51 震為雷

51 しんいらい


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

ミートボール屋のガイコツ
「大変な事になったぜ。」

カエル
「なんだか慌ただしいな。」

ミートボール屋のガイコツ
「これが慌てずにいられるかよ。」

茶番をトばす。

カエル
「なるほどわかった。とりあえず今日は帰りな。」

ミートボール屋のガイコツ
「いや昨日街でさ、」

カエル
「マジかよ…。とりあえず今日は帰れ。」

ミートボール屋のガイコツ
「いや、違うんだ。昨日街でさ、」

カエル
「いや、違わない。とりあえず帰れ。オレはどうぶつの森をやる。」

ミートボール屋のガイコツ
「まだやってたのかよ。」

カエル
「そんなにやってないよ。たまたまやってるとキミが来るんだよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「まあそんな事よりも昨日街でさ、」

カエル
「なんだよ?厄介事はゴメンだよ?オレは静かで慎ましい生活を愛してるんだよ?」

ミートボール屋のガイコツ
「それは知ってるよ。」

カエル
「じゃあジャマすんなよ。キミの事だからどうせミニスカートの女が横断歩道でリンボーダンスしてたとかそんなんだろ?確かに滅多にあることじゃないけどさ、たまにはあんのさ、そういう事はさ。騒ぐ程の事じゃないよ。」

ミートボール屋のガイコツ「いや、違うんだ、聞いて。」

カエル
「何が違うんだよ。キミはいつも忙しそうな感じでバタバタバタバタして。バタースコッチにでもなるつもりかよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「本当に忙しいんだよ。そんな事よりもさ、昨日街でいつものように店を出してたらさ、」

カエル
「いつものように店を出してたんならそれでいいじゃねえかよ。いつものように朝が来て、いつものように仕事が出来て、いつものようにメシ食って寝る。それになんの不満があるのか?日常を愛せ、退屈を尊べ、手に入れた自分だけの時間を最大限無駄に使え。わかったら今日は帰れ。」

ミートボール屋のガイコツ
「いや、同業者のハンバーガー屋がさ、だからこっちを向けよ。どうぶつの森から目を離せ。いつまでやってんだよ。」

カエル
「無論、死ぬまで。」

ミートボール屋のガイコツ
「やかましい。」

カエル
「で?すげえめんどくさそうに聞くけどハンバーガーがどうしたって?」

ミートボール屋のガイコツ
「同業者のハンバーガー屋がいてさ、そこのオーナーが昨日街に来たんだよ。」

カエル
「いつも一緒に店を出してる移動販売のハンバーガー屋さんがそもそも売り子さんで、そこのオーナーが現場の様子を見に来たって事?」

ミートボール屋のガイコツ
「そうそれ。」

カエル
「なるほど。」

ミートボール屋のガイコツ
「そのオーナーがどっかで見たことあるなと思ったらさ、」

カエル
「キミはいっつもどっかでなんか見てるからな。」

ミートボール屋のガイコツ
「なんとオレが引越しを手伝ってあげたあの兄ちゃんだったんだよ。」

カエル
「は?」

ミートボール屋のガイコツ
「いや、同じアパートに住んでてさ、仕事辞めて引っ越したさ、」

カエル
「あー…。」

ミートボール屋のガイコツ
「覚えてないの?」

カエル
「全然覚えてねえ。」

ミートボール屋のガイコツ
「キミがこれを憶えてないと慌てた感じを出しながら飛び込んで来たオレの立場がないんだが。」

カエル
「追い返しても追い返さなくてもどっちでも良かったな。」

ミートボール屋のガイコツ
「キミの占いが当たったって事を伝えに来たんだよ。」

カエル
「オレは占ってないよ。キミが勝手にサイコロ振ったんだよ。」

ミートボール屋のガイコツ
「憶えてんじゃねえかよ。」

カエル
「思い出したんだよ。」

カエル
「で、元気そうだった?キミの話で聞いただけだから顔も知らないけど。」

ミートボール屋のガイコツ
「うん。すげえ高そうな服着てた。」

カエル
「そうかー。なんだか遠いところへ行っちまったな。全然知らないヤツだけど。」

ミートボール屋のガイコツ
「キミにも会いたがってたよ。」

カエル
「話したの?」

ミートボール屋のガイコツ
「キミのカサ持ってたからさ、これは友人が作ったカサなんだよって教えた。」

カエル
「そうか。光栄だね。」

ミートボール屋のガイコツ
「でも忙しいからいつになるか分からないってさ。」

カエル
「いつでもいいよ。元気でやってるなら。」

ミートボール屋のガイコツ
「じゃあそろそろ行くわ。」

カエル
「またね。」




震為雷
しんいらい


八純卦の一つで震を二つ重ねた形。雷鳴が轟き、大気は震え、その大音量を遥か遠方まで響かせる。

坤の一番下の陰爻が陽爻に転じている事から、震動する大気と大地の卦。不安定な状況。不安定な心。

地震や雷などの決して人間がコントロール出来ない天災と、欲や恐怖や情念などの自身では完全にコントロールし難い心の揺らぎ、心の震えの卦。

面白いのは「天雷无妄」とは違って天災の渦中ではなく、離れた所から伝わってきた情報でそれを認識しているところ。

明日は我が身のトラブルを取り越し苦労に変える為の心構えと言ったところか。危険予知。冷静な判断力。すくむ足を奮い立たせる勇気。少しばかりのユーモアも時には。


卦辞

震。
亨る。震来るに虩虩たり。
笑言唖唖たり。
震百里を驚かすも、

匕鬯喪わず。

しん。
とおる。しんきたるにげきげきたり。
しょうげんあくあくたり。
しんひゃくりをおどろかすも、
ひちょううしなわず。

順調に進む。震はとても強い勢いでやって来る。
過ぎ去った後に笑っちゃうくらいに。
震は百里まで届いて驚かすが、祭器を落とす程でもない。

遠くから響く落雷の音に慌てふためく人々。声のデカいヤツの偽情報に踊らされる人々。百聞は一見に如かず。何事も経験。とは言え時と場合によってはそれすらままならない事があるのも確か。

オレの小さい引き出しから真っ先に飛び出して来るイメージはやっぱり若い頃毎日のように通ってたパチンコ屋になってしまうか。

ホールに響き渡るユーロビート。地鳴りのような喧騒と環境音。確率の気まぐれとホールの思惑に揺さぶられる信念。震える手と、タバコを咥えた唇。なぜか無くなる金。マイナスを取り返しただけなのに勝ったかのように焼き肉を食べに行くオレ。まるで生還を讃えるかのように。

この卦の青臭さと、ドタバタ感と、生まれて初めて打った機種にして実機を持ってるほど打ち込んだ機種の名前が「サンダー」ということもあって、個人的に大好きな卦。


爻辞

恐れは迷い。迷いは遅れ。
遅れは花火。チェリーかボーナス。


初爻

震来るに虩虩たり。
後に笑言唖唖たり。
吉。

しんきたるにげきげきたり。
のちにしょうげんあくあくたり。

きち。

雷はものすごい勢いでやって来るが、過ぎ去ってしまえば安心して笑えるようになる。吉。

喉元過ぎれば熱さを忘れる。ビビってたくせに。


二爻

震来るに厲うし。
億いに貝を喪い、
九陵に躋
逐うこと勿れ。

七日にして得。

しんきたるにあやうし。
おおいにばいをうしない、

きゅうりょうにのぼる。
おうことなかれ。

しちじつにしてう。

雷が間近に迫ってきて危うい。
財産を置いてその場を離れて安全な所へ。
無理に戻ってはいけない。
失った財産は七日もすれば返って来る。

危険な状況。逃げの一手。
生きてさえいればまたやり直せる。


三爻

震蘇蘇たり。
震れて行けば眚い无し。

しんそそたり。
おそれていけばわざわいなし。

雷の勢いが一旦弱まる。
油断せず慎重に進めば災いを避けれる。

相手が勝利を確信したとき、既にそいつは敗北している。
安心した時が一番危ない。


四爻

震きて泥に遂つ。

うごきてでいにおつ。

動いて泥に落ちる。

本来の勢いを失い、身動きが取れない。
これは雷目線。


五爻

震往来すること厲うし。
億いに有事を喪うこと无し。

しんおうらいすることあやうし。
おおいにゆうじをうしなうことなし。

一度遠のいた雷が再び近づいてきて危うい。しかし人の上に立つ立場なのでその場を離れる事なく役目を果たす。

恐れは上から下へ伝播し、混乱を招く。
ししし心配ないからね。だだだ大丈夫だから落ち着いて!っていう。


上爻

震索索たり視ること矍矍たり。
征けば凶。
震れること其の躬に于いてせず
其の隣に于てすれば咎无し。
婚媾言有り。

しんさくさくたり、みることかくかくたり。
いけばきょう。
おそれることそのみにおいてせず、
そのとなりにおいてすればとがなし。
こんこうことあり。

離れた安全な所にいるが、雷を恐れるあまり心が弱まり、視点も定まらない。
そのまま進めば凶。
雷が自分の身に近づいて来る前に対処すれば咎められないし、親しい人からも恨まれる事も無い。

安全な立場なのに、ビビり過ぎて冷静さを失い正常な判断が出来ない。遠い国の戦争よりも近くの家族を。無意味な心配よりも今出来る行動を。


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