シン
「…。」
電話の声
「起きてるか?」
シン
「今、起こされたよ。」
電話の声
「仕事だ。」
シン
「休暇を貰ったはずなんだが。」
電話の声
「こちらとしても急な依頼で人がいないんだ。申し訳ないが休暇は別の機会に頼む。」
一年振りの里帰りだぞ、しかもこんな朝早く。
人のプライベートをなんだと思ってる。
シン
「何をすればいい?」
電話の声
「直接会って伝える。夕方会えるか?」
そっちの仕事ね。
シン
「ああ、場所は?」
電話の声
「ゴミ山の向こうの林だ。わかるか?」
シン
「ああ、弟の家の近所だ。」
電話の声
「なら話が早い。18時に林で。」
シン
「わかったよ。18時に林ね。」
良かった、まだ朝で。夕方急に呼び出されてたら発狂するところだった。
いや、こんなヤツから仕事を斡旋されるくらいならいっそ発狂したほうが良かったのかも。
オレの故郷で急な用事?他に人がいないって?
ウソだろ。一番断れなさそうなヤツに最初に声掛けただけだろ。
まあいいや、夕方まで時間がある。久しぶりにあのバカの顔でも見に行って来るかな。
しょうがねえ。
ゴミ山か、ゴミとは言っても地下から昇ってくる余剰資源だ。使えるモンの方が多い。オレはお目にかかった事は無いがたまにお宝も。
昔はよくゴミ漁りして日銭稼いでたっけ。
あいつらは相変わらずかな?ちゃんとした仕事してるだろうか。
まあ、一年じゃそんなに変わらないか。
特にあのバカは。
タクミ
「義兄さんっ!」
シン
「よお、タクミちゃん。」
タクミ
「久しぶりだね。」
シン
「ゴンは?」
タクミ
「仕事探して来るって言ってたけど、どうせギャンブルよ。」
シン
「あのバカ。」
タクミ
「あのバカ。」
タクミ
「いつ帰って来たの?」
シン
「昨日。」
タクミ
「今度は長くいれるの?」
シン
「多分な。」
タクミ
「忙しいもんね、義兄さんは。」
シン
「あっち行ったりこっち行ったり、イヤんなるぜ。」
故郷で休暇を取っててもだ。
タクミ
「なんでこんなマジメなお兄さんがいながら、弟はあんなんなっちゃったのかね。」
シン
「それはきっと、オレが頼りになり過ぎてしまったからだろう。」
タクミ
「義兄さんの仕事アイツにも手伝わせてよ。」
シン
「アイツじゃ無理だよ、ああ見えて優しいヤツだから。」
タクミ
「知ってる。」
シン
「それに、オレは身内と損得勘定はしねえ主義だ。」
タクミ
「知ってる。」
シン
「そういえばオマエら何年付き合ってんだ?」
タクミ
「8年くらい。」
シン
「長い事付き合って、もう二人ともいいトシだろ?結婚の話とかないのか?」
タクミ
「するよ、結婚。」
シン
「マジかよっ。」
タクミ
「マジ。」
シン
「そうかー、オレもついに名実共に義兄さんかよ…。」
タクミ
「ふふ、」
シン
「で、いつするんだ?」
タクミ
「アイツがちゃんと仕事するようになったら。」
シン
「じゃあ当分無理じゃねえか。」
タクミ
「そうかもね。」
タクミ
「ゴンが帰って来たらさ、また三人でゴハン食べに行こうよ。」
シン
「明日でも良いか?これから人と会うんだ。」
タクミ
「彼女?」
シン
「違うよ、仕事だ。」
タクミ
「本当に忙しいね。」
シン
「イヤんなるぜ。」
本当に。
タクミ
「頑張ってね。」
シン
「頑張りたくねえんだけどなあ。」
シン
「ああ、そうだ。」
タクミ
「?」
シン
「これでメシ食って来いよ。」
タクミ
「いいよ、いつも悪いよ。」
シン
「いいから。」
タクミ
「ありがとう。」
シン
「じゃあ、アイツの事よろしくな。」
タクミ
「うん、仕事頑張ってね。」
シン
「またな。」
18時に林で。