る必要も無い。自分の仕事に専念してくれ。」
シン
「そのつもりだよ。段取りは?」
ブローカー
「ゲートは素通り出来る。非常口からこのカギで入ってくれ。これがその爆弾。言うまでもなく取り扱い注意だ。決行は明日の22時。起爆はその翌日の2時だ。」
シン
「こんなもん今渡すなよ。」
ブローカー
「明日はオレも忙しい。今日しか連絡も接触も出来なかったんだ。」
シン
「報酬は?」
ブローカー
「300。」
気前がいい。コイツがいくらハネてるのか知らないが一晩の稼ぎとしては破格だな。
シン
「わかった。引き受けるよ。」
ブローカー
「上手くやれよ。」
シン
「ああ。」
こっそり忍び込んで爆弾仕掛けりゃあとは爆弾が勝手に爆発してくれる。
どうって事ねえよ。
案外早く終わっちまったな。
アイツらもうメシ食ったかな?
シン
「いねえや。そもそも爆弾持ったまま家族と食事ってわけにもいかないか。」
シン
「腹減ってるわけじゃないし、コーヒーでも飲んで帰るか。」
すてごま。