10 天沢履

10 てんたくり


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

運び屋のガイコツ
「お疲れさん、調子はどう?」

カエル
「変わりないよ、そっちは?」

運び屋のガイコツ
「ちょっとヒマになっちったよ。」

カエル
「最初はそんなもんだよ。」

茶番をトばす。

運び屋のガイコツ
「そうだよね、まだこれからだ。」

カエル
「こないだは配達ありがとうね。」

運び屋のガイコツ
「いいって、お安い御用だよ。」

カエル
「またお願いしてもいい?今度はちゃんとお金払うからさ。」

運び屋のガイコツ
「いらねえよ。ココに来たついでだし。お構いなくよ。」

カエル
「でもオレも一応オトナだしさ、そういうトコはちゃんとしておきたいんだ。」

運び屋のガイコツ
「どうしてもか?

カエル
「どうしてもだ。」

運び屋のガイコツ
「わかったよ。今度から格安で引き受けるよ。」

カエル
「ありがとう。」

運び屋のガイコツ
「あのさ。」

カエル
「うん。

運び屋のガイコツ
「お化けっていると思う?」

カエル
「見える人には見えるんじゃない?見たことないからわからんけど。」

カエル
「しゃべるガイコツなら知り合いにいるよ。」

運び屋のガイコツ
「実はこないださ、」

カエル
「うん。」

運び屋のガイコツ
「夜中に山道を走っててさ、」

カエル
「そんな遅くまで働いてんの?」

運び屋のガイコツ
「いや、趣味で。」

カエル
「走り屋かよ。」

運び屋のガイコツ
「ちがうよ、夜道を車で走るのが好きなの。」

カエル
「一人で?」

運び屋のガイコツ
「一人で。」

カエル
「ふーん。(キモ)」

運び屋のガイコツ
「でさ、山道下ってふもとに踏み切りがあるんだけどさ、」

カエル
「うん。」

運び屋のガイコツ
「その踏み切りを挟んで向こう側に女の人がいてさ、」

カエル
「うん。」

運び屋のガイコツ
「こんな夜中に変わった人もいるもんだなと思うわけよ。」

カエル
「確かに。そんな夜中に変わった人もいるなって思った。」

運び屋のガイコツ
「でしょ?そんで電車が来るまでの数十秒間ソイツと差し向かいよ。」

カエル
「こっち見てたのか?」

運び屋のガイコツ
「いや、オレがあんまり見てない。視界の隅っこに追いやってた。」

運び屋のガイコツ
「で、そうこうしてる内に電車が来てさ、」

カエル
「うん。」

運び屋のガイコツ
「その電車も田舎の電車だから二両しかなくてすぐ行っちゃったのよ。」

カエル
「うん。(短か)」

運び屋のガイコツ
「で、電車行ったから車出そうと思ったらその女の人いないの。」

カエル
「ホントかよ、よく探したのか?」

運び屋のガイコツ
「探さない。怖いからササっと踏み切り渡って帰った。」

カエル
「途中で歩いてなかったの?」

運び屋のガイコツ
「歩いてなかったと思う。」

カエル
「後部座席に乗ってなかった?」

運び屋のガイコツ
「乗ってたらイヤだったから家に着くまでルームミラー見なかった。」

カエル
「電車に飛び乗ったんじゃない?」

運び屋のガイコツ
「女よ?スティーブンセガールじゃないのよ?」

カエル
「ホントかよ。」

運び屋のガイコツ
「で、取りつかれたかも知れないんだ。最近肩コリがひどいもの。」

カエル
「肩コリなんて巨乳の人しかならないんじゃないの?」

運び屋のガイコツ
「だから巨乳じゃないのに何でこんなに肩がこるのかと思ってさ。」

運び屋のガイコツ
「ねえ、除霊とかって出来る?」

カエル
「出来るわけねえだろ。そういうのは視えたり感じたりしてるモン同士でやるんだよ。」

運び屋のガイコツ
「視えないの?」

カエル
「見たことないモン。お化けとか幽霊とか、しゃべるガイコツなら知り合いにいるけど。」

運び屋のガイコツ
「オレだって初めて見たよ、おばけなんて。」

カエル
「とにかく占いと霊視鑑定とか除霊は違うよ。悪いけど役に立てそうにないな。」

運び屋のガイコツ
「そかー。他当たってみるかな。」

カエル
「そだね。オレも探してみるよ。」

運び屋のガイコツ
「ウソだと思ってるでしょ?」

カエル
「思ってないよ。半分は。」

カエル
「足が速い人もいればおっぱいが大きい人もいるしさ、霊が視えて除霊してくれる人もきっといるよ。」

運び屋のガイコツ
「占い得意な人もね。」

カエル
「下手で悪かったな。」

運び屋のガイコツ
「名うてのゴーストスイーパーがどこにいるか占ってよ。」

カエル
「いいよ。はい、天沢履。変爻は無し。」

運び屋のガイコツ
「スピードだけはすごい早いんだよな。」

カエル
「履。虎の尾を履む。人を咥わず。亨る。」

運び屋のガイコツ
「なんだって?」

カエル
「虎のしっぽを踏んじゃったけど噛まれないで済んだってよ。」

運び屋のガイコツ
「踏んじゃうの?虎のしっぽ?不吉な感じ?」

カエル
「危ないね。でもこの卦は礼儀とか礼節とかの大切さを説いてる。」

カエル
「行儀よくしてればちゃんと解決してくれるよ。」

運び屋のガイコツ
「なんか持ってった方がいい?」

カエル
「持ってった方がいいね。」

運び屋のガイコツ
「スーツ着てった方がいいかな?」

カエル
「そういう上っ面の礼儀だけじゃなくてさ、正直に、誠実にだよ。」

運び屋のガイコツ
「肝心の居場所は?」

カエル
「西、か西北。」

運び屋のガイコツ
「確かお寺があったな。」

カエル
「ソコだわ。」

運び屋のガイコツ
「行ってくる。」

カエル
「行ってらっしゃい。思い過ごしだと思うけどね。」

運び屋のガイコツ
「ありがとう、また来るよ。」

カエル
「またね。」



天沢履
てんたくり


履は「踏む」。
先人の遺した正しい道を履み歩くように強い者(乾)の後ろを弱い者(兌)がついて歩く。

雪道では前の車がつけた轍に沿って走るのがセオリー。
過去に一度、その轍が側溝まで続いてて二の舞を演じた事があったけど前の車を恨んではいけない。

失敗は誰にでもある。


卦辞

履。虎の尾を履む。人を咥わず。
亨る。

り。とらの おをふむ。ひとをくらわず。
とおる。

虎の尾を踏んだが噛みつかれない。
亨る。

危険信号。
何か失敗しがち。
順を踏んで、慎重に事を運べ。


爻辞

礼儀、礼節、正々堂々。
礼儀正しいって事がどれだけトラブルを回避出来るか思い知る。

そもそももう虎の尻尾は踏んじゃってるのであんまり吉とか言われてもうれしくない。


初爻

素履。往きて咎无し。

そり。ゆきてとがなし。

ありのままの自分で往く。
咎なし。

ありのままで、飾らない事。
正直って事こそがそもそも礼儀なので文句言われる筋合い無い。

いつも通りの自分を出せれば、それがベスト。


二爻

道を履む。担担。幽人貞吉。

みちをふむ。たんたん。ゆうじんていきつ。

幽人(世捨て人、隠者)のように欲を捨てて平坦な道を歩けば吉。

侘び寂び?

あんまりリスクを負っちゃダメな時。
静かにしておく。


三爻

眇能く視るとし、跛能く履むとす。
虎の尾を履めば人を咥う。凶。
武人大君たらんとす。

すがめ よくみるとし、あしなえ よくふむとす。
とらのおをふめばひとをくらう。きょう。
ぶじんたいくんたらんとす。

目が悪いのによく見える振りをし、
足が悪いのに歩ける振りをする。
虎の尾を履み、食われる。凶。
武人が大君の振りをする。

出来ない事は出来ないって言おう。
それだけの話。

実力以上の事をしようとするか、させられる時。
危なっかしい。
上手く行ってそうでも注意。


四爻

虎の尾を履む。愬愬たれば終に吉。

とらのおをふむ。さくさくたればついにきち。

虎の尾を履む。
恐れ慎んでいるので終に吉。

危険の中。
慎重に慎重を重ねて最後の最後まで油断するな。


五爻

履むことを夬む。
貞しけれども厲うし。

ふむことをさだむ。
ただしけれどもあやうし。

決断する。
貞しいが危うい。

大事な決断をする時。でもリスクも有り。
独断はダメ、周りの人の意見も聞く。


上爻

履むことを視て祥を考う。
其れ旋れば元吉。

ふむことをみてしょうをかんがう。
それめぐればげんきつ。

自分がやってきた事を振り返る。
正しかったら守り、間違っていたなら正す。
それを繰り返していければ、元いに吉。

やってるつもりではいる。

努力が報われる時。
心当たりがあるなら大吉。
または過去の過ちを繰り返す時。
心当たりがあるならお生憎様。


コメントを残す