08 水地比

08 すいちひ


かえるのうた

カエル
「いらっしゃい。」

無職のガイコツ
「おつかれ。」

カエル
「おつかれ。」

カエル
「今日もこれから仕事?」

茶番をトばす。

無職のガイコツ
「いや、クビになった。」

カエル
「なんで?」

無職のガイコツ
「客がいるのに寝てた。」

カエル
「なかなかやるじゃん。」

無職のガイコツ
「カウンター越しに起こされた。」

カエル
「立ったままでか、まるでウォーズマンみたいだ。」

カエル
「そのお客さんに通報されたの?」

無職のガイコツ
「いや、その客がマネージャーだった。」

カエル
「なかなかやるじゃん。」

無職のガイコツ
「こっちは慣れない夜勤で寝ないで働いてんのによ。」

カエル
「寝てっけどね。仕事中に。」

無職のガイコツ
「客が少ねえの分かってんなら夜中なんか店閉めとけっつんだよ。」

カエル
「いつ行っても開いてるからコンビニなんだけどね。」

無職のガイコツ
「だいたい夜中に客を装ってお偉いさんが来るって事は誰かがチクったって事じゃねえかよ。」

カエル
「カメラだろ。今なんでもネットにつながってるから。」

カエル
「偶然見られてマークされてたんだよ。」

無職のガイコツ
「いいや違うね。絶対に誰かが密告しやがったんだぜ、そうに違いないぜ。」

カエル
「すげえキレてんじゃん。」

無職のガイコツ
「また食いっぱぐれちったよ。もう貯金もちょっとしか残ってないのによ。」

カエル
「貯金が無くなったのはパチンコ負けたり、余裕かまして金貸したりしてっからだろ。」

無職のガイコツ
「まあ、おかげで寝つきは良くなったからいいけどさ。」

カエル
「全然よくねえよ。」

カエル
「で、これからどうすんのよ?」

無職のガイコツ
「なんかない?仕事?」

カエル
「選ばなきゃいくらでも。」

無職のガイコツ
「ちなみにキミはなんの仕事してんの?」

カエル
「カサとか雨具とかの販売と修理やってんだ。この町ずっと雨降ってるからさ。」

無職のガイコツ
「占いしながら?」

カエル
「占いは趣味でついでだよ。ここで待ってる時間の方が長いから。」

無職のガイコツ
「商品はドコ?言ってくれればなんか買ったのに。」

カエル
「委託販売なの。ここで作ったり直したりして、別のお店に置かせてもらってるの。」

無職のガイコツ
「ふーん。儲かるの?それ?」

カエル
「全然。でも食ってく分には困らないし、何より気が楽だしさ。」

無職のガイコツ
「でもすげえね。自分で商売して、生計立てて。」

カエル
「大した事ないよ。」

無職のガイコツ
「オレもなんか自分で商売しよかな?」

カエル
「キミはなんかそっちの方がいいかもね。カサの作り方教えようか?」

無職のガイコツ
「いや、いいよ。じっとしてるのは性に合わないから。」

カエル
「そか。やりたい仕事はあるの?生活のためだけじゃなくて具体的な進路みたいなのはないの?」

無職のガイコツ
「パチプロ。」

カエル
「それ以外で。」

無職のガイコツ
「今考えてる。」

カエル
「出た。水地比の初爻。」

無職のガイコツ
「勝手に占うなよ。」

カエル
「比。吉。
筮に原ね、元永貞にして咎无し。
寧からざるもの方に来る。後夫は凶。」

カエル
「初爻だから、孚有りて之に比す。咎无し。
孚有りて缶に盈つれば、終に来たりて他の吉有り。」

カエル
「なるほどね。」

無職のガイコツ
「なに占ったの?

カエル
「教えない。初爻だから屯か、比は屯に往く。」

無職のガイコツ
「わけわかんねえ。」

カエル
「人と仲良くな。」

無職のガイコツ
「は?」

カエル
「幸運は人が運んでくるモンだからな。」

無職のガイコツ
「運んでくるもの?」

カエル
「人と仲良くするってそれなりに大変だけど、それが自分の糧になる時がきっと来るからな。」

無職のガイコツ
「占い師みたいだ。」

カエル
「やめてよ。」

無職のガイコツ
「ありがとう、またくるよ。」

カエル
「またね。」



水地比
すいちひ


「比」という字は人と人とが仲良く並んでる形。「したしむ」という意味。親愛とか助け合いの卦。「一陽五陰」の卦。

地上を流れる命の川。人々はその川を共有し、守り、コミュニティを作る。

川が人を集め、人の文明は始まる。

人はみんな違う。
生まれ育った場所や、食べ物や、影響受けた人や、こなしてきた仕事や、読んだ本が違ったらそれはもう別の生き物だろ。

人類みな兄弟とか言ってるから逆にややこしくなる。
人がそれぞれ違うから、自分の家族とか、友達とか、恋人とか、仕事仲間に価値が出てくる。

自分が仲良く出来た人、自分と仲良くしてくれる人を当たり前に思うな。


卦辞

比。吉。
筮に原ね、元永貞にして咎无し。
寧からざるもの方に来る。後夫は凶。

ひ。きち。
ぜいにたずね、げんえいていにしてとがなし。
やすからざるものまさにくる。こうふはきょう。

人と仲良くしようとする事が幸運に向かおうとする事。
誠意をもって人と接しようとすれば、今まで親しくなかった人も仲良くしてくれる。
親しくするのが遅くなればなるほど凶。凶というか不利。

耳が痛い、書いてて辛い。
人付き合い苦手な人でも、親しくなりたい気持ちだけは伝えよう。


爻辞

人と人とのつながりも大事だけれど、手当たり次第に誰とでも仲良くなっていいわけでもないよねって話。


初爻

孚有りて之に比す。咎无し。
孚有りて缶に盈つれば、

終に来たりて他の吉有り。

まことありてこれにひす。とがなし。
まことありてふにみつれば、

ついにきたりてたのきちあり。

真心込めて人と親しむ。
器一杯の真心があれば、思いがけないツキが舞い込む。吉。

一生懸命頑張って、例え届かなくても頑張ってる姿を見てくれる人はいる。


二爻

之に比するに内よりす。貞吉。

これにひするにうちよりす。ていきつ。

自分から進んで親しむ。
真心が正しいなら吉。

仲良くなりたい人に自分から声をかけてみる。
打算や下心無く、一途に、本心で。


三爻

之に比するに人に匪ず。

これにひするにひとにあらず。

親しくなろうとする人が悪人。

人にあらずは言い過ぎだけど、相手の本音を見極めて。


四爻

外、之に比す。貞吉。

そと、これにひす。ていきつ。

外側の人と親しもうとする。
正しい心なら吉。

ここで言う外側の人とは、次の五爻で出てくる人。

本当に親しくしなきゃいけない人はすぐ近くにいるよって「MONGOL800」の小さな恋の歌みたいな解釈をしたい。


五爻

比を顕かにす。
王、三駆を用いて前禽を失う。
邑人誡めず。吉。

ひをあきらかにす。
おう、さんくをもちいてぜんきんをうしなう。
ゆうじんいましめず。きち。

比の道を明らかにする。
王が狩りをするとき獲物を
四方からでは無く三方から追い詰め、
空いてる一方から逃げた獲物は追わない。
そのことで民が苦しむ事は無い。吉。

来るもの拒まず去るもの追わず。
みんながみんな自分に好かれるために今まで生きてきたわけじゃない。ウマが合わない人、自分から離れて行く人にも寛大に。そういうトコも周りは見てる。


上爻

之に比するに首无し。凶。

これにひするに しゅなし。きょう。

親しくしようにも自分に人徳が無い。凶。

人と親しむ前に自分を磨いて。
一人でいなきゃいけない時に、例え一人ででも何をするかが大事。いつか親しくなりたい人に会うときに、ちゃんと胸張って会えるように。


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