11 地天泰

11 ちてんたい


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

運び屋のガイコツ
「おつかれ、バッタ持ってきたよ。」

カエル
「ありがと。またパチンコ復活かい?」

運び屋のガイコツ
「違うよ、働いて稼いだ金だよ。」

カエル
「うれしいね、ありがとう。」

運び屋のガイコツ
「何やってんの?」

茶番をトばす。

カエル
「どうぶつの森。」

運び屋のガイコツ
「素潜りできるようになったんだっけ?」

カエル
「うん。」

運び屋のガイコツ
「オレもう全然やってないや。」

カエル
「オレもだいぶ長いこと放置してた。」

運び屋のガイコツ
「まあ、元々そういうゲームだしな。」

カエル
「そうだね。」

運び屋のガイコツ
「そうだ。肩こり治ったよ。」

カエル
「やっぱり霊の仕業だった?」

運び屋のガイコツ
「いや、寺に行ったらオレが成仏させられそうになってさ、」

カエル
「もちろんそうなるわな。」

運び屋のガイコツ
「とりあえず身の潔白を証明してさ、」

カエル
「どうやって?」

運び屋のガイコツ
「免許証見せて。この町で運び屋を営んでいる者ですつって。」

カエル
「うん。」

運び屋のガイコツ
「理由を説明して肩コリの相談したらさ、」

カエル
「うん。」

運び屋のガイコツ
「住職行きつけの整骨院を紹介されたよ。」

運び屋のガイコツ
「そんで肩甲骨?のズレを矯正してもらった。」

カエル
「なんか、バカみてえな話だな。」

運び屋のガイコツ
「ホントどうかしてたよ。」

運び屋のガイコツ
「でも聞いてくれ、そこの住職さんが仕事をくれたんだ。」

カエル
「へー、よかったじゃん。」

運び屋のガイコツ
「毎週食材と猫のエサを届ける事になったよ。」

運び屋のガイコツ
「あと墓の掃除。」

カエル
「それは断った方がいいよ。」

運び屋のガイコツ
「なんで?」

カエル
「人に見られたら何言われるかわかんないぜ。」

運び屋のガイコツ
「大丈夫だよ、夜やるから。」

カエル
「もっとヤベえよ。」

運び屋のガイコツ
「暑いね、なんか飲み物ない?」

カエル
「コーラあるよ、あとコーヒーも。」

運び屋のガイコツ
「ありがと、コーヒーもらうよ。」

カエル
「どうぞ。」

運び屋のガイコツ
「ヒマだな。」

カエル
「ヒマだねー。」

運び屋のガイコツ
「平和だな。」

カエル
「平和だねー。」

運び屋のガイコツ
「ちょっと占いやらせて。」

カエル
「いいよ。」

運び屋のガイコツ
「どうやんの?」

カエル
「まずサイコロ3つ持って。」

運び屋のガイコツ
「はい。」

カエル
「6回振って。」

運び屋のガイコツ
「はい。」

カエル
「出た目を下から上に重ねて書いてって。」

運び屋のガイコツ
「書きました。」

カエル
「6段になった?」

運び屋のガイコツ
「6段になった。」

カエル
「一投目何?」

運び屋のガイコツ
「2、3、6。」

カエル
「この場合は3。なんでか分かる?」

運び屋のガイコツ
「一つだけ奇数だからだろ。」

カエル
「そうだね。奇数は陽、偶数なら陰。3は奇数だから陽。書いて。」

運び屋のガイコツ
「仲間外れを取るの?」

カエル
「うん。やさしいでしょ。」

運び屋のガイコツ
「全部奇数は?」

カエル
「全部奇数は強い陽、全部偶数は強い陰だ。」

運び屋のガイコツ
「ゾロ目は?」

カエル
「強いヤツ。」

運び屋のガイコツ
「書いた。」

カエル
「一投目は陽って書いた?」

運び屋のガイコツ
「一投目は陽って書いた。」

カエル
「2投目から6投目までおんなじ要領で書いて。」

運び屋のガイコツ
「書いた。」

カエル
「一投目から教えて。」

運び屋のガイコツ
「陽、強い陽、陽、強い陰、陰、陰。」

カエル
「地天泰。これが今回の占いの結果。現在のキミの状況。」

運び屋のガイコツ
「うん。」

カエル
「2段目と4段目が強いでしょ?」

運び屋のガイコツ
「うん。」

カエル
「そこは陰と陽がひっくり返るんだ。」

運び屋のガイコツ
「なんで?強いんじゃないの?」

カエル
「強すぎるから。強くなった陽の中にもまだ弱まった陰が残ってて、今度はその陰が段々と強くなっていって陽を飲み込んでく。でも陽も完全に無くなるわけじゃなくてってグルグル回ってるの。」

運び屋のガイコツ
「それの繰り返し?」

カエル
「そうだね、それの繰り返し。きわまれば転ず。」

運び屋のガイコツ
「ふーん。」

カエル
「まあ、パチンコだってずっと勝ち続けるなんて無理だろ?」

運び屋のガイコツ
「うん。」

カエル
「でもずっと負け続けるのもまた無理なのよ。」

運び屋のガイコツ
「負け続ける方が多いけどね。」

カエル
「客同士で取り合ってる分とは別に胴元の取り分もあるからな、
それかただすげえ下手くそなだけ。」

運び屋のガイコツ
「で、そのひっくり返ったヤツはどうなんの?」

カエル
「陽は陰に、陰は陽になるから。この場合は雷火豊。泰は豊に往く。だ。」

運び屋のガイコツ
「ほう。」

カエル
「つまり今現在の状況は泰で、これから豊に転がる可能性があるよって事。」

運び屋のガイコツ
「よさげ?」

カエル
「なに占ったの?」

運び屋のガイコツ
「なんにも占ってない。」

カエル
「ん?」

運び屋のガイコツ
「なんにも占ってない。」

カエル
「じゃ、ノーカウントだ。もったいねえ、真面目にやれよ。」

運び屋のガイコツ
「でもこれさ、奇数か偶数の目出すだけならサイコロ一つでもいいんじゃないの?」

カエル
「そういうやり方ももちろんあるけど。いいよ、なんだって。ランダムな数字が出せるもんなら。」

カエル
「1個でも2個でも、人生ゲームのルーレットでも。大昔なんて亀の甲羅のヒビとかだし、ちゃんとしたヤツはほっそい棒の束だし。」

運び屋のガイコツ
「そんなんでいいの?」

カエル
「いいんだよ、オレは。それよりもなんで自分が偶然この卦を引っ張ってきたか考える事、忘れちゃダメな事を思い出す事が大事さ。」

運び屋のガイコツ
「ふーん。もっとおごそかな感じでやった方が当たるような気がするけどな。良い道具使ってさ。」

カエル
「オレがオレのまんまで引いた卦じゃなきゃ意味ないんだよ。」

運び屋のガイコツ
「ものすごく強い自我を感じる。もっと自然と一体になろうとした方がいいと思うよ。パンクロッカーかよ。」

カエル
「大昔に自然や世の中の仕組みを突き付けられて自分達の小ささを思い知らされた人間の中にも我の強いヤツがいたんだろ。だから大切な事を卦辞と爻辞で遺した、言葉で遺したんだ。占いが出来ても出来なくても、言葉の方がみんなに伝わると思ったからだ。」

運び屋のガイコツ
「言ってる事はカッコいいんだけどずっとどうぶつの森やりながら言ってんだよなコイツ。目も合わせねえ。」

運び屋のガイコツ
「面白い?」

カエル
「面白いよ。」

運び屋のガイコツ
「今度から自分でサイコロ振るよ。要はそれが流儀なんだろ?」

カエル
「流儀ってわけじゃないよ。納得したいだけだよ。」

運び屋のガイコツ
「なにに?」

カエル
「色々。」

運び屋のガイコツ
「まあいいや、ありがとうね、また来るよ。」

カエル
「またね。」



地天泰
ちてんたい


内卦が乾、外卦が坤のどっしりしたイメージの卦。天地が交わり、万物が通ずる。

十二消長卦では旧暦で正月、新暦で二月。

乱れていた世の中が平和になり、全ての人々が幸せに暮らせる時代がやってきた。要はおめでたい卦。

出るとホッとする卦。
天が下で地が上にあるのになんでおめでたい卦なのかと言うと、天の恵みは地に降り注ぎ、それを受けて地上の生物は育っていく。その様が天地が交わり安泰だとの事。

天と地だとスケールがデカ過ぎてぼんやりしたイメージだけど、会社とか家族に当てはめるとしっくりくる。

縁起の良い卦なので易者さんのシンボルマークにもなっているみたい。でも「変化」がテーマの易で一つの卦をシンボルにするのはどうかとも個人的には思う。

陰爻と陽爻が三本ずつの「三陰三陽」の卦。異性に縁があるって。


卦辞

泰。小往き大来たる。
吉にして亨る。

たい。しょうゆき だいきたる。
きちにしてとおる。

小さなものが去り、大きなものが来る。
吉にして亨る。

何事もスムーズに事が運ぶ。こんな時期がいつまでも続けばいいのに。


爻辞

乱れたものが整うという事は整っていたものが乱れ始めるという事。
この平和な時期をどれだけ継続させられるかの心構え。
基本上から目線。

やっぱりというかどうしても強い方から歩み寄る形に。


初爻

茅を抜くに茹たり。
其の彙を以てす。征けば吉。

ちがやをぬくにじょたり。
そのたぐいをもってす。ゆけばきち。

茅(ちがや、っていう草)を抜くと他の茅もぞろぞろ抜けて来る。行けば吉。

優秀だが身分の低い人間を一人登用すると、その仲間も一緒に登用される。
優秀な人間がちゃんと上に上がって仕切ってくれる世の中こそ平和、安穏の第一歩。

類は友を呼ぶ。

芋づる式、入れ食い、確率変動。あるいはその引き金。吉。


二爻

荒を包ぬ。馮河を用う。遐遺せず。
朋亡ぶれば中行に尚うことを得。

こうをかぬ。ひょうがをもちう。かいせず。
ともほろぶればちゅうこうにあうことをう。

泰平の世を維持するのに必要なのは、悪人を許して包む寛容さ、大河を渡る勇気、遠く細かいところまで目を行き渡らせる配慮、そして分け隔てなく平等に扱う公平さ。

THE 理想論。

平和ってそれだけ大変で当たり前じゃないよって事。自分一人ではどうしようもない事だけど、せめて身近な人にはね。

自分の運勢は好調だが、周囲の環境、人間に足を引っ張られがち。


三爻

平にして陂かざる无く、
往きて復らざる无し。
艱貞なれば咎无し。
恤うる勿れ。

其れ孚ならば食に于て福有り。

たいらにしてかたむかざるなく、
ゆきてかえらざるなし。
かんていなればとがなし。
うれうるなかれ。

それまことならばしょくにおいてふくあり。

平らなものもいずれは傾く。
いなくなったものもいつか帰ってくる。
辛く苦しい時期でも、正しい道を守っていれば、お咎め無し。
大丈夫。誠の心があればどんな境遇でも幸福でいられる。

栄枯盛衰。盛者必衰。ずーっとそれの繰り返し。

衰運の前兆。運勢は好調だが、油断しないで


四爻

翩翩富まず。其の隣を以てす。
戒めずして以て孚あり。

へんへんとまず。そのとなりをもってす。
いましめずしてもってまことあり。

チョウチョがヒラヒラと飛ぶように、自分の身分の高さをひけらかさず、低い身分の者に教えを受ける。

そんな元請けの現場監督いたなあ。いい人達だったな。

衰運開始。進むは不利かも。欲をかかずに周りの人のサポートを。


五爻

帝乙妹を帰がしむ。
以て祉あり元吉。

ていおつ まいをとつがしむ。
もってさいわいありげんきつ。

王様が自分の娘を臣下に嫁がせる。
そんな信頼関係を部下と築けたら、元いに吉。

自分が元いに吉というわけではなくて、ピークが過ぎたら次の世代の事を考える。

運勢は下り坂。積極的な行動は控えて。


上爻

城隍に復る。師を用うる勿れ。
邑より命を告ぐ。
貞なるも吝。

しろ からほりにかえる。しをもちうるなかれ。
むらよりめいをつぐ。
ていなるもりん。

城が崩れて空堀に返る。武力でどうにかなる問題じゃない。
王の命令すら誰にも届かない。

ヘルタースケルター。
こうなる前になんとかするべきだったのに。

衰運の極。泰平の果て。おとなしくするしかない。

でも忘れちゃいけないのは、平らなものはいずれ傾き、傾いたものもいずれ元に戻るって事。


コメントを残す