01 けんいてん
かえるのうた
カエル
「いらっしゃい。」
工場のガイコツ
「ちょっと占って欲しいんだけどさ。」
カエル
「女しか占いたくないんだよね、ホントは。」
工場のガイコツ
「なんで?」
カエル
「いや、なんとなく。」
工場のガイコツ
「なんだよそれ、いいじゃん、占ってよ。」
カエル
「いいよ。何占うの?」
工場のガイコツ
「職場の上司と上手くいってなくてさ、」
カエル
「うん。」
工場のガイコツ
「いっそ転職しようかなってさ、」
カエル
「うん。」
工場のガイコツ
「思ってるんだけど中々いい仕事ないのよ。」
カエル
「仕事しながら探してんの?」
工場のガイコツ
「うん。」
カエル
「嫌々仕事行きながら探してんの?」
工場のガイコツ
「うん。」
カエル
「ふーん、辞めないほうがいいと思うけどね。」
客のガイコツ
「そんなお告げか?」
カエル
「まだ占ってないよ。」
工場のガイコツ
「そうか。」
カエル
「それに、神様のお告げとか天の声とか。分かんないしね。ジャンル違いだ。」
工場のガイコツ
「そういうもん?」
カエル
「多分ね。」
工場のガイコツ
「まあいいや、なんでもいいから占ってくれよ。」
カエル
「なんでもいいが一番困るんだよ。」
工場のガイコツ
「良く言われる。」
カエル
「オレも。
カエル
「でも今の職場に残って上司と上手くやって行きたいのか、辞めてからどんな仕事したいんだ、とかは決めないとさ。」
工場のガイコツ
「じゃあ、辞めてからで。」
カエル
「どんな仕事がしたいの?」
工場のガイコツ
「なんでもいい。」
カエル
「なんでもいいが一番困るんだよ。」
工場のガイコツ
「とにかく他人のペースで生きるのに疲れたんだよ。」
カエル
「しばらくゆっくりしたいって事?」
工場のガイコツ
「いや、若干焦ってる。」
カエル
「うそつけ。」
工場のガイコツ
「ホントだよ。じゃあ、仕事辞めてから素敵な事が見つかるかどうか占ってよ。」
カエル
「まあそれでいいか。」
工場のガイコツ
「うん。」
カエル
「出たよ、
乾爲天、変爻は四爻。
工場のガイコツ
「速えなオイ?」
カエル
「大した事ないよ。」
工場のガイコツ
「適当にやってない?」
カエル
「やってないよ。」
工場のガイコツ
「で、どんなの?」
カエル
「いいよ、結構。」
カエル
「乾。元いに亨る。貞に利ろし。」
工場のガイコツ
「ぜんぜん分からん。」
カエル「乾は小畜に之く。」
工場のガイコツ
「ぜんぜん分からん。」
カエル
「辞めるのは正解みたい。」
工場のガイコツ
「そうなの?」
カエル
「満を持して辞める感じだわ。」
カエル
「辞め時としてはこれ以上ないタイミングだってよ。」
工場のガイコツ
「ふーん。」
カエル
「あと、この卦は君子とかリーダーとかそういう意味があるからさ、なんかこう、人を引っ張って行くというか、人の役に立つことをやった方がいいよ。」
工場のガイコツ
「苦手かも。それだけ?」
カエル
「下から四番目の棒の横に〇がついてるでしょ?」
工場のガイコツ
「うん。」
カエル
「ついてるでしょ?って言うか今オレが付けたんだけどさ。」
工場のガイコツ
「うん。」
カエル
「今現在は乾なんだけど将来的にこっちに流れるよって。」
工場のガイコツ
「なるほど。で、将来的にはどうなの?」
カエル
「ちょっと待ってね、モタモタ」
工場のガイコツ
「何モタモタしてんの?」
カエル
「ページがめくりづらいんだよ。」
工場のガイコツ
「付箋をつけろよ。」
カエル
「あった、風天小畜。」
カエル
「小畜。亨る。密雲雨ふらず。我西郊よりす。」
工場のガイコツ
「ぜんぜん分からん。」
カエル
「オレも。
カエル
「でも一時停止とか、小さな蓄積とかって意味もあるから、なんか面白い事探す前に金貯めたりとか資格取ったりとかしたほうがいいかも。」
工場のガイコツ
「筋トレとか?」
カエル
「そうそう。」
工場のガイコツ
「資格の勉強とか?」
カエル
「そうそう。」
工場のガイコツ
「分かった、退職金は貰えるはずだからこれから辞めるって言ってくるわ。」
カエル
「止めないぜ。」
工場のガイコツ
「そういえばさ。」
カエル
「ん?」
工場のガイコツ
「なんで男は占いたくないんだ?
カエル
「ホントはね、占いなんかアテにするようになったら終わりって言っちゃうような男に憧れてるからだよ。」
工場のガイコツ
「なるほどね、ありがとう。またくるわ。」
カエル
「またね。」
乾爲天
けんいてん
天は宇宙。果てしなく昇り進み、光の速度を超えて膨張し続ける無限大のアレ。
天は空。見上げれば確かにそこに在るが、触れようとしても実体は無く、意識しないと忘れてしまいそうなほど不確か。
天は権力。地上の全ての生物に分け隔てなく恵みを与え、分け隔てなく奪う支配の象徴。
そんな八純卦の乾が二つ重なった陽気全開の卦。剛健にして盛大。文句無く強大。そんな絵に書いたように尊大なこの卦の本質は、次の「坤為地」とセットで考えると見えてくる。
天の恵みが無ければ地上のあらゆる生命は生きていけないが、地上に生命が存在しなければ、天もまたその存在意義を失うのだ。
それはどんなにスケールが変わっても決して変わることの無い必然性。自然も、世界も、国も、企業も、個人でさえも。
人々が大勢集まってもそれをまとめ上げ、取り仕切るリーダーがいないのなら、それはただのいっぱい集まった人々。烏合の衆。
逆にリーダーばかり集まっても、足の引っ張り合い、プライドの潰し合いばかりで何も進まない。
八純卦の一つにして十二消息卦の一つ。新暦で五月を表す。
卦辞
乾。元いに亨る。貞に利ろし。
けん。おおいにとおる。ていによろし。
何事も盛大に、思い通りに進む。
運も実力も兼ね備え、様々な事が自分を中心に回るような全能感。積極的に、能動的に行動するべき時。
ただ、六十四卦全てに言える事だけど、始まりがあれば終わりもある。乾の勢いもいずれは衰え、積み上げた物もいずれは崩れる。
貞に利ろしとはこの乾という卦に殉じろという事。乾の勢いに振り回されるなと言う事。
上昇している時にはすでに着地点を見据えてろって事。
爻辞
地中に潜んでいた龍が地上に現れて、空を昇り、昇り過ぎて最後には墜ちていく物語形式。
乾為天自体は陽気に満ち満ちた素晴らしい卦だけど、爻辞の内容はなんかピカレスクロマンぽい。
スカーフェイスとか、ワンピースの黒ひげとか、ザ・ハイロウズのミサイルマンのイメージ。
手段を選べ、驕るな、慢心するなってメッセージ。
初爻
潜龍用うる勿れ。
せんりゅう もちうるなかれ。
地中に潜んでる龍。未熟なのでまだ用いてはならない。
龍は龍だけどまだ地中に潜んでる状態。出番はまだ。
でも龍は龍なので期待してもよろし。
二爻
見龍田に在り。大人を見るに利ろし。
けんりゅう でんにあり。たいじんをみるによろし。
地上に出てきた龍。
まだまだ未熟者なので大人を見習うと良い。
龍としての頭角を現し始めた段階。
大人(偉い人、優秀な人)を見習って色んな事を吸収しよう。
ここで言う大人は、五爻で出てくる完全体の龍。見習うべき大人がいなくても、状況や展開から学べる事があるはず。
三爻
君子終日乾乾。
夕まで惕若たれば、厲うけれど咎无し。
くんし しゅうじつけんけん。
ゆうべまでてきじゃくたれば、あやうけれど とがなし。
君子は朝から晩まで努力を怠らない。
一日が終わったあともその日一日を振り返って反省を怠らなければ、多少危ういが咎められない。
これは龍を見上げる人間の視点。
天の龍(偉い人や大企業。自分より上のステージにいる人達になるか)が、上の方でなんかゴチャゴチャやってる様子。
自分がどうこう出来るもんでもないから、せめて私生活の基盤は固めておく。
四爻
或いは躍りて淵に在り。咎无し。
あるいはおどりてふちにあり。とがなし。
川の淵に躍り出た龍。足場は不安だが、咎めは受けない。
足場は不安定。でも実力もあり、流れも良い。勢いでなんとかなる。
五爻
飛龍天に在り。大人を見るに利ろし。
ひりゅう てんにあり。たいじんをみるによろし。
成熟した龍が遂に天へと昇る。でも慢心する事なく大人を見習う。
大人(もっと偉い人、優秀な部下)を見習ったうえで、大物を振る舞う事。
その勢いを出来れば周りの人の役に立つ事に。
上爻
亢龍悔い有り。
こうりゅう くいあり。
昇り過ぎた龍。後は落ちるだけ。
威張って、驕り昂って、結果このザマ。まあ落ち目なのがわかれば、マイナスは減らせるから。
用爻
羣龍見るに首无し。吉。
ぐんりゅうみるにかしらなし。きち。
龍の群れを見る、でも頭がない。
吉。
自分も含めて周り全てが龍。
みんながオラついてる中でも、自分だけは力(頭)を隠して謙虚に、静かに。
足の引っ張り合いなんかしてるヒマは無い。自分は自分の道を行くだけ。
※用爻=乾為天と坤為地にだけある特別な爻。六十四卦全てに共通する命題なんだそう。
本噬法や中噬法で初爻から上爻全部老陽(老陰)の場合に用いるらしい。