30 離爲火

30 りいか


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

便利屋のガイコツ
「バッタ買って来たよ。」

カエル
「ありがとう。」

便利屋のガイコツ
「調子どう?」

カエル
「まあまあ。」

便利屋のガイコツ
「例のブツは出来たの?」

茶番をトばす。

カエル
「まだ。」

便利屋のガイコツ
「今日ヒマなんだ。なんか手伝うよ。」

カエル
「ありがと。この紙をこの大きさに切っといて。」

便利屋のガイコツ
「何枚?」

カエル
「64枚。」

便利屋のガイコツ
「64卦全部書くの?」

カエル
「そうだよ。」

便利屋のガイコツ
「悪い卦は書かないんじゃないの?」

カエル
「あれから考えたんだけどさ、」

便利屋のガイコツ
「うん。」

カエル
「やっぱり完全な吉も完全な凶もないのが易占いだからさ、悪い卦だからダメとかにはやっぱりしたくないんだわ。」

便利屋のガイコツ
「悪いようには書かないんだろ?今日のあなたの運勢は凶ですとか。」

カエル
「それは書けないよ。やっぱり心構えとか励ましみたいになってしまうかな。」

便利屋のガイコツ
「全部の傘に仕込むの?」

カエル
「いや、とりあえず128本作って64枚入れる事にした。」

便利屋のガイコツ
「2分の1か。」

カエル
「そこは陰陽思想が元になってるからな。そういう世界観は無視しないほうがいいかと思ってさ。バランスとってさ。」

便利屋のガイコツ
「そうだね。傘は足りるの?拾って来ようか?」

カエル
「まだストックがあるよ。治さなきゃダメだけど。」

カエル
「それとさ、」

便利屋のガイコツ
「ん?」

カエル
「もし人が訪ねて来る事になったらの話なんだけどさ、」

便利屋のガイコツ
「うん。」

カエル
「倉庫使うかもしれないんだ。」

便利屋のガイコツ
「オレのサンダー号がジャマだって事?」

カエル
「いや、キミがかっぱらって来たソファとイスを使ってもいいかなって。」

便利屋のガイコツ
「かっぱらってないよ。拾って来たんだよ。」

便利屋のガイコツ
「別にいいよ。拾ってきただけで使ってないもの。」

カエル
「ありがとう。」

便利屋のガイコツ
「もっと拾って来ようか?」

カエル
「いや、いいよ。あんまりゴチャゴチャさせたくないし。」

便利屋のガイコツ
「切ったよ。」

カエル
「ありがと。そこに置いといて。」

便利屋のガイコツ
「他なんか手伝う事ある?」

カエル
「このタコ糸をこれくらいの長さに。」

便利屋のガイコツ
「了解。」

カエル
「なんか飲む?」

便利屋のガイコツ
「コーヒーもらえる?」

カエル
「あいよ。」

便利屋のガイコツ
「ありがと。」

便利屋のガイコツ
「なるほど。目の前に紙がぶら下がってくる仕組みか。」

カエル
「目の前とは限らないけどな。地べたに落ちるよりはいいかなって。」

便利屋のガイコツ
「そうだね。紙くずだと思われちゃうものな。拾う手間もあるし。」

便利屋のガイコツ
「工夫してんな。」

カエル
「キミのアイデアがいいのさ。」

便利屋のガイコツ
「流石オレか?」

カエル
「やるやるとは聞いてたけどまさかこれ程とはね。」

便利屋のガイコツ
「まだどうなるかわかんないけどね。」

カエル
「どうなったっていいよ。もう火をつけちまったからな。」

便利屋のガイコツ
「全然似合ってないね、そのセリフ。」

カエル
「恥ずかしい。」

便利屋のガイコツ
「いつになるの?完成は?」

カエル
「2、3週間くらいかかるかな。」

便利屋のガイコツ
「だいぶ弱火だな。」

カエル
「じっくりコトコト煮込んでんだよ。」

便利屋のガイコツ
「あんまり煮詰めんなよ。まあいいや。今日は帰るよ。」

カエル
「またね。」



離爲火
りいか


八純卦の一つ。

小成卦の「離」を重ねた形。炎の卦。太陽の卦。

火の性質そのもの。つく(点く?)とし、離れる。(消える?)
一旦つけばたちまち燃え広がり、燃やし尽くせば消える。

そしてそれは人の感情の動きそのもの。
何から影響を受けて、何に情熱を注ぐか。
自身の火種を何につけるか。何を燃え上がらせるか。


卦辞

離。貞に利ろし。亨る。
牝牛を畜えば吉。

り。ていによろし。とおる。
ひんぎゅうをやしなえばきち。

適切な物につければ火は燃え上がる。
但し際限なく燃え広がるので、牝牛を養うように慎重に管理出来れば吉。

そもそも燃料も酸素もなければ火は燃え上がらない。


爻辞

なんか知らないけど情緒がヤバい。
冷静さも情熱と同じくらい大事。


初爻

履むこと錯然たり。
之を敬すれば咎无し。

ふむことさくぜんたり。
これをけいすればとがなし。

進むにしては周りが暗くて良く見えない。
慎んで時期を待てば咎なし。

まだ夜明け前。
まだだ、まだ。


二爻

黄離。元吉。

こうり。げんきつ。

真昼に輝く太陽。おおいに吉。

完全に黄金の太陽。
つまりゴールドエクスペリエンス。


三爻

日昃くの離。
缶を鼓ちて歌わず。

則ち大耋の嗟あり。凶。

ひかたむくのり
ふをうちてうたわず。
すなわちだいてつのなげきあり。きょう。

西に傾く太陽。
徳利を叩いて歌う気にもなれない。
ただ老衰を嘆く。凶。

一日の終わりを人生の終わりに例える。こんな昔から。

月並みだけどいいトシの取り方はしたい。
願わくば最後の最後まで、自分のままで。


四爻

突如其れ来如。焚如。死如。棄如。

とつじょそれらいじょ。ふんじょ。しじょ。きじょ。

突如焼かれて、殺されて、棄てられる。

突如(笑)
火は燃え広がったらすぐ。
言わなくても分かるのであえて凶とは言わないスタイル。


五爻

涕を出して沱若たり。
戚みて嗟若たり。吉。

なみだをだしてだじゃくたり。
いたみてさじゃくたり。きち。

泣きながら嘆き悲しむ。吉。

自分の実力不足を理解しているので身を慎む。
火の恐ろしさを知ってる分まだマシ。故に吉。


上爻

王用いて出て征す。
嘉き有り。首を折る。
獲るは其の醜
匪ず。咎无し。

おうもちいていでてせいす。
よきあり。かしらをおる。
かるはそのたぐいにあらず。とがなし。

王の命を受けて敵を征伐し、功績を上げる。
首領の首は落とすが、その手下は逃してやる。咎なし。

火は激しく燃え上がり、真の悪を明らかにする。
つまりゴールドエクスペリエンス・レクイエム。


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